2016年09月15日
どうなる?2020年の住宅不動産市場 不動産・投資のプロによる特別鼎談!
マイナス金利導入で居住用住宅、投資用不動産へ今後どのような影響を及ぼすのか?
予測の正確さに定評がある不動産市況アナリストの幸田昌則氏、金融と不動産の両分野で豊富な投融資実務経験を持つ不動産投資・マネーアドバイザーの賀藤浩徳氏、住宅展示場でのセミナーや個人相談で活躍するファイナンシャルプランナーの池上秀司氏、3名の不動産・投資のプロに分かりやすく解説してもらいました。
不動産市況2016年の見通しは?
――不動産市況に関して、今年の見通しはいかがでしょうか。
幸田:今年、私はマイナス金利が発表されたので、実態はともかくとして、顧客マインドは上がっています。一種のカンフル剤なので、どこまで続くかは分からないですけれども、しばらくは悪くないというふうに思っております。ただ、不動産といっても分野が広いですから、分野によっては、マイナス金利はそれほど効果的でないというところもありますし、逆に非常に効果が出ているところもあるというふうに、まだら模様になっていると思っています。ただ、全体としては、しばらくは追い風が吹くんじゃないかなと思っています。
――賀藤先生、いかがでしょうか。
賀藤:私も、基本のラインは、いま幸田先生がおっしゃったことと同じで、ちょっと違うことを言って目立とうかなと思ったんですけど、まったく認識が同じですね。といいますのが、2016年に関してはマイナス金利、これが、私は、実体経済にはそんなに効かないとは思ってるんですけれども、不動産にはある程度効くと。ただ、それは実体経済だとか不動産の実需的なものが非常にいいということではないので、どちらかというと金融的な利回り発想で不動産価格が上がってくるということになります。幸田先生もおっしゃいましたけど、いろんな不動産の種類と、購入層の種類、投資家と実需の別でまた違ってきますので、どこがピークかというのはかなりまだら模様で進んでいくような予想をしていますね。
――池上先生はいかがでしょうか。
池上:私は、他の先生たちと主戦場が違って、総合住宅展示場とかマンションギャラリーで個人住宅の相談業務をやっている身ですけれど、1月末にマイナス金利をやるよと言って、動きを肌で感じたのってマスコミでした。セミナー会場に某テレビ局が「2月の中旬の導入初日の番組でやるんで」と取材に来ました。じゃあ、お客様がどうかというと、意外に冷静です。確かに、もともと買うつもりの人がいい状況で資金調達できますね、っていうのはありますけれども、実需の部分では、そんなに影響があるとはちょっと思えていません。この前、とあるマンションの販売現場に伺ったときも、数年前と肌で感じる部分って変わってないんですよ。買える層は短期間で住み替えしたりして動いているけれども、本来取り込んでいきたい層が動いているかというと、実態としてあまりその感触はありません。あとは、私は注文住宅の展示場にいるので、消費税が来年4月1日にどうするのかと。いちおう予定どおりであれば、9月30日までにハウスメーカーさんと請負契約をしていくと8%で買えるので、特にゴールデンウィークあたりは最後のチャンスと住宅展示場で大々的にやって、重い腰が上がっているかというと、実態としてやっぱり上がっていないなっていうのが正直な感想ですね。まだ5%から8%にするときの駆け込みってインパクトがあったんですが、たぶんお客様の中でも、「いや、この状態で熊本もああなったから、安倍さん、上げないんじゃないの?」とちょっと余裕を持っている層もいて、実際駆け込みで盛り上がっている感じを受けてはいません。
賀藤:やっぱり実需者にとっては価格が高くなりすぎて、アベレージで考えちゃいけないんですけれども、やっぱり年収の十数倍にもう首都圏はなっちゃっている。で、私のお客さんもそうですけど、もともと投資専門なのですが、投資需要の方ばかりで、実需の方はもうほとんど問い合わせもないですね(笑)。
幸田:今は、2つの需要が出ていると思っています。2つの防衛的な動き。1つ目は、生活防衛。それを反映して、安い物件が売れているんですよ。シンプルに言えばね。もう1つは資産防衛。相続対策がわかりやすい例です。投資家の人たちの動きも、この範疇にはいります。実際の取引で説明すると、中古のマンションとか中古の戸建て。特に最近では、1年ぐらい前まではあまり売れていなかった「安い中古の戸建て」がこのところすごくよく売れているんですよ。生活防衛なんですね。要するに月々家賃を十何万円か払うよりは、今の安い住宅を買えば月々8万円のローンで済むといった生活防衛型と、あとは資産を持った方の投資だとか相続対策だとか、こういう需要。だから住宅のマーケットで見れば、新築のマンションは今回マイナス金利で、ドッとは動いてないですよね。おっしゃったように値段が高くなりすぎて、マイナス金利で買おうという発想とは、ちょっと違うんですよ。
賀藤:あと、お客様も賢くなられて、新築、私なんかの世代の頃って、もう新築一辺倒というか、新築を買うのがステイタスとか嬉しい感覚。新築のものは割高だっていうのがある程度コンセンサスを得てきているので、もう住んだ瞬間に何割……
幸田:2割ぐらい下がりますから。
