1998年、『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞してデビューした作家、新堂冬樹さん。金、女、権力といった、欲望を取り巻く裏社会を描いたノワール小説で次々とベストセラー作品を上梓してきました。一方で、静謐で切なさの強い純愛小説でもベストセラー作品を連発。それぞれ「黒新堂」「白新堂」と呼ばれる作品を書き分け、深い世界観を世に示すことになりました。
さらに、2007年には、芸能プロダクション「新堂プロ」を設立。ドラマ、映画で所属女優が活躍し始めているほか、ダンスユニットのメジャーデビューも実現させています。ついに講演活動を始動するカリスマ小説家、芸能プロ社長、新堂冬樹さんを作り上げてきたバックグラウンドとは、どんなものだったのでしょうか。そこにはどんな秘密が潜んでいるのでしょうか。子どもの頃の話から、成功をするためのヒントや考え方まで、じっくり話をお聞きしてきました。
大学を出て、普通の人生を歩んでいたら、今の自分はないと思う
――作家デビューされる前から、相当な収入を得ておられました。月収が1000万円を超えた時期もあったそうですね。
「お金はかなり稼いでいましたね。金融の仕事をしたり、いろんな商品の物販をしたり。当時の世の中は、モノがどんどん売れる時代でした。私はもともとプロデュースをするのが好きなんですが、作家になってから、ちょうどムシキングが流行っていましてね。だったら、もっとリアルなものをやったらいいのに、と思ったんですが、誰も作っていなかった。私は子どもの頃から虫好きなんです。それで「世界最強虫王決定戦」のDVDを作ったら、1週間で1億円くらい売れてしまったんです。そもそも、どうやったらモノは売れるか。そういうことを考えるのが好きでしたね。
子どもの頃から、変わったところがありました。例えば、虫が好きだとカブトムシやクワガタムシを捕りに行くわけですが、私の場合はゴミ虫やムカデも一緒に捕まえていたんです。カブトムシは本当に一番強いのか、という疑問があったからです。他の人が考えないようなことを考えて、実行する。これはこういうものだ、という常識のようなものを疑ってかかる。そういうところは、子どもの頃からありました。おそらく人と同じことはやりたくなかったんだと思います。だから、目の付け所が人と違っていったのかもしれません」
――新堂さんの小説は、時代時代で、大胆で斬新なテーマばかりです。どうしてそんな発想ができるのか、という理由とも関わってくる話なのでしょうか。
「そもそも、これこれはこういうものだ、という常識のようなものが好きじゃないんですね。そんなの常識だ、普通はやらないよ、といった言葉は幼い頃から嫌いでした。その「普通」って何を基準にしているのか。ここにいる数十人だけの話じゃないのか。携帯電話にしても100円ライターにしても、発明される5年前に、それについて熱っぽく語ったとしたらバカ扱いでしょう。江戸時代に100円ライターに火を付けたら、しょっ引かれて張り付けの刑になるかもしれない。常識と非常識って、紙一重なんですよ。
私は高校を中退しましたが、そのときもさんざん言われました。担任からも、親からも、高校は出ておけ、大学に行ったほうがいい。それが普通だから、と。でも、全然大丈夫だから、と私は言っていました。みんなが高校と大学に行っている間にいろんな経験をして差をつけて、いずれ東大や京大の人間を使うから大丈夫、と。実際、20歳の頃、会社で東大生や京大生を使っていましたからね。高校中退の人には、コンプレックスをバネに、という人がいますが、私はそのコンプレックス自体、抱いたことがないんです。だって、むしろ早く社会経験が積めたんだから。実際、振り返ってみても、大学を出ていたら、今の自分はないと思います。15歳から東京に出てきて、早くから自分でいろんなことをやってきたから、今の自分があるし、小説も書けたと思っているんです」
――経済的には大成功していたのに、なぜ小説を書こうと思われたんですか。
「お金はもちろんほしいし、儲かればうれしいんですが、人を驚かせたい、びっくりさせたい、という気持ちが私の中にはあるんです。小説に関しては、私だったらもっとこう書くのにな、と思うことが多々あって。例えば、闇社会をテーマにした小説を読んでも、闇社会に自分自身が関わったことのある私にとっては、まるでリアリティがないんですよ。でも、そうやって文句言っているだけだったら単なる評論家です。だったら、自分で書けばいいか、と。それで書いてみたら、面白かった。そうしたら賞がもらえてデビューできることになった。 どうしていきなり書けたかというと、吸収する力があったからだと思っています。人と同じものを見ていても、吸収する力が人とまるで違ったんです。面白く吸収できてしまう。誰かがドジを踏んだ光景を、人より面白く表現できてしまう。それは、吸収の仕方が違うんですよ。私よりも闇社会のことを知っている人はたくさんいるわけですが、彼らが私以上に面白く闇社会を描けるかといえば、そういうわけではない。では、なぜそういう吸収の仕方ができるのかといえば、常識にとらわれずに物事を見ているからです」
