2004年10月13日
経営は“人創り”
今月は、元ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社代表取締役の新将命さんです。
一貫して外資系企業を渡り歩き、数々の社長も歴任されてきた新さんに、
企業経営の秘訣をお話をいただきました。
新将命(あたらしまさみ)
株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長
1959年 早稲田大学卒業。
1959年~1969年 シェル石油株式会社
1969年~1978年 日本コカ・コーラ株式会社
コカ・コーラブランドマネージャー、関西営業部長、市場開発本部長を歴任。
この間、2年半にわたり、コカ・コーラカンパニーオブ・カリフォルニアに勤務し、
マーケティングを担当する。
1978年~1990年 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
常務取締役、専務取締役を経て、1982年代表取締役社長に就任。
1990年、4期8年の任期を経て、同社取締役社長を退任。
1990年 株式会社国際ビジネスブレインを設立、代表取締役に就任。
1992年 日本サラ・リー株式会社代表取締役社長に就任。
1994年 サラ・リーコーポレーション(米国総本社)副社長に就任。
1995年 日本フィリップス株式会社代表取締役副社長に就任。
1999年 株式会社日本ホールマーク代表取締役社長に就任。
2001年 株式会社日本ホールマーク代表取締役社長退任。
2003年 住友商事株式会社アドバイザリーボードメンバー。
2003年 株式会社ファーストリテイリングアドバイザー。
経営は“人創り”
――学卒後一貫して外資系企業ですが、何か目的があったのでしょうか?
2つ理由があります。
まず1つめは育った環境にあるのですが、姉が英語を得意としていまして、私は小学生の頃からその姉に英語を教わり、将来は英語を使った仕事を通してグローバリスト(国際人)として活躍したいという夢が幼心にありました。狭い日本の中だけではなく、世界に羽ばたきたいという夢を、小学生の時から思っていたんですよね。
2つめは私が、早稲田大学に在籍する1958年当時の日本企業の人事システムは、ほとんどが終身雇用・年功序列型で実力・実績主義をうたう企業は外資系企業しかないという状況でした。例外を言えばきりがないけれど、基本的に当時の日本の大会社というのは、どんなに能力があって、どんなにいい仕事をしても、40歳にならないと部長にはなれなかったんです。35歳では、よくて課長なんですよ。
ある日本企業の人事部長が、学生の応募者200人を前にして、我が社は入社13年経てば誰でも係長になれる。それまでは、みんな給料も一緒で非常にいい会社だと言うんで、それを聞いてもう日本企業を受けるのは辞めたんです。
自分が勉強をして力をつけて、仕事をして会社に貢献すれば、それなりに評価と処遇をしてくれ、多少若くても権限と責任を与えられ、高い立場につける。悪ければ落とされるし、悪ければ先にも行けない。すべて自分の問題であると。年齢とか学歴とか年功ではなくて、実力と実績によって評価・処遇してくれる場所の方が、その評価判断が正しいかどうかは別として、自分の好みにはあってると思ったんですよ。
――大手米系外資系企業での経営を長く経験されてきているわけですが、米国式経営手法と日本式経営手法の違いは何ですか?
まず大前提として、外資系企業での経営経験を通じて肌で感じたのは、“国籍”、“規模”、“時代”を問わず、いわゆるエクセレント・カンパニー、勝ち残り企業には、この三つに関係ない共通の特徴があるんですよ。ただ、日本企業が欧米からもう少し学べばいいなと思うことは、5つあります。
それは、「リーダーシップ」「革新」「スピード」「チェック&バランス」「若手・女性の登用と活用」です。
1つ目は、トップのリーダーシップです。これは、全従業員に対して、方向性を示すということなんですよ。つまり、わが社は今こういう現状にあって、こういう点が改善されてきたけど、こういう点がまだ弱いから、ここを改善しながら将来はこういう会社になろうよという方向性ですよね。方向性は4点セットなんですね。
それは、その会社にまずビジョン(夢)があること、そしてミッション(責任・使命)、目標(数字・売上等)があり更にそれを具現化させるための戦略があるということです。経営にはこの4つの要素がとても大切です。
リーダーシップの条件はコミットメントとアカウンタビリティー、そして社員のモチベーションを向上させる能力を持ちえている事です。
コミットメントとは堅い決意とでも言いましょうか、分かりやすく言うと「死んでもやっったるで!」という意志と実行です。英語でこんな言葉があります。「ハムエッグにおいて、鶏は参加してるだけであるが、豚はコミットしてる」。そのぐらいの決意なんです。
アカウンタビリティーとは責任を持って結果を追求する事を意味します。日本の経営者は、とにかくこの2要素を持つべきだと思っています。
2つ目は、「革新」です。今まで日本の企業は、特に製造業を中心にして「改善」で伸びて来たんですね。改善の重要性は否定しないけども、パラダイム転換時期である現在においては、もっとダイナミックに革新・改革を実行しなければならないとう点です。
革新や改革は、改善と何が違うのかというと、改善は%単位でそれこそ改善する。基本的には現状のなかで、良くしましょうということなんですね。革新は<売上を5倍にしましょうとか、利益を10倍にしましょう>とか、何倍単位で考えることなんですね。つまり、改善の積み重ねだけでは追いつかないんですよ。