賀藤:という話があるので、じゃあ、中古になって、半年では出てこないけれども、5年でもなかなか出ないですけど、やっぱりそこそこの築年数の中古というのがかなり注目を浴びていて、そのもっと先に、先生おっしゃった戸建て。戸建てがえらい安くなってるんですよ。そうすると戸建てを買えば、もう土地も家も自分のものだと。マンションって、やっぱり住みにくい。騒音問題しかりで、いろんな住民がいますから。
幸田:今回の熊本の震災とか、神戸の震災のときもそうですけど、共同住宅の難しさというのも本当はあるんですよね。あのようなことが起きると、そのあとの保守修繕とかに関して、なかなか住民の合意ができないとかいって。阪神淡路大震災では、中古マンションの崩れた画像が出て、そのあと住民の合意が得られなくて困ったので、マンションから戸建てという流れがあったんですよね。今回、どのような流れになるのかは、わかりませんが。ただ、今は価格がけっこう大きな決め手になっています。もともと、日本人は新築が好きなんですけど、変化の兆しはあります。従来、日本人は「自宅はマイホーム」っていう考え方で、要するに価値が下がっても、住み続けるのが基本。アメリカの人たちは、住宅を買うとは言わないですね。住宅に投資をするという感覚。なので、損をしない資産といったら中古のほうが圧倒的にいいわけですよ。日本人と欧米の人たちの感覚が近づくだけでなく、経済的な理由でも、今後は中古物件にどんどん目が向いていくと思います。
2020年の東京五輪、不動産価格への影響は?
――これから4年後のオリンピック、2020年まで価格が上がっていくのかどうか。オリンピックに向けた今後の不動産動向というのは、どのようにお考えでしょうか?
幸田:もう、湾岸エリアの高層マンションの価格は、頭を打ってきています。このエリアでのデータを見ると、価格はそろそろ天井に来ているというふうな感じがします。それは利回りから見てもそうですよね。もう3%とかね。いくら低金利時代とはいえ、3%とかなると、実際はそんなに魅力ないですから、利回りからいっても、そこそこ天井。だから、90年バブルのときもそうでしたよね。私、あの当時“バブル”という言葉はなかったんですけど、皆さん持っている不動産を全部売って、国債に買い替えてくださいって言ったんです。そのときの大阪のビルの取引事例が3%を切っていたんですよ。ただし、当時はまだ金利が高かったですからね。国債の利回りが5%以上ありましたから、今とは事情が違うので一律には言えないけれども、純粋投資としては、もう価格は上限に来ていて、それでもなおかつ3%とか4%でも売れているのは、節税対策だからというね。
――賀藤先生、いかがでしょうか。
賀藤:私も価格はいいところまで来ていると。いいところというのは、すでにピークを打っているところがあるでしょうと。ただ、これもやっぱり物件とか購入者によって若干違っていまして、すでに本当の投資のプロ。私、前の勤め人のときにそういうのをやっていたんですけど、要は何十億とか何百億、何千億を買うプロは、もうピークが過ぎていると思っていると。で、これはいろんなシンクタンクの調査でもありますけど、ほぼほぼ、もう3割以上はすでにピークが来ていると。で、今年来るっていうのが、またその3割。だから6~7割は今年にはピークを打っているという予想をしている。ただ、これはもう投資の最先端を行っている人たちなので、これがまた個人で一棟アパート、3,000万から1億ぐらいのロットで買う人は、またちょっと違っていて、彼らなりの思惑だとかマーケットで動きますので違う。また個人がもっと小さいワンルームを買うだとか、実需で家を買うと、これはまた更に違ってくる。で、私の理論は、だんだん今申し上げた順に価格が落ちてくるというか、後ずれしてマーケットが動いていくというふうに、過去の例を見ると思っているんですけどね。だから、2020年までどうかというと、一部のものは生き残っているかもしれません。価格が高原状態でね。ただ、やっぱり2020年の1~2年前にはもう落ちてきているんじゃないですか、という意見です。で、今、マーケットをかく乱しているのは、先生がおっしゃった相続対策。これはべつにそれほど価格をシビアにやらなくても、相続対策になって、そこで収益というか、節税できればいいわけですから、逆にお金持ちがやることですから、いいものをそれなりの値段で買える。だから、ここは普通の人と全然価格感の違う、高く出せる人たち。ここが今、マーケットを高値方向に崩しているんです。もう1つは、外国の方です。中国系だとか。幸田先生のほうがお詳しいと思うんですけど、今ちょっと前よりは下火になっているのかもしれませんが、もう日本人の目線とは違う価格で買っていかれる。なぜなら、彼らの地元で買うと、1つは利回りが低くなりすぎる。もう1つは、建物の信頼感とかグレード感というのは日本のほうがあるので、まったく違う目線で買う。だからマーケットサイクルの話と、投資家で、ちょっと目線とか投資のそもそもの考え方が違う人たちが入ってきているということで、それって昔のバブルの時代もよく似てたと思うんですけど、それは、昔は個人の外国人が買うんじゃなくて、機関投資家というか、投資銀行系の外国が買っていったのと、国内の相続対策もあった。それに近いことに今なってきている。