いいことを考えると、いいことが起きる
―――小説では、欲望渦巻く裏社会を描いた「黒新堂」だけでなく、対極に静かな純愛小説「白新堂」も書かれていますね。
「基本のスタンスは白も黒も同じなんですよ。黒は白に変わるし、白は黒に変わる。例えば30歳の女性が主人公だとする。彼女の14歳の頃のハッピーエンドに終わる初恋の物語は、白い小説になりやすい。ところが2年後、彼氏が親友と浮気していることが発覚して復讐心がメラメラと沸き立ち、殺意を抱くようになったら黒い小説になる。一人の人生でも、黒と白の両方があるのが当たり前なんです。だから、私の中では黒と白を区別しない。もっというと、人を表面で判断したりもしない。地味な職業についている人ほど、私生活は派手だったりすることもあるわけです。墜ちていくのも早い。女性だったら、ホストに入れあげてしまったりする。金融の仕事をしているとき、お金がからむと人は本性が出る、ということを知りました。あっという間に墜ちていく人たちをたくさん見ました。
思ったのは、人間って生き物なんだな、ということです。動物は、お腹が減ると食べる。人間も同じです。所詮は動物なんです。だから、人間を美化しない。人間のほうが優れているとか、偉いとも思わない。私が一番、忌み嫌うのはミーハーな人たちです。まわりに流され、自分で考えられない人たち。例えば、テレビの映像で、ライオンがシマウマを仕留めるシーンを見て、シマウマがかわいそう、と思う人がいる。でも、実はライオンの子どもは1週間も餌を食べていなくて息も絶え絶えで、お母さんライオンが必死でシマウマを捕まえようとしているシーンだったら、頑張れライオン、になるわけですよ。動物がかわいそうだ、なんて話をステーキやフォアグラを食べながらする人もいる。ブラックジョークですよね。でも、そういう人が多いんです」
――そして作家として成功されたのに、今度は芸能プロを作られますね。
「10代の頃、勤めていた会社の親会社が芸能プロもやっていて、ちょっとだけ付き人のようなこともしたことがありました。そのときに、芸能界っていいな、自分に向いているな、と思ったんです。人を驚かせたり、びっくりさせたい、というのが自分の軸。しかも、原石を育て、光らせて、プロデュースする楽しみがある。作家よりも、むしろこっちを早くやりたかった。ところが、作家のほうがうれしい誤算でうまく行き過ぎて、芸能プロを作るのが遅くなったんですよ。
作家としてうまくいっても、芸能プロとしてうまくいくとは限らない、という声もありました。でも、それはこれまでの既存の発想での判断です。まったく違うことをやったとしたらどうなるか。実際、新堂プロは他とはちょっと違います。例えば、作家部門がある。人気放送作家やタレントなど、すでに錚々たる布陣の作家陣が所属しています。ここから小説やドラマ脚本、また原作のプロットづくりをする。原作レベルから作り上げていくことができるプロダクションになりうるということです。今後は、映画の製作、監督も手がけてみたいと思っています」
――売れっ子作家なのに芸能プロの経営まで。さぞや、お忙しいのでは。
「1週間に2、3回は徹夜しています。そうしないと、とても間に合わないんです。作家として今は5冊同時に書き上げないといけない小説があって、同時に毎週5本の連載が重なっています。芸能プロの社長としては、高みの見物をするのではなくて、自ら現場に出向く主義ですから、ここでも時間が必要。さらに飼っている犬と一緒に朝晩5キロ走っていて、加えてウェートトレーニングも欠かさずやっています。
でも、病は気から、なんです。エネルギーは気力がすべて。たとえキツくても、今日はウェートトレーニングはやめとこうかな、とはしない。ヘトヘトになっても、やるべきことはやる。遊びにも行く。そうしているから、次から次に新しくパワーがわき出てくるんです。疲れたから眠ろう、と考えると、身体が甘えモードになっていきます。いつもそれを求めるようになる。犬が餌を求めて尻尾を振るのと同じで、甘える頻度も高まる。疲れたら休んでくれるだろうと、思い込まされてしまうんです。人間の身体なんて、そんなもんですよ。何事もなかったかのように頑張っていたら、身体だって変わるし、運命だって変わるんです」
――考え方で未来は変わる、ということですか。
「所属しているタレントによく言うんですが、いいことを考えると、いいことが起きるんです。悪いことを考えると悪いことが起きる。これが基本。中村天風さんの言葉を借りれば、人生は心ひとつのおきどころ。まさにそうだと思います。大宇宙のプリンターは、悪いことを思っていると悪いことをプリントアウトするんです。逆に、いいことを思っていると、いいことをプリントアウトする。すべては自分次第なんです。起こってほしくないことは、心配しないほうがいい。逆にいえば、自分の考え方さえ変えられれば、みんな成功できると私は思っています。考え方が変えられなければ、まわりが変わったって変わらない。問題は自分にある。自分の考え方にあるんですよ」
成功できる人は、何が成功なのか、きちんと定義できている
――「成功」ではなく「大成功」を目指せと言われていますね。