大きく飛躍してる会社というのは改善だけじゃなく革新もしてるんですよね。それができる会社じゃなければならないし、そういうトップじゃないといかんだろう。これが二番目ですよね。
3つ目は、「スピード」です。スピードには2種類ありまして、意思決定のスピードと、実行のスピードです。日本企業は、物事が決定した後のアクションは非常にスピーディーで正確なんですが、決定までの時間が掛かり過ぎる。
これだけ移り変わりの激しい時代ですからスピード力の無い経営は時代に取り残されていってしまいます。慎重に前向きに検討とか言っている間にどんどん時間が過ぎてしまいます。限界効用逓減の法則という経済原則があるけども、私は限界思考逓減の法則と言っています。人間、ある程度物事を考えるとそれ以上の良い考えはもう出てこないんですね。タイムリーでクイックな決定、そういうスピーディな会社。バブルから13年たってしまってますけどね、随分いろんなことに時間がかかりすぎてますよね、小泉改革にしても。
4つ目は、「チェック&バランス」です。日本の社長は偉すぎるんですよね。アメリカでは、2期減収だと社長は責任を取って退任ですが、日本の経営ではその概念がほとんどないところに問題があります。監査役も社長が任命してっていうのは、泥棒が警官を任命するようなものなんです。いい点悪い点をチェックして、社長や経営者に対してアドバイスするとか、最悪の場合は罷免するとか、そういうチェックアンドバランスが今まで日本の会社ではなかったんです。すべての人が誰かしらに正当な評価を仰ぎ、その結果に責任を持つ仕組みが必要ですね。
最後の5つ目は、「若手・女性の登用と活用」です。最近でこそ日本でも若手・女性の登用が進んできていますが、米国と比較すると登用の中味に違いと言うか問題があるように思います。
それは、まだまだ権限と責任を持たせた仕事をさせていないと言う事です。例えばコンシューマー製品の企業であれば、女性の消費が中心なのですからもっと自社の女性に権限と責任を与え思い切って仕事をやらせてみるべきです。例えば、部長さん30人に対して、女性の部長が1人もいないという場合が日常茶飯事ですよね。GDPの6割は消費なんですね。その8割は女性の消費なんです。日本経済の約半分は女性が握っている。だから、女性が管理職に1人もいないというのは、おかしいじゃないですかということなんですよね。
35歳でも能力があれば取締役にしても構わないと思うし、女性の下に男性の部下がいても全く構わないと思うんだけども、やっぱり性別、学歴、年齢等が幅を利かせすぎる。これらの点は、それなりの考慮には値するけども、本質的な重要性があるとは言えない。このような次点要因が幅を利かせすぎる会社というのは、短期的には見かけ上の和を保つことはできるけれども、中長期的には、企業を滅亡に追いやる。そういう経営ですよね。この面では、アメリカに日本は30年ぐらい遅れているんです。
総じて言うとこの5つが、日本の会社はアメリカから学ばなきゃいけない点かなと思いますね。
――では、米国経営で反面教師とすべき点はどんなところでしょうか?
それは、極端な<短期株主資本主義>的な経営でしょうか。ステークホルダー(利害関係者)がいて、その中で経営者は常に監視されています。ちょっと業績が悪いと自分の首が飛ばされるから、短期的に株価を上げたがるんですよね。そのために、陥るのが短期株主資本主義で、将来のわが社の継続的な成長発展を無視、あるいは軽視して、見かけ上の短期の株価だけあがればいいと。その象徴的な例がワールドコムでありエンロンであるんですね。
最近日本でもそのような兆候を感じているのですが、これは極めて危険です。短期的にはいい時期があっても必ず、早晩経営がおかしくなるからです。
――新さんは、「勝ち残る企業の条件」と題した講演を行っていますが、ここでいう「勝ち」の企業定義は何ですか?
とりあえずの条件は企業を潰さないということです。ゴーイング・コンサーンでないと。何故かというと、潰れるということは程度の差はあるけれども、ステークホルダーに迷惑をかけるわけじゃないですか。お得意様とか銀行とか消費者とか取引先とかに。迷惑をかけるのは悪いことで、悪いことをする企業をエクセレント・カンパニーとか優れた企業と呼ぶことはできないんですよ。
したがって、勝ち残る企業というのは潰れない企業のこと。そして、【ステークホルダー(利害関係者)に対する責任を継続的に果たすことができる企業】です。
私は、本来経営とは「社会創りであり、社会創りは人創り」であると考えています。これからの経営のため、国際性と豊かな教養を持つ人創りが大切な要素だと考えています。
そのためにも経営者は、性別、学歴、年齢を問わずスキルとウィルの高い社員に権限と責任の機会を与え仕事を遂行させ、公正に評価処遇しなければなりません。
それが、最終的には経営者としての自分創りにも繋がると私は経験を通じて実感しています。
――ありがとうございました。
株式会社ペルソン 無断転載禁止
新将命
株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長
1936年東京生まれ。早稲田大学卒。 シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップなど、グローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3 社、副社長職を1社経験。
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