先日、美容院で雑誌をパラパラめくっていると、おいしい食べ物屋さん特集が目に付いた。
最近はテレビでも、雑誌でもおいしい食べ物屋さん特集がやたら多く、おいしそうな料理に、セレブやお笑い芸人が舌鼓を打つ場面を見せられる。この特集記事では、様々な高級店が見開きいっぱいに紹介されている中、よく行く町の老舗がちょっとした囲み記事ながらも紹介されていた。よし、これは行かねばなるまいと、デジカメで当の記事を写真に収めたものの、しばらくそのことを忘れていた。
行事の連続で忙しかった時期も終わり、整理をしていると、この写真が出てきた。あ、そうだとばかり、さっそくその夜に行ってみた。夏なのに黒服に身を固め、頭をツンツンに尖らせた呼び込みのお兄さんと、酔っ払いを見つけてはマッサージを勧める外国人で道が埋め尽くされている中、ひっそりとその店はたたずんでいた。暖簾をくぐってみると、映画にも出てきそうなカウンターとボックス席の和風のたたずまい。粋な板前服のご主人に、お運びさんとお鍋番の女性は割烹着が良く似合う。
もう店じまいの時間も近かったのだろう。他に客はカウンターに一組しかいなく、少々わくわく感をそがれたものの、さっそくチューハイを頼み、お鍋を覗き込んで、『大根、つぶ貝、スジ』を注文した。飲み物が出てくるまで、ずっと眺めていたが、あれっ、色が濃いなと思った。お待ちどお様、と運ばれたチューハイにレモンを絞って一人で乾杯し、まず大根を割って少々のからしをつけ、口にしたら案の定、30年前、学生時代に経験した関東の味付けであった。
この街には老舗の鰻屋さんというものもある。それは大きく立派な店構えで、あるときテレビに取り上げられていた。よく知られた料理名人とお笑いコンビがその店を訪ねるという設定だった。しきりにおいしい、うまい、を連発する芸人ふたりに挟まれた名人は、タレのからみ具合、鰻の色、ご飯の色に感心はしていたものの、ついに最後までおいしいとは言わなかった。いまや観光名所としてバスが乗りつけたり、ものめずらしさによその町から食べに来る人はいるものの、地元の人は寄り付かない店となっているらしい。
製造業界と同じだと思った。
新製品を世に送り出し、大いに業績を上げて成長し、やがて、その社員バッジをつけていることがステータスとなる。そのころになると、内部の空気が守りに転じ、成長の芽は次々に摘み取られていく。平家物語が謳った人間、あるいはそれが作る組織の性(さが)なのである。芥川龍之介が『蜘蛛の糸』で指摘したように、私達はそれを持って生まれた悲しい生き物と言えよう。
今の事務所から歩いて4分くらいのところに居酒屋さんが昼定食も出している。連日大入り満員である。時間帯を外して、そこに通うようになった。8種類くらいある選択肢のうち、決まって食べるのはせいぜい好みの3種類である。しかし時折、今までになかったメニューが並んでいることがある。注文してみて当たることが半分、後は外れ。しかし、その挑戦し続ける姿勢が常に満員の秘訣だと思った。
飯野謙次いいのけんじ
NPO失敗学会副会長
1959年大阪生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、General Electric原子力発電部門へ入社。その後、スタンフォード大で機械工学・情報工学博士号取得し、Ricoh Corp.へ…
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