今月は、慶應大学総合政策学部教授の草野厚さんです。
テレビ朝日「サンデープロジェクト」のコメンテーターとしてお馴染みの草野厚さんから、『日本の経済動向と、それに伴い、経営者は経営の舵取りをどのようにしたら良いのか?』といったお話をお伺い致しました。
草野 厚(くさのあつし)
慶応義塾大学総合政策学部教授
1971 慶応大学法学部法律学科卒業
1977 上智大学大学院外国語学研究科(国際関係論専攻)修士課程修了
1981 東京大学大学院社会学研究科(国際関係)博士課程修了
博士号(社会学)取得
1983 国際大学助手
1987 東京工業大学助教授
1991 慶應義塾大学総合政策学部教授
(この間、85年から87年、プリンストン大学訪問研究員 )
専門は政策決定論、経済摩擦の政治学的分析、日本の外交、アメリカ政治 (議会,行政府) 。ODA(政府開発援助)などの政策決定過程を実証的に洗い出し、問題点を抽出。自分の足で歩き、自分の目で見、感じるといったフットワークのきいた学問スタイルに定評があります。
~知恵と工夫で乗り切る~混迷する日本経済の中での企業経営
――最近マスコミ(メディア、新聞各紙等)で景気が回復方向にあると言われておりますが、その景気回復の兆候にはどのような背景が、考えられますでしょうか。
中央から地方へという順序はあるにせよ、景気回復は数字に出ています。インフラ整備とか設備投資等の動きがあり、それが景気回復の数字を裏付けているということは事実です。その背景として考えられるものはいくつかあります。
一つは不良債権の処理です。
この不良債権処理についてはいろいろと言われておりますが、小泉内閣が異端児としてずっと支えてきたんですよ。最近では評価が下がっておりますね。竹中経済財大臣、私と同じ大学の教授ですけど、彼は不良債権の処理をまず真っ先に掲げて、初めの1年~1年半ぐらいはほとんど、成果でなかった。そのことに関してバッシングの嵐だったわけですが、今気がついてみるとどうでしょうか?現在の都市銀行の東証株価を見てもお分かりの通り、今リードしているのは金融株です。ではこれは一体何なのか、というと、それはやはり不良債権の処理が進んでいるわけですね。
もちろんその結果として、いわゆる外資系の企業が、日本の金融機関を買収したり、企業を買収したりというような状況はあります。しかしそういった批判は、グローバリゼーションというキーワードで説明される現在の国際社会を、全く分かっていない人達の批判が非常に多いということも言えます。つまり現代の社会においては、中国系の企業が日本の企業を買収するなんていうことも行なわれつつあるわけですから、「国境の垣根はない」ということを前提に仕事をしなければならないわけですし、外資が日本に入ってきてけしからん、という状況は終わったという風に、私は思うわけです。
――そういうことから考えると、今言ったようなある人たちからすれば問題点だと、あるいは副作用だとか言われている状況はあるけれども、不良債権の処理は進んだわけですよね。
そういうことになります。そしてもう一つ考えられるのは、企業レベルの技術開発です。
日本の得意な分野というのがあるわけですよね。一時期は電気関係だとか、電子関係だとか、コンピューター関係にしても全部工場は安い労働力を持っている中国、ベトナムという東南アジアの市場に向いていたわけですけれども、高度な技術が必要な製品、DVDだとか、テレビや液晶を含めてですね、若干韓国と協力してる部分もあるけれども、日本で工場を作っているというのが、最近の傾向です。
数年前までは「空洞化」ということが世間で叫ばれていて、実際に「これはマズイな。」という話ばかりだったけれども、必ずしもそういった状況ではなくなってきた、ということです。つまり設備投資の内容が変わってきて、海外で設備投資をするのではなくて、日本の国内で設備投資をし始めて、これがまた日本経済を活性化する要因にもなっている。
これはどういうことかと言いますと、「空洞化」が叫ばれていた以前の企業としては、日本の労働力コストが高いので、労働力を日本の外に求めるという発想しかなかったのだけれども、日本の労働コスト自身がここ数年間のデフレ傾向と、賃金を含めた様々な見直しによって、国際競争力が出てきて、相対的に下がってるわけなんです。それも企業経営者から見れば一つの有利な材料ですよね。これが日本の国内での設備投資の流れにつながり、日本の景気や雇用の回復につながっていると言えるわけです。
――日本での設備投資という流れが、空洞化問題を解消させてきているわけですね。
「空洞化」と言いますと、企業だけでなく、少子高齢化で幼稚園だとか小学校、こういうものが空きスペースになってしまうということがあります。小さな行政でも、空洞化が起きているわけで、こういった空きスペースを利用した、政府の新しい動きもあるんです。現在の景気回復に後続する、ヒット業界だとか、ヒット商品だとかで考えられる日本の文化として、アニメの世界や音楽の世界、そういったものが挙げられます。東南アジアや香港、台湾を中心に、若い人たちのニーズがあり、今では日本のアニメや音楽は完全に輸出商品なんですよね。ここらへんに政府も相当力を入れている。つまり、空洞化のために空きスペースになった所に、いわゆるベンチャーのアニメ会社などを入れたりと、いろいろな試みをやり始めてます。それからすると、中長期的に見て、日本の景気回復を支える、今までになかったものが出てきているということも言えると思います。
――中国という存在をどのようにお考えですか。
