「話題のビジネス本」第二十三回目は、中村朱美さん著『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』をご紹介します。
皆さんは京都の観光地から少し離れた住宅街にある国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」というお店をご存知でしょうか。
10坪の広さに14席の小さなお店、ステーキ丼をはじめ、メニューは3つのみという営業形態ながら、連日国内外から整理券を求め多くのお客さんがやってくる大人気のお店です。最近では多くのメディアでも取り上げられています。
著者の中村さんは、ご主人が何気なく作ってくれたステーキ丼の美味しさが忘れられず、多くの人に食べてほしいという想いから、夫婦でお店を開店させます。
開店当初はなかなかお客さんの入りが悪く苦労したものの、「どんなに売れても1日100食限定」というコンセプトを貫き、いかに大繁盛店へと変化させたか、その道のりを本書にて語られています。
100食限定という「佰食屋」のビジネスモデルが生み出したもの、それを以下の5つのメリットとして紹介されています。
1.早く帰れる。 ⇒退勤時間は夕方17時台
2.フードロスがほぼゼロ化 ⇒経費削減
3.経営が究極に簡単になる ⇒カギは圧倒的な商品力
4.どんな人も即戦力になる ⇒やる気に溢れている人なんていらない
5.売上至上主義からの解放 ⇒よりやさしい働き方へ
そして上記のビジネスモデルの構築の根本にあるのは「従業員が働きやすい会社」であることが、この本では何度も謳われています。佰食屋は、お客さんのことだけを大切にするのではなく、いちばん大切なのは、「従業員のみんなです」と中村さんはおっしゃいます。
多くの飲食店は、勤務時間が長く、スタッフの心にどうしても余裕がなくなることが多くあります。それを解消する為に中村さんが出した答えは、「売上をギリギリまで減らそう」でした。著者の中村さんには、脳性麻痺の息子さんがいらっしゃり、家族と過ごす時間をなるべく長く確保したいという思いから、本当に働きたいと思える会社の条件として、仕事が終わった後に家族みんなで揃って晩ごはんを食べられることを、一番大事な理念に設定をされました。
お店は、11時開店で14時30分。17時には従業員が帰りはじめ、18時までには全員が退勤。そのような環境下でも、その他の経費を削減しても、人件費に重きを置くことで、佰食屋の給与形態は、正社員の場合、基本給に各種手当や賞与などがつく、一般的な企業の給与と変わらない設定となっているそうです。
本書で特に印象に残ったのは佰食屋のクレド(行動規範)に記載されている、「会社は明日の責任を。みんなは今日の責任を。」という言葉です。会社は社員を守り、社員は現場を守る、その想いが詰まった言葉に非常に感銘を受けました。
「業績至上主義からの解放」は、中村さんも本の中で語っているように、佰食屋があえて業績面での行きすぎた成長をストップしているからこそ成しえることであります。
企業が業績面で成長していくことは大切なことであると私も思いますし、もしかしたらこの考え方はどうなのかなと思う方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、我々一人一人、様々な働き方が選択できるようになってきた今の世の中で、会社として独自の働き方の理想を追い求める企業があってもいいのではないかと思います。
そしてまさにそれを体現させているのがこの佰食屋なのです。
是非皆さまもこの本を読んで、新しい価値観を体感してみてはいかがでしょうか。
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