日本のスポーツに活! Vol.4

マーティ・キーナート

<プロフィール>
マーティ・キーナート
1946年7月19日生まれ。
ロサンジェルス出身
スポーツジャーナリスト
在日30余年、メジャーリーグ解説でもお馴染みのスポーツジャーナリスト。その鋭くユニークな視点で多くのスポーツファンを魅了する。また、流暢な日本語でさまざまな角度からみた日本社会、日本気質の違い、国際性についての講演も数多く行っている。明るく志の高い”サムライ気質”の人物である。

MSNジャーナルで骨太なコラムを連載中!
http://journal.msn.co.jp/index/column02.htm

日本のスポーツが本当の意味でエキサイティングになって欲しいと願う。
マーティさんからの熱きメッセージ。
ワクワク、ドキドキ、しながら味わえるマーティ・キーナートの世界。
日本のプロ野球は本当にこのまま でいいの? 日本のスポーツ界はどこか変!
など心の片隅に大小を問わず疑問を抱えている日本人は多いはず。
さあ、そんな欲求不満をマーティさんが一掃してくれます。
老若男女を問わず、もう一度日本のスポーツ界について真剣に 考え直してみよう!


『なぜ無知なタレント、コメデイアンが起用される?』

 1961年4月1日、フジテレビは午後11:15-11:35という時間帯で「プロ野球ニュース」をニュース番組の1コーナーとしてスタートさせた。当時、人気のあるプロスポーツといえば、野球と相撲くらいだったので、当然のごとくこの番組は人気を集める。1970年代の半ばには、フジテレビは「プロ野球ニュース」を独立した番組としてスタートし、プロ野球への関心も高まった。こ

のスタートの時から司会を務めた元プロ野球選手の佐々木信也は、当時を次のように振り返る。「すべての役員が野球をこれほどまでに扱う事に賛成していたわけではありません。そのころは、日本TVの「11PM」のようにエロチックな番組に人気があったので、我々スタッフは真正面からスポーツを扱ったニュース番組は、退屈すぎやしないかと思っていました。そのような番組は危険すぎると考えていたのです」。

 しかし、そんな心配は無用であった。番組は大ヒットしたのである。「我々が巨人、あるいはセントラルリーグのチームばかりでなく、12球団全てのハイライトを見せたという事が、視聴者にアピールしたのです。私が出演していたころの視聴率は、平均8.5%で、大きな企業が番組のスポンサーに名を連ねていました」ところが、1988年3月末、佐々木はいきなり番組から降ろされてしまう。

当時、プロ野球ニュースは同じ時間帯ではトップの視聴率を記録していたし、全てのスポンサーも番組スタート以来そのままであった。日本スポーツ界のウオルター・クロンカイト(70歳近くまで現役であったアメリカの人気キャスター)ともいえる彼を交代させたフジテレビの弁明は、若いスタッフがなにか新しいアイデアを試したがっているという説得力に欠けるものでしかなかった。が、もう要らないといわれた佐々木は黙って身を引く。

降板の本当の理由は、日本人の水準からすると、歳もとってきたし、ギャラも高い、さらには「プロ野球ニュース」が佐々木信也の番組になってきたから、というところであろう。どちらにしても、佐々木には番組の思い出が残っている。「すばらしい体験でした。私は感じた事をなんでもいう事が許されていました。90%以上は私の意見です。デイレクターから本番30秒前という声がかかると、すごい快感で、夢中になっていました」

54歳の佐々木にかわって、フジTVは安っぽい芸人の一団、何人かのタレントと呼ばれるパーソナリテイー達、そしてスポーツの事はなにひとつ知らない、2-3人のかわいい女性アナウンサーを起用する。その時点から視聴率は佐々木の時代の半分にまで低下した。

 常々疑問でしょうがないのだが、日本のテレビ局は、なぜスポーツの中継やイベントのコメンテーターに全くの素人を起用するのだろう。テレビの人気者を出演させることで、日ごろスポーツに関心のない層を引き込みたいのだろうが、人気のあるタレントの力で、視聴率が稼げたとしても、たかが知れているだろうし、さらに深刻な問題も招きかねない。これらのおちゃらけた素人の起用が、本当にスポーツを愛しているファンにとって、どれほど迷惑な事だろうか。下手をすると侮辱していることにもなりかねない。

 1997年、アテネで行われた世界陸上選手権大会でTBSは、俳優の織田裕二を起用したが、視聴者の多くは彼の私情を交えたコメントにたちまち嫌気がさしてしまった。

アトランタオリンピックの際もフジテレビは、かわいくて英語が達者というだけの理由で、タレントの西田ひかるを起用している。彼女はまだましなほうであったが、ふだん日本のスポーツ番組に登場するタレントたちは、どうにかならないのだろうか。

なかでも最悪なのは、うっちゃんなんちゃんや、とんねるずのふたり組である。フジテレビはこのスポーツには無知に等しい2人に、日曜夜のスポーツニュースを任せ、しかも「GRADE―A」というふざけた名前までつけていた。テレビ朝日は週末の「サンデージャングル」という番組のメインキャスターとしてスマップの中居正広を起用。真のスポーツファンならばブラウン管に彼が映るやいなや、いささか退屈ではあるが、適切な報道をするNHKにチャンネルを変えるであろう。

日本TVは、スポーツを茶化すだけの、太ったコメデイアン、松村邦洋を定期的に出演させ、またフジTVの「プロ野球ニュース」では、スポーツの知識など全くないタレント、夏木ゆたかが一本調子のままカン高い声を張り上げ、その日のスポーツの結果とハイライトシーンを矢継ぎ早に要約して伝える「マシンガン・フラッシュ」という、まか不思議なコーナーを流していた。

こんな番組はスポーツを本当に愛しているファンには理解されないし、相手にもされないだろう。選手たちが真剣にとりくんでいる姿を、きちんと伝えられないどころか、全くつまらないもののように伝えてしまいかねないのだ。

(続)

マーティ・キーナート著 『スター選手はなぜ亡命するか』(KKベストセラーズ・1998年)より抜粋


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