「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京)の鑑定士としておなじみの北原照久さん。
今回は思いつづけて20年という北原さんの豪邸で、
特別にインタビューをさせて頂きました。
ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として、世界的にも有名な北原さん、
その素顔に隠された、底知れない情熱と強さ。
テレビでは伝わらない、北原さんの生き方、その心に迫ります。
北原 照久(きたはら てるひさ)
株式会社 トーイズ代表取締役
式会社トーイズ代表取締役
株式会社トイズプランニング代表取締役
横浜ブリキのおもちゃ博物館館長
横浜マリンタワー 機械じかけのおもちゃ館館長
横浜氷川丸 世界客船館館長
東京池袋ナムコ「ナンジャタウン」北原鑑定堂館長
箱根湯本 箱根おもちゃ博物館館長
静岡県清水市 清水おもちゃ博物館館長
海を庭にしてしまった家。 広い庭では著名人の集まるパーティーも開かれる。
おもちゃの夢を追いかけて
-おもちゃコレクターとして有名な北原さんですが、
もともとコレクションを始めたきっかけは何だったのですか?
オーストリアでのカルチャーショックがきっかけです。
僕は中学生の頃、随分と悪さをしたのですが、その後高校で素晴らしい先生と出逢い、必死に勉強して青山学院大学に入学しました。しかし、その時代は学生紛争が激しくて、授業そのものがないに等しい。だからもっと有意義な時間を過ごそうと考え、オーストリアのインスブルックという町に留学することにしたんです。この町はスキーのメッカで、いずれ実家のスポーツ店を継ぐつもりでしたから、その為にもなると思ってね。
その町が凄く良い所なんですよ。自分の生活そのものをとても楽しんでいる。古いものを大切にしたり、それを持っていることを自慢したり、窓辺に花を飾ったりしてね。
ある時、お世話になっているお母さんが、古い銅の鍋でジャガイモを煮てくれた。ひいお婆ちゃんの時から大事に使っているというその鍋は、ピカピカに磨かれていて、その鍋で作ったものが魔法がかかったみたいに美味しいんですよ。その歴史や思いが心に沁みました。そして、僕もそんな生活をしたい、古いものを大切に使い、好きな物に囲まれて暮したい、と思うようになったんです。それから日本に帰国後、ゴミ捨て場でゼンマイ式の柱時計を見つけて、油をさしたら、まだまだ使えるじゃないですか。それと同時にオーストリアで過ごした時間がフラッシュバックしてきて、その時計に込められた技術や歴史がとても尊いもののように思えたんです。これが僕のコレクション第一号ですね。
-物を大切にする気持ちですか。現代では忘れがちなことですが大事なことですね。
そう。古いものを大切にする心は、実はとても素敵なものだと思います。ゴミも最小限にできる。
ガラクタという言葉を漢字で書くと、我楽多(我楽しむことが多い)。本来の使用目的が終わって捨てられてしまうもののことを言うんです。僕が集めた「おもちゃ」というものも、「おもちゃのように捨てられて」などと、捨てられてしまう代名詞のように使われたり、安っぽいものに対して「おもちゃみたいだね」とよく言いますよね。でも思いや情熱によって、宝になることがあると思うんですよ。見方を変えて、その良さを見出せたら、捨てられなくて済む。だから今の僕にとっての我楽多は、多を他という文字に変えて、「我も楽しい。他人も楽しい。」って、そう思っているんですよ。
そういえば、ディズニー映画「トイストーリー」の監督、ジョン・ラセター氏が僕のおもちゃコレクションを見た時、「まるで生きているみたいだ。」と最高の言葉を口にしてましたね。それでインスピレーションを感じて映画が作られた。だから、見方しだいなんですよ、何でも
-何事にも良さを見出せる目があれば、人としてとても素敵ですね。
そうやっておもちゃを集め始めて、なぜ博物館を建てたいとお考えになったのですか?
僕は人に見せるのが大好きですから(笑)。
コレクターと呼ばれる人達には2タイプいて、「人に絶対見せたくないタイプ」と「人に見せたがるタイプ」。僕は勿論後者のほう。西武デパートで行なわれたおもちゃの展示会も、1週間で3万6千人も訪れるほど大盛況でした。自分のコレクションには自信があり、大変な思いをして手に入れたのだから、人に見せたいって思いも強かったですし、それにお金を出して見てもらえるなんて、素晴らしいことですよね。 日本でコレクターというと、ピンと来ない方が多いかと思いますが、世界的に見ると、ポール・マッカートニーや、ジョージ・ルーカス、スピルバーグ監督だって、皆情熱的なコレクターなんです。稼がないとコレクションは買えないから、皆働き者だし、一生懸命で、ロマンチック。日本人は自己表現が下手だから、何となく近づきがたい、暗いイメージを持っている方もいるかもしれないけれど、そうではないんですよ。
-人に見せたいという気持ちですか…。大変な思いをして手に入れた宝物を見せたい!
そういった情熱を持って始めた博物館、実際のところは?