幸田:今、賀藤さんが言われたとおり、投資というか、買う主体によって違うんですよ、考え方が。要するに思った以上に格差社会になりましたからね。で、先ほど言ったように、生活ギリギリでやっている人は、やっぱり価格。家賃よりも低いところで買いたいという。そういう人と、もう片方は、お金を山ほど持っている人。だから、株もああいう状況だし、やっぱり不動産を持っておこうかなと。だから、要するに投資の尺度、「経済的な合理性からいったら、とてもこんな利回りで買ったって採算合わないよね」と思っていても、カネを持った人はいくらでもいいわけですよ。その代わり、場所はいい所じゃないと嫌だと。だから、例えば相場が50億円のビルであっても、「いや、俺は80億でもいいんだよ。この場所に欲しかったんだから」と。こういう人もいるわけですよ。まあ、不動産って、そういう面では非常に面白い商品なんですね。だから、要するに、これが基準というのは無いんですよね。そして、不動産は格差社会をものすごくよく、反映していると思います。だから相場なんていうのは、無いようなもので、カネを持った人にとってみれば「いや、別に利回りどうでもいいよ」と。「俺、この銀座の中央通りのこのビルが欲しいんだから」と。ただ、経済的な合理性で判断される方も増えていますから、「え?そんな値段で?」と驚く取引事例があるのが実態です。ただ、賀藤さんも言われたように、全体的に見れば、私は、もう価格は上限に来ているっていうふうに思っています。
――池上先生、いかがでしょうか。
池上:個人住宅はいつが買い時ってよく聞かれるんですけど、欲しくて買えるなら買えばいいとしか言いようがないんですね。で、その追い風になるのは、例えば消費税は上がるのは嫌だよねとか、そういうのはあっても、買ったらたいがいみんな忘れてるんです。この前、借り替え相談に来たお客様は、買ったのが3年ぐらい前なので、借り替えるより今のローンのほうがいいという状況で、「なんだ、借り替えダメなのか」って残念がっているんですけれど、「いえいえ、借り替えてメリット出ないっていうことは、最初にいい資金調達しているわけだし、そもそも消費税何%で買いました?」っていうと、「あ、5%だ」と。「買うとき思い出してください。消費税上がる前に買おう。今、金利安いから買おうっていって買って、それが続いていて、なんでダメなんですか」って言うと、「あ、そうですね」ってなります。だから個人の買い時なんていうのは、ないんですよ。
とはいえ、今もし手が届くのなら、悪い状況ではないのかなというのはやっぱりあります。それは調達金利が安いということ。あとは、老後を楽にするのは、早くローンを組んで、早く終わりにするという、ものすごく単純な話。昔と今は資金計画が変わっていて、バブルの頃は住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)で借りるので、頭金を貯めないと買えなかった時代。当時は頭金を貯めるために「つみたてくん」という金融商品がありましたけど、今はその名前を忘れているし、私の後輩なんて、そもそも存在を知らない。昔は頭金貯めないと買えなかったけれども、今は銀行が100%融資してくれる。もう時代は違うんだから、早く買って早くローンを終わらせれば老後楽になるっていうのは、目に見えている。今売りに出ている物件って、昔の物件じゃないから、35年でへたるようなものでもない。だから、欲しいと思ったら、悪い状況はないから前向きに進む。欲しいと思ったときが買い時なんじゃないかなっていう気はしていて、いつもそれは言っています。
先ほど話題になった資産のある方たちで考えてみると、個人の住宅は二世帯住宅が増えていますね。去年相続税が改正になったので、土地の評価の下がる小規模宅地の評価減を使おうと。昔は、家を出て、親元から離れて家を買うというのが一人前という時代だったと思うんですが、ライフスタイルが変わってきて、相続税対策で二世帯住宅にして、土地は同居の子供に継がせるというケース。その一連の流れで、他の先生たちがおっしゃった、もっと持っている方たちは、やりすぎてこれから国税が注視していくタワーマンション節税などまで派生してきたのかなと。
個人の住宅と不動産投資ってまったく違うので、投資だったら住まないから、極論したらどこの物件でも、利回りが確保できればいいですよね。でも、住むっていうのはまったく違うし、自宅は売れてもそれで済まなくて、そのあとどこ住むのかまで考えなきゃいけない。投資と一線切り離して考えた場合には、今は個人住宅を買うのにはすごくいい状況だし、親御さんの住宅資金の贈与の特例とかもあるので、考えていくのは全然悪いことではないんじゃないかなと。それが間違っているかというと、まったく間違っていないので、興味があるならどんどん動いたほうが。結局、個人の住宅って、買えない人は2~3年前から「2~3年後に買いたい」って言っていて、2~3年経っても「2~3年後」って言っているだけなんです。で、買い時を失って、今まで払った家賃を計算したらみんな愕然とするというのがあるので、今、すごく個人の住宅はいいと思います。
投資は、やっぱりちょっと目利きしていかないと、ほんと良し悪しだと。だから、ちょっと怖いなと思ったのは、1週間ぐらい前ですかね。テレビ番組で、将来が不安だからといって、都内のとある駅から徒歩20分のワンルームマンションを買ったご夫婦というのが出ていまして。その物件でほんとに買って大丈夫なのかっていうような物件を……
賀藤:実需? 投資?