「成功というのは、人生の中で何回かチャンスが来るんです。でも、大成功というのは、だいたい1回、多くて2回しか来ない。よく目をこらしていないと出くわせない。成功は偶然にやってくることもありますが、大成功はつかみに行く感覚じゃないと待っているだけでは手に入らないんです。でも、大成功を目指していたら、成功は簡単にできます。それこそ100万円の融資を受けるのに、100万円貸してほしい、じゃダメなんですよ。200万円借りようとすると、100万円は簡単に借りられる。それと同じことです。
では、大成功できる人とはどういう人か。まずは、大成功の定義が具体的になっている。単に「社長になりたい」「お金持ちになりたい」ではなくて、もっと具体化されている。例えばペットフードの会社の社長になる。ホテルも取引先にできるようなブランドを持っている。都内に25カ所の拠点がある。年商は8億円。年収は…と細かくなっている。大成功の具体的な姿を刷り込まないといけない。車のナビと同じですよ。漠然と東京、と入れても車は目的地にはたどり着けないんです。××区××2丁目15番まで入れないと。できればマンション名と部屋番号まで自分の中にインプットさせたい」
――どうなりたいのか定めることが、とても重要だと。
「何をやって何をつかみたいか。それをまず定めないと。このときに気をつけないといけないのが、世の中のモノサシで考えないことです。人気があるとか、安定しているとか、借り物の条件に惑わされない。自分が純粋にそれをやりたいか、楽しくできるか、ワクワクできそうか、だけを考える。そうやって選んだものは、結果的に自分に合うんです。 もちろん簡単には見つからないかもしれません。だから試行錯誤する。いくつも候補に挙げて、違うな、と思ったら次の目標に移る。最初から「これが天職だ」なんて見つけられないです。試行錯誤したらいいんです。でも、これだ、と決めたら、なりたい、ではなく、なる、と断言する。そして計画を立てて、ちゃんと努力して、実行する」
――でも、簡単に成功することは難しいですよね。
「一番大事なことは強い信念です。これで決まる。私はよく言うんですが、1ミリも疑ってなかったら、人は空を飛べると思っているんです。でも、疑ってしまう。だから飛べない。ただ、空を飛んだり、五輪の100mで金メダルを取る、なんてことは難しいかもしれないけど、大概のことは絶対にできない、なんてことはないわけです。できるんだ、と信じることができる。それが大事です。疑いもなく信念を持てれば、絶対に成功する。ところが多くの人は、口では信じると言っていながら、心の中では否定している。むしろ、そのほうが強かったりする。これではダメです。100%信じることができたら実現できるんです」
――新堂さんの小説の中ではとても印象的な人間の機微にたくさん出会えます。ビジネスシーンでコミュニケーションのヒントも講演でお話してくださるとか。
「上司、部下、それぞれで状況は変ることだと思いますので、それぞれにお話しています。例えば、女性部下の扱いに悩む人も多いようですね。私は今芸能プロで日々若い女性タレント達とも仕事をしていますが、特に若い女性は感情の浮き沈みも激しい。プライベートの状況も踏まえながら、より良いパフォーマンスを出してもらわなければならないので、話を聞いてあげるなどの気遣いは必要だと思いますね。ただ、まず大前提として、女性だから、と意識しないことが重要だと私は考えています。偉ぶることなく、へりくだることなく、年齢も意識せず、自然体で接する。男性の部下と接するのと同じようにする。こんなことを言ったら問題か、セクハラになるのではないか、などと意識し過ぎない。女性だから、と意識している時点で、すでに差別していることに気づかないといけないですね」
――最後に、サイトをご覧になっているみなさんに、メッセージをお願いします。
「人間は、どこかで見たり聞いたりしたことが、本当のことを理解する邪魔になることが多いんです。私は、特に変わったことを言うわけではありません。だからこそ、固定概念を忘れて、まっさらな気持ちで話を聞いてみてほしい。そうすれば、みなさんが普段、たくさんのことを見過ごしていることに気づけます。普段、目にしたり、耳にしたりしていることが、実はダイヤモンドのようなものだったということもわかる。ダイヤモンドは、実は自分の中にもあったんだ、という発見もできると思っています」
――本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。
取材・文:上阪徹 /写真:三宅詩朗 /編集:鈴木 ちづる
(2011年6月 株式会社ペルソン 無断転載禁止)
新堂冬樹しんどうふゆき
作家
1998年、『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞してデビュー。金、女、権力といった欲望をとりまく裏社会を描いたノワール小説「黒新堂」と、「白新堂」と呼ばれる静謐で切なさの強い純愛小説を書き分け…
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