まず、「お金がない」「人脈がない」「ノウハウがない」この3拍子が揃って出発しました(笑)。だから、「出来る事からやろう」というのが合言葉でしたね。博物館を始める前にいろいろ問題もあり、それを乗り越えてきましたから、辛いことの先には良い事が待っている、と常に信じていました。
そして、僕は真似でも良いと思います。どんな偉人も始めは模倣から始めますし、結果的にオリジナルにして行けばいい。と言うのも、当初は無印良品で2500円のポロシャツを買い、それに300円で作った博物館のオリジナルワッペンを付け、3500円で売っていたんですよ(笑)。儲けはほんの700円でしたが、とても嬉しくてね。1枚売れただけで、仲間とずいぶん喜んでいましたね。
ただ今のように店舗が増えていくと、売れない理由を並べるスタッフが出てきまして。ポロシャツが売れないのをカラーやサイズのバリエーションのせいにするんです。売れない理由を考えることは必要でも、改善する為の策は、だめなことを何かのせいにするのとは違います。何かのせいにしていたら、次の1歩が踏み出せないじゃないですか。今は恵まれているから、工夫をする必要がない。だから工夫する喜びを知らないんです。それで、僕の思いをスタッフに見せるためにも、創業当時に売り出していた3500円の手作りポロシャツを、「10万円で買います」と広告を出しました。嬉しいことに、持っていてくれた方がいたんですね。結果、3枚集まり、今は店の壁に飾ってあります。
-かっこいいですね。それはスタッフにも衝撃的じゃないですか。
そうでしょう(笑)。本当にやって良かったと思いますね。
工夫するということですが、人生も工夫次第で変ってきます。
今度、たくさんの方の時世の句を現代風に読み易くした本を出版予定なんですが、高杉晋作の言葉に「おもしろき こともなき世を おもしろく すみなすものは 心なりけり」というのがある。心は砂漠、いつ自分が死んでもおかしくない世の中で、高杉晋作は自分が死ぬ間際に分かる。「世の中におもしろいことは何もない。ただ、おもしろくするのは、自分の心だけなんだ」、とね。よく「最近、おもしろくないな。」という人がいる。つまらないと思っていたら、それだけで幸せではないんですよね。自分がおもしろいと思えるように考え方を転換していかなければ、いつまでもおもしろくならないし、幸せにはなれません。
-確かに、幸せだ、と感じるのは自分の心ですね。
高杉晋作さんの言葉をすらすら仰るところといい、北原さんはとても勉強家だな、と感心
してしまうんですが、著書『ぼく流ツキの10箇条』の中にも「勉強好きになる」とあげて
いらっしゃいますよね?
そうですね。僕が考えるツキの10箇条は、他に(1)プラス発想をする。(2)勉強好き。(3)素直であること。(4)感動する。(5)感激する。(6)感謝する。(7)ツイている人と付き合う。(8)親孝行する。(9)人はほめる。(10)ツイていると思い込む」とありますが、詳細は実際に講演を聞いて頂ければ(笑)。
勉強は自分のためのものですし、知識は自分の価値観を見出す為にあると思います。勉強すればするほど、自分にとって大切なものが分かってくるんですよ。そして何より自分の人生に好奇心が沸いてくる。
僕が好きな曲で、ホアキン・ロドリーゴ作曲の「アランフェス」というものがあるんですが、曲の背景を知ってからその曲を聞くのと、知らないで聞くのでは、感じることに随分と差があると思うんです。ロドリーゴは若い10代の時に病気で目が見えなくなって、盲目。ある時、恋人とアランフェスというお城に出かけ、彼女の唇から漏れる感動の言葉を拾って音にしたものが、この曲なんです。想像できますか?
知ることで、感性を刺激し、自分の人生が豊かになるんですよね。
-北原さんのお話は、人にもプラスの何かを与えてくれますね。とても勉強になります。
先ほど勉強すればするほど、自分の大切なものが分かってくると仰っていましたが、
北原さんの人生にとって大切なものはとは何ですか?
そうですね。思いやりと優しさでしょうか。
最初に僕が子供の頃悪さばかりしていた話をしましたが、上の兄弟が二人とも凄く勉強が出来たので、いつも比較され、「兄さんや姉さんとは違うのだ。」と反抗心が強く前に出てきてしまい、とうとう中学3年で退学になってしまったんです。
そこで僕が助けられた言葉があるんです。
「僕は必要な人間なのかな?」と悩んでいる時、今でもよく覚えているんですが、「お前はタバコを吸わないんだね。いいとこあるよ。」って母が言ってくれました。そして幼稚園の時にたまたま道端に咲いていた小さな花を踏まずに避けて通ったことを覚えててくれて、「お前は優しいよ。」ってね。その言葉に救われたんです。それから、僕は花も踏まないし、タバコも吸わない。
それと、プラス発想をしていても、辛い時って、誰にでもある。そんな時、僕は人に迷惑をかけないように正直になります。もし良ければ、鹿児島の知覧に行ってみて下さい。知覧には特攻隊員達の時世の句や手紙が残っていて、それを見ると、愚痴やぼやきは全くなく、死ぬ間際まで優しさがあるんですよ。それを見たら頑張れるし、生きていることに感謝することが出来ますよ、きっと。
そして、自分が生きていることに感謝しながら、夢を大切にすること。
無いところから、在るところに、出来ないところから、出来るところに移行するプロセスが人間にとって最大の喜びだと思うんです。だから僕は夢は大切にします。
そしてそれが僕の原動力
-素晴らしいお話をありがとうございました。
文:鈴木ちづる 写真:宮澤宣圭 (2004年12月28日 株式会社ペルソン 無断転載禁止)
北原照久きたはらてるひさ
株式会社 トーイズ代表取締役
1948年東京生まれ。ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として世界的に知られている。大学時代にスキー留学したヨーロッパで、ものを大切にする人たちの文化に触れ、古い時計や生活骨董、ポスター等の収集を始…
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