池上:あ、投資で。ワンルームで駅から徒歩20分で、もうほぼローンでっていう話です。堅実なご夫婦だったのに、まあ、堅実だからこその将来不安があって、その将来不安の解消法が、その駅徒歩20分のワンルームマンション投資だったっていう。本当に利回りが取れるのかとか、当然、空室一発出たらアウトだとか、そのへんの目利きができているのだろうかと。現金を持っている人が節税対策で現金を不動産に替えますっていうのは、これは当然のことだと思うんですけれども、今、不動産投資ですごく盛り上がっていて、ワンルームマンションのセミナーも人気があって、人もたくさん集まっている。けれども、お金がない人がフルローンを組んでる、みたいな話というのが非常に多いらしくて、それはちょっとおっかないなっていう気は、端で見ているとします。
賀藤:私のところのお客さんも二極化していて、まあ、お金、資産を持っていて、もっといいものを買いたいという方と、老後が不安なので100%ローンに近い、フルローンに近いものでワンルームだとか一棟アパートとかを買う方。で、まあ、問題のある業者はごく一部ではあるのですが、一目見て、これはまずいねっていうのがある。やっぱり業者さんが作る資料がいい加減。だから、まあ、営業だから当たり前っていえば当たり前なんだけど、リスク性の説明はほとんどしてないし、していたとしても、もうちっちゃい字で書いてある。それと、今おっしゃったように、稼働率だとか賃料の、20年、25年、30年、35年って収支作ってるわけですけど、まあ、バラ色の(笑)、これはどう考えてもあり得ないんじゃないかっていうので判断されているわけですよ。ワンルームで20分も歩いていいのか悪いのかも分からないような方が、「節税になりますよ」とか「老後不安で、これ、年金になりますよ」っていって、物件をほぼ見たか見ないか分からないような中で買っていくっていうのが、今の状況ですね。だから、これは非常にまずいと思いますね。まあ、今、先生方がおっしゃったように、価格が下がって、賃料もあまりよくなくなってきて、稼働も悪くなったときに、やっぱり困る方がいっぱい出られるなあと。
池上:だから、どの一瞬を切り取っても利益になってないっていう資金計画書なんですよね(笑)。どちらかというと収益が上がるというより、赤字が拡大していく資金計画書でしかないんです。危険だと思います。
賀藤:いちばん変なのは、収入不安だから買いましょうって勧めてるのに、「物件の収支は赤字になったものの節税になるから、そんなに高い給料じゃないんだけど、ここが節税されて戻ってくるから……
池上:そう!所得税の節税に、みたいな話になるんですよね。
賀藤:ちょっとおかしいと思いませんか、みたいな話になるわけ。
幸田:でも、突き詰めたらそうなんですよ。
マイナス金利のメリットとデメリット
――先ほど、“マイナス金利”というキーワードが挙がってきましたが、“マイナス金利”とは何か、分かりやすくご説明いただけますでしょうか。
池上:簡単に言うと、金融機関には日銀に預けているお金があるんですが、ある一定の量を超えた分に対して金利をマイナスにしますっていうことです。一定の量を超えたらマイナスにされるから、預けないほうがいいじゃないですか。じゃあ、預けない分、世の中にどんどんお金を出して、要は貸せと。“マイナス金利”と取り沙汰されていますけど、正式に読むと、“マイナス金利付き量的・質的緩和”と書いてあります。ですから、今は資金をとにかく世の中にどんどん投下して、経済を活性化させていきたいというのが日銀の狙い。それが功を奏したのか、奏していないのかはわかりませんが、結局、その政策を発表してすぐに長期国債の利回りもマイナスまでギューッと落ちてきて、それに引きずられて、国債の利回りが基準になっているような金融商品、それこそ住宅ローンの金利の固定期間が長いものとか、今、金融機関で力を入れている、10年間だけ固定しますなんていう住宅ローンは、毎月最低更新をしています。ついでに、預金金利まで下げられて、今はATM手数料を1回絞るほうが大切といった、非常に情けない議論になってきたところですね。
――個人の方が住宅を買われる場合、投資家の方が物件を買われる場合、いろいろなケースがあるかと思いますが、このマイナス金利は実際にどんな影響が出てくるのでしょうか。
