日本のスポーツに活! Vol.4

マーティ・キーナート

<プロフィール>
マーティ・キーナート
1946年7月19日生まれ。
ロサンジェルス出身
スポーツジャーナリスト
在日30余年、メジャーリーグ解説でもお馴染みのスポーツジャーナリスト。その鋭くユニークな視点で多くのスポーツファンを魅了する。また、流暢な日本語でさまざまな角度からみた日本社会、日本気質の違い、国際性についての講演も数多く行っている。明るく志の高い”サムライ気質”の人物である。

日本のスポーツが本当の意味でエキサイティングになって欲しいと願う。
マーティさんからの熱きメッセージ。
ワクワク、ドキドキ、しながら味わえるマーティ・キーナートの世界。
日本のプロ野球は本当にこのまま でいいの? 日本のスポーツ界はどこか変!
など心の片隅に大小を問わず疑問を抱えている日本人は多いはず。
さあ、そんな欲求不満をマーティさんが一掃してくれます。
老若男女を問わず、もう一度日本のスポーツ界について真剣に 考え直してみよう!


『日本の野球は特大級の“タイムリー・エラー”?』

 日本の野球中継では毎日のようにアナウンサーが、今、誰それは“タイムリー・エラー”をしたと言う。英語を母国語とする人間にとってはいつも驚かされる言葉だが、アナウンサーの誰ひとりとして、自分がおかしいほど意味の通らないことを言っていることに気づいている様子はなく、しょっちゅう使われるこの表現を聞いているほうもなんとも思っていないようだ。知らない人にとってはきわめて自然な表現らしい。

 これは日本の野球を見事に象徴している。まちがっていることが山のようにあるのに、誰も気がつかないか、気にしていない。誤りを放置しておく人間も、それに堪えている人間も、日本の最高レベルの野球選手を追いつめてしまうことにかけては等しく罪がある。このところ、大リーグで活躍できるかもしれないと心の底で思っている選手は、実際ひとりの例外もなく日本の球界を離れたがっている――それも必死で。

 “タイムリー”は“絶妙のタイミングで”ということだ。どうして、非常に悪いこと――エラー――が“絶妙のタイミングで”起こりうるのだろう。ありえない表現である。絶妙のタイミングのエラーがあるのであれば、絶妙のタイミングで引く風邪もあれば、絶妙のタイミングで起きる盲腸炎や、心臓麻痺もあるだろう。

 絶妙のタイミングで死ぬことさえあるかもしれない。しかし“タイムリー・エラー”と言うほうも、そのことばを聞くほうも、おかしいとは考えていないようだ。だからこの滑稽な表現は消えようもない。日本の野球には根本的に理不尽なことがいくつもあるけれど、それを誰が知っていて、誰が気にしているのだろう。 日本で野球のテレビ中継が始まって間もない頃から、各局は試合が始まって数イニング経った通常七時から放送を始め、試合経過がどうだろうと――同点で二死満塁、カウントがツー・スリーだろうと――九時から九時半には番組を切り上げることになっている。

 これには、この国に来た外国人は一様に驚く。日本人は本を買って第一章と終章を飛ばして読むのだろうか。十五分遅れで映画を観始めて、十五分まえに映画館を出るだろうか。野球の試合を四回から八回まで見てなにがエキサイテイングなのか? こうした野球界の“タイムリー・エラー”は日本のスポーツ界の“エラー”の氷山のほんの一角である。

イチロー、佐々木、野茂、そして石井といった優秀な日本選手たちは多くの理由で日本の球界を去った。大リーグのスター選手の収入は、日本のチームが提供できる、あるいは提供する気のある最高額の三倍から六倍にあたる。大リーグのスタジアムはすべて記録的な早さで改築され、野球だけのために、伝統に現代的な要素を取り入れた新しい設備が、地域の特色を生かしながら建設されている。大リーグの試合の舞台は選手にとっても、ファンにとっても美しく、愉しく、興味の尽きない場所だ。そしてなによりも観客と選手が一体となってベースボールを楽しむ場所だ。

 日本の野球に大いに希望があると言えたらどんなにいいだろう。経営陣は若返り、もっとスポーツの経験を持った人間になる。監督は単に有名人だからではなく、優秀な指導者だから選ばれる。審判やトレーナーには本物のプロを育てるための学校ができる。選手たちは自分の決断により敬意を払われ、子供扱いはされないようになる。選手の怪我を減らすのに役立ち、観客の眼にもうれしい本物の芝生も含めて、設備が改善される。十二球団は力を合わせて収入を増やし、それを均等に分かち合い、子供と多くのファンに夢を与え続ける、――そんな希望をもちたい。そんな時代がきたら、アナウンサーは、必ず、正しくこう叫んでいるに違いない。

 「なんと、まったくひどいアン・タイムリーエラーです。!」と。

 その日がくるのを、私は心待ちにしている。
 


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