エネルギーの分野、石油、このところガソリンがハイオクで1リットル124円ぐらい、レギュラーで110円ぐらい。原油価格が過去最高になりましたね。これはもちろんイラク戦争の影響もありますが、実は中国が開発されているとも考えられます。現に中国は8%、9%と経済成長しており、日本の企業にとっても、世界の企業にとっても成長著しい中国の存在というのは、単に安い労働力でかなり高度な技術を持った人達という位置付けではなく、巨大なマーケットなんです。人口13億人の巨大マーケットです。
――それは大きな存在ですね。
例えば1省とってみても1億人とか8000万人の人口があるわけですから、それだけで、日本の全人口と同じぐらいのマーケットが幾つも存在している、そう考えられるわけですね。
だから例えばある省にだけ特化した商品を開発し、それを売り出した会社もあります。要するに、中国全体を相手にするという発想ではないんですね。サントリーのビールは日本で上から数えて4番目のシェアだけれども、上海地区に特化した商品で頑張ってるなんてこともあるわけです。それも全中国を相手にするという発想ではなく、ある省にだけ、それだけでも充分なんです。
そういうことを考えれば、知恵と工夫でいくらでも中国市場での展開が考えられます。人口2億人の土地でも、電気がないという生活をしている地区もまだあります。ここは日本の企業の相手にはなりませんし、それはODAの世界かもしれません。それでも中国国内で最もGDPが高い都市、上海から、蘇州という中国最大のマーケットを有している華東は、日本だけでなく世界の企業にとっても充分魅力的なマーケットです。
り返しになりますが、今まで中国では、安い労働力を使って商品を作っていたけれども、中国の国内でその商品を売るという発想はほとんどなかった。しかし現在はユニクロに見られるように、中国国内で作って、その商品を中国国内で売るといった、一つの仕組みが構築されております。
――中国のマーケットの存在は如何様にもなっていきそうですね。
そうなんです。ここで面白い話があります。宮崎は日本で1、2を争う森林地帯ですよね。そこで宮崎の木材メーカーは、中国の住宅建設ラッシュに目をつけ、ある商品を輸出してるんです。中国はたくさん木を切ってしまって、長江にしても揚子江にしても洪水を起こした。そういう訳で、森林伐採ができない。ということは木材を輸入しなければならないんです。そこでその木材を日本から買ってるんですね。日本はご存知の通り、アメリカやカナダから輸入してるんですが。
そして話題の宮崎の木材メーカーでは何を輸出しているかと言いますと、実は間伐材というのもを輸出しているんです。それはもともと焼却していた、つまり捨てていた間引き用の一般的にはあまり状態の良くない木です。それを使えるように加工した物が間伐材。捨てていたものがお金になる、これもまた知恵と工夫ですよね。
こういったことからも分かると思いますが、いろんな知恵と工夫で、どんな状況でも経営者は生き抜いくことができると思うんです。今まで不況だ不況だ、うちはダメだと言っている人たちの半分から、3分の2ぐらいは護送船団方式で日本の景気が右肩上がりに上がっていて、業界全体も良く、それでそのおこぼれを頂戴して、なんとなく景気が良かったなあ、という時代にドップリと浸かってきた人たちがそういう発想なんです。勝ち組みは常にあって、それは勿論運もあるんでしょうけれど、知恵と工夫と努力があるんですよ。
――では最後に、今後1、2年の日本の動向から、どのようなビジネスチャンスが考えられますでしょうか。
短期、中長期的な話をさせて頂きますと、私達を含め、団塊の世代の人達、また団塊の世代予備軍、この世代は200兆から1300兆の個人資産があると言われております。その財布の紐をどうやって緩めるかが鍵になってくるんではないでしょうか。時代をどういう風に読み取るか、ということもあると思いますが、たとえば、少子高齢社会は、増税や年金保険料の負担増などから、「暗い」という固定観念にとらわれがちです。経営者の多くもそれにとらわれているのではないでしょうか。しかし実際は新しいマーケットの存在を示しているということでもあります。
業界全体が残るという時代はもう既にありません。 その中でも勝ち組みになるところというのは、企業の体力の問題が挙げられます。バブルの時期に無防備な投資を行なっているとか、そういうような所というのは、やはり不利ですよね。逆に言えば、勝ち組みになって、今成績を修めてる企業というのは、バブルが終わってから起業している会社が圧倒的なんですよ。とは言っても、「大戸家」に見られるような昭和33年の創業で、オリジンは非常に古いけれども、代替わりして大きく変われたという例もあります。今では食堂の暗いイメージを打破し、若い女性にも人気がありますね。
ただ重荷を背負っていると、なかなか変革は難しいということがあると思うんですよ。ただ代替わりした時が一つのきっかけになると思うので、2代目や3代目の人がどのように発想するか、ということは非常に重要だと思います。
どんな世の中、状況になっても、勝ち組みになることはできると思います。その経営者が上手くトレンドを読み、知恵と工夫で努力をすれば、必ず。
――ありがとうございました。
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草野厚くさのあつし
慶応義塾大学総合政策学部教授
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