幸田:1つは、今おっしゃったように、住宅ローンを借りるときにより安く借りられるっていうのは、メリットですよね。それ以外でいちばん大きかったのは、やっぱり富裕層の人たちがマイナス金利に敏感で、自分の持っている資産を不動産に向けようというのは、現場を見ていても、お金持ちの人は投資として本当に採算が合うのかどうかは別として、お金が不動産のほうに流れていくことはもう間違いないという。ただ、これもカンフル剤ですから、どこまで続くかっていうことと、どれぐらいの効果があるのかっていうのは分からないですよね。ヨーロッパが先行してマイナス金利をやりましたから、あれを見ると、物価は結局、願ったとおりに上がらずに、住宅の価格だけが上がったわけですよ。ところが日本の場合には、住宅価格はもう十分に上がっていますからね、ヨーロッパみたいに5割増しとか3倍になったというのは、私は日本では考えにくいと。ただし、少なくとも価格の下支えをするぐらいの力はあるかなという、そういう感じがしています。富裕層の人たちが今、収益物件とか相続対策で買っていますけれども、富裕層で、この人は大丈夫だという人へは、0.3~0.5%といった金利で貸しているんですね。それからこの前、ある地方で伺った際には、地元の地銀さんが金利ゼロで企業に貸したといいます。私、意味分からないんですけれども(皆、笑)、そういう実例がありました。そういうことがありますので、やっぱりマイナス金利というのが1つのきっかけになって、先ほど言われたように一段の金利を下げていると。そうすると投資家の中には、物件の利回りは低くても大丈夫と考える人が増えてくる。要するに投資基準の判断をどんどん甘くするという、そういう状況になっていますよね。で、このマイナス金利の問題で、今後いちばん大きな問題は、一番、打撃を受ける銀行がどうなるかだと思います。銀行が融資の姿勢をどう変えていくのかどうか。これが、これから先の心配事です。今は、不動産業者にジャブジャブに貸しているが、今度は選別融資をしてくるんじゃないかと。一部にそういう動きもあるようですし。ある都銀さんに聞いたら、買い取り業者からの返済遅れが増えてきたとか。だから、少しは選別しなきゃ、とか。自分たちのビジネスが厳しくなってきていますから、そうした問題は今後、出てくるだろうと思います。借金をする人にとって、今の時期は悪くはないのですが、日本の不動産の価格は、結構、上がっていますからね。片方で、働いている人の実質給料は上がってないんですよね、手取りは。先ほどおっしゃられた通り、東京で年収の10倍とか、異常な値段になっているわけですよ。要するに支払い能力が下がっているのに、不動産価格だけが上がる。これはバブル的なんですよ。
賀藤:まさしくそう。
幸田:それから家賃収入とかも下がっているわけですよ。そういう中で、取引価格だけが上がるというね、論理的に矛盾しているわけです。だから、こういうときはバブル。だから、今はバブルだという認識でいいと私は思います。90年バブルのとき、私が日本で最初に手を挙げて、さんざんに袋叩きに遭ったんですけどね。不動産の価格は、あと半年以内に下がり始める、ということを言ったんです。そのときと同じように、やっぱりおかしい。だからそのとき、「不動産を売って、国債を買ったほうがいい」と提案した。ところが、足元では、土地の値段はどんどん上がっていましたから、「バカなことを言うんじゃないよ」と言われたわけですよ。
賀藤:そうでしたね。
幸田:そうなんです。だからそういう意味では、私はもうね。
――賀藤さん、いかがですか。
賀藤:マイナス金利が不動産に及ぼす影響だけで1時間ぐらいしゃべれますけど(笑)。まあ、ちょっとかいつまんで言えば、1つは、おっしゃったように調達金利が下がる。住宅ローンはほんとに下がってますよね。で、やっぱり投資家の調達金利も下がっているというのはあるんですけど、もともとけっこういい水準に下がっていたので、相対感でいうとそんなに変わらないんですよ。如実に出ているのが、つい先日、日本不動産研究所が投資家調査というのをやっていて、私が前にいたシービーアールイーというのも投資家調査をやっているんですけれども、これの金融機関の貸出態度のディフュージョン・インデックスとか、あるいは自分が今後投資するスタンスがポジティブか、ネガティブかってやるんですけど、それはほとんど変わっていない。逆にちょっとマイナスになったりしているんですよ。で、それはもう3月とか4月の調査ですから、マイナス金利は織り込み済みだと思うんですね。だけど、そんなに変わっていないよと。一方で、価格はもうけっこうピークに来ているな、みたいなものがあるんですね。だから、実需の住宅ローンの金利はほんとに下がりましたと。で、これ、池上さんおっしゃるように個人の立場からだと、まあ、今、買い時の年齢にいる人で、物件、気に入ったのがあれば買えばいいじゃないっていう話だと思うんです。で、投資家にとってはそんなに変わっていないというのがあるんですね。だけど調達金利に、実体面ではいちばん大きく影響が及ぶ。
幸田:そうですね、そのとおりです。
賀藤:で、もう1つは、幸田先生がおっしゃったように、これ、期待ですよね。期待形成。アベノミクスもそうですけど、日銀のゼロ金利のときからそうですけど、もう日銀の施策は、期待形成なんですね。物価が上がるだろうという期待をみんなが持てば上がるっていう話じゃないですか。だから実体経済は、まあ、多少よくなりましたけど、そんなに変わっていない。まあ、よくなったのはよくなったんですけどね。で、このマイナス金利というのは、もう期待形成に働きかけるところが大で、富裕層とか目端の利く人は、「いや、もう次、不動産だ」っていってドーッと買いに行くわけですよ。だから上がると。でも実態、じゃあ、賃料は上がったのかとか、稼働は多少よくなったりしていますけど、オフィスの稼働も空室率で見たら底を打っているような感じですから、そんなに実態はよくなっているというわけでもない。で、企業業績は最近はちょっと悪くなってるじゃないですか。そうすると、今後、やっぱりオフィススペースを縮小したりという動きも出てくるので、そんなに実体経済はよくないというのがある中で、なんで盛り上がるかというと、期待形成に敏感な富裕層の投資家が買っているという話がある。
幸田:前提でいえば、今おっしゃった通りなんですよね。そのもっと前でいえば、皆さん、やっぱりお金持ちの方ってインフレにすごく敏感で、経験則から不動産へとお金が行きますね。講演をたくさんやっていますが、最後に質問を受けるとき、だいたいインフレという話が出るんですよ。私は経済のことは分かりませんから、本当にインフレが来るのかは、わかりませんが。基本的には、生産性がものすごく上がったわけですよ。産業革命まで遡っていくと。例えばトヨタ自動車が車を最初作ったときに、トヨペット・クラウンを2日半とか2日間かけて1台作ったとかね。今はもう何分かごとにガンガン車なんて作れるわけでしょ。モノが大量に供給される時代になり、生産性が上がったことによってインフレになりにくくなっているんですよね。だから、たぶん皆さん方もそうだと思いますが、もうわれわれの年代になったらね、買いたい物、ないんですよ。だから、要するに「カネを流すからモノを買って、消費を活発にしてくれ」って言われても、ないんですよ。旅行するとかね、まあ、多少友だちと飯を食うとかいうことはあっても。しかも、モノの値段って、大量に供給されるので、あがりにくい。だから逆にいうと、銀座4丁目の和光のビルは、これはもう代わるものはないから、それはもう高くなるわけです。でも、同じ不動産でも、例えば私が住んでいる郊外の分譲地なんて、いくらでもあるわけですよ。インフレになりようがないですよ。経済の基本構造が変わってしまったんです。今、起きていることは、おっしゃったとおり、金融でやっているわけですよ。金融だけでしゃかりきにやってる。
賀藤:やっぱりマイナス金利っていうのは、さっき池上さんがおっしゃったように、日銀にある一定量を超えたら預けるわけで、そこがマイナス金利っていうことは取られるわけでしょ。ということは、銀行が貸すところがないからですよね、そもそも。だから需要がないのにそんなことをやったって、もう不良債権をつくるだけです。銀行が。で、今、地銀が貸出を増やしている増加率の寄与度の1番は、不動産業なんですよ。日銀が「金融システムレポート」っていうのを半年ごとか、作ってるんですけれども、それはもう地銀恐るべしで、不動産業の増加率にいちばん寄与度が高いんですよね。いつか来た道です。
幸田:アパートの貸出にも注目しているようで、地銀の融資先のアパートがちゃんと埋まっているのか。更に、新築から2年後、3年後、ちゃんと空室がないのか、賃料はどうなっているのか、金融機関はチェックせよっていうレポートも出ていますよね。それぐらい、危ないと思ってるんですよ。
賀藤:マイナス金利だから当然、リスクフリーの国債の利回りがマイナスになっています。全般的な金融商品の利回りも低下する。そうすると、実物不動産とかJ-REITの利回りがすごくよく見えてくるわけですよね。実際いいんですけど。J-REITを今買ってるのは地銀さんですから、それで上がってるんですよ。
幸田:そうですね。
賀藤:で、ゼロ金利が導入されたのが1月末でしたっけ? あれのちょっと前日ぐらいの、28日ぐらいの株価と比べたら、日経平均って、たぶん昨日の終値だとそれよりも下がってるんですよ。J-REITは5%ぐらいかな、いちおう上がってる。途中ではあれ、2,000近く1,970ぐらいまで行きましたから、そのとき十数%ぐらい上がってるんです。不動産の価格の出し方が、いわゆる純収益割る還元利回りとなりますので、この還元利回りっていうのは利回りのことです。だからそういう意味だと、不動産は金利が下がること自体で、自動的に価格は上がるということが言え、実際その通り上がってるんです。だけど、その先が怖いね、っていう話。
幸田:私もそうだと思います。だから、私は不動産業の方、経営者の指導をしていますから、ポストアベノミクス、もうこれは大変なことになるよと。だから、ミニバブルのときには、こうやってある程度V字型というか、2~3年ぐらい悪くて、その後はうまくいきましたけど、今度はU字型じゃなくてL字型みたいになると。
賀藤:Lですか。
幸田:そう、マーケットの低迷が、ちょっと今回は長いぞと。もうカンフル剤を打ち過ぎていますからね。まずアベノミクスで、先ほど言ったように国民に期待を持たせて、ガッと1回やっておいて、で、異次元の金融緩和でこうやって、それがちょっと弱くなってきたら、今度は相続対策を強化するぞっていうことで、また不動産の需要カンフル剤になって、もうマイナス金利、要するにカンフル剤をずっと打ち続けてますから、これが切れたときの影響は大きい。
賀藤:あと、消費税増税も、もしかしたら先延ばしにする確率が高くなってきていますからね。
池上:もうそれしかないですよね。今年は他に何か金融政策やるよりは、「もう消費税を上げるのを延期します」で選挙に持っていく以外に手はないんですよね。
賀藤:そうすると、私も長期で見たら、幸田先生おっしゃるように、インフレっていうのはあるのかな。ないんじゃないの?と思います。そして、金融マーケットっていうのはどこかで稼ごうと思うので、消費増税先延ばしにしてカンフル剤で公共投資だとかお金をばらまくのをやったりすると、実際そんなに日本の財政は危なくないにしても、それを煽る投資家がいて、ワーンと日本の国債を売りつけたら、金利が急に上がります。で、よく経済学者の方がおっしゃるのは、国債を持っているのは、外国人が持っているの、少ないからって言ってた時代から、もうかなり上がってるんですよね。
幸田:5%ぐらい。
賀藤:5%から7%とか上がってる。で、J-REITも少ないのは少ないんですけど、でも、マーケットを動かしているのは数%しか持っていない外国人なので、これはちょっとヤバいかなっていう。マーケットかく乱要因っていうのは、今後何年かいっぱいあるなっていう気がします。
幸田:そういう意味では、今後、金利がどうなるのかとか、銀行さんの融資姿勢がどうなるのかという事がカギを握っていると思います。昔以上に、不動産マーケットは金融と一体以上の、密接な関係になっているので。
賀藤:マイナス金利で、短期的には他の利回りが出ない。だから、なんだかんだいって安く貸していても、不動産の貸付って、他の貸付に比べれば高く貸せるので。例えば地銀さんだと、大企業だとか、そういう良い与信ができる貸出先が少ない。そのため資金があんまり大量にはけないので、利回りを求めて不動産貸付に行っちゃうんですよね。だから行くのはいいんだけど、そのあとマーケットが変わったり、あるいはマイナス金利自体は日銀も認めているように、当面、金融機関には悪い影響を及ぼすということなので、それがボディブローみたいに効いてきたときに、先生方がおっしゃっているように、ちょっと融資を引き上げようかとか、そこにマーケットのダウンサイドが重なったら、いっぺんに、銀行のやることですから、雨が降ったときには傘を貸さないという(笑)状況になる。私も金融機関にいたので、バブルの生成から回収までやってきたんで(笑)。
幸田:いや、言葉は悪いけど、金貸しは金貸しですから。
正解がないからこそ、自分に合った資産形成を
――最後に、老後の備えのためのマネープラン、資産形成はどのように考えたら良いのか、又、不動産に関わらず今おすすめの方法がありましたら、教えて頂けますでしょうか。
池上:昨日、保険業界の先輩と焼き鳥をつつきながら色々と話をしていて、「みんな、やっぱり将来は不安。でも、金利低いよね」ってなったときに、日本人の気質でいちばん合っているのは、結局は固定金利型の商品とか貯金なんだよねと。保険でなにかできるかって考えても、じつはうち、今、母がちょっと具合悪くて介護をしているので、「民間の介護保険で何かいいのあります?」っていうと、「結局、介護の保険はあるけれど、介護するかもしれないし、しないかもしれない。しない人にとっては保険なんて役に立たない。じゃあ、何がいちばんいいのっていったら、将来確実にお金が手にできる個人年金とか貯金じゃない?」っていう話になったんですよ(皆、笑)。それがいちばんうなずいちゃったんですよね。
だから、色んな商品があるので、興味があってやるのはいいと思います。でも、どれが正解っていうのはない。自分が興味があってやるのはいいんだけれども、やっぱり株の世界でも不動産の世界でもプロがいるんで、しっかり理論武装をしたうえで臨んでいかないと、安易にやって素人が勝てるような甘い世界ではないっていうのは、心しておいたほうがいいんじゃないのかなと思うんですよね。よく、こっち側(FP側)の言い分として、「老後に住宅ローンが残ったら大変ですよ」って言う私の同業者、多いんですけど、「じゃあ、あなた、家賃だったら大丈夫なの?」って聞きたくなっちゃうんですよね。住宅ローンって、35年で組むけど、多くは25年ぐらいで終わっていると統計データがあるので、その先家賃があるかないかでいえば、ないほうが楽っていう人のほうが多いんじゃないですかね。ですから、老後不安を抱えているんだったら、しっかりした自宅を持っておくというのはいいことだと思います。
あとは、まあ、株だなんだっていうのは、これはもう正解がない部分だからこそ、自分に合った方法をと思います。といっても、好きな人はいますね。私は理解できないんですが、投資信託が好きで、投資信託の1%未満の手数料の議論のために、毎月3,000円で飲み会やっている人たちもいて、その3,000円がいちばん無駄なんじゃないのって(皆、笑)。月2万円くらいしか投資していないのに、その1%未満の信託報酬のために毎月3,000円で情報収集してますって、その3,000円貯金しとけばって思っちゃうような人たちもいたりして(笑)。それはそれで幸せならどうぞとは思いますけど、結局そこに振り回されている人たちも、結構いるような気がします。今こんな時代になって、「どんな金融商品がいいですか」ってよく聞かれます。画一的な正解があれば自分がやっていますが、それはもう今は期待しないで、とにかく堅実な方法しかないんじゃないかなって思います。だから、貯金でもいいんです。周りは焚きつけますよ。それこそ、テレビ見て「不動産投資やっちゃおうかな」とか思う人は当然出てくるけれど、そこにはしっかりとした目利きは必要。
あと、さっきの話に戻りますけど、オリンピックの話。私は昭和43年生まれなので、前の東京オリンピックを知らないんですけれども、そのときに新幹線ができたりして盛り上がったはずなんです。インフラができていって、「オリンピックだ!」と盛り上がって、収入も上がっていく。だから「お金も使おう」だったと思うんですけど、今、東京オリンピックの話題って、暗い話題しかないんですね。エンブレムしかり、国立競技場の建て替えしかり。デフレが長く続いてしまって、これはいちばん悪いのは、私はマスコミだと思っていますが、とにかく足の引っ張り合いが好きになってしまった。だから「オリンピックだよね。みんな盛り上がっていこうよ!」って言っているのに、なんか「無駄なお金を使うな」みたいな話で、渋ちん、渋ちんになっちゃう。じつはああいうところでしっかりお金を使えば、働く人たちにお金が回るのに、使っていい場面で使っていない。
マイナス金利で調達金利が安くなっても、「家欲しいな」と思うのって、給料が上がるか上がらないかだと思うんです。金利が安いから買えるっていうのは、やっぱり収入がある人なんですよ。中間層の人も、給料が上がるなっていう期待があれば買おうと思うんだけれども、今30代とか現役で頑張っていらっしゃる人たちはバブルを知らないし、周りから、“下流老人”だとか、そんなことばっかりやってくるじゃないですか。だから、いわゆる消費マインドの部分に関しては、本当に中間層から下の人たちっていうのはものすごいネガティブだと思いません? ここを変えるのは相当困難だろうなって思っています。だから、結局お金が回ってない。マイナス金利を導入しても、お金が回らないっていうところからすると、急激な景気回復は見込めないんじゃないかな。
マイナス金利にしたはいいけど、銀行からすれば、薄利多売の薄利がもっと薄利になって、資金が回収できなくなればさらに収益が悪化して、ついでに金融庁から怒られる。貸さなければ「貸せ、貸せ」と怒られるって、貸しても貸さなくても怒られる状況。私は金融機関からの仕事もしていますけど、今の住宅ローンはほんと儲からないんですよね。だから、今何をやるにもケチがつく状況になっちゃっているから、みんなでお金を使おうという気分にならないなって。これを改善するのは大変だって思いますね。足を引っ張るほうは話題になって盛り上がるのに。
賀藤:そうです。オリンピックも、たしか39年のやつは、画期的なインフラができているわけですね。新幹線だとか。で、もともとないところにいろんな会場ができた。
幸田:高速道路もそうですしね。
賀藤:今はそうじゃなくて、たぶん終わったら空いてしまう選手宿舎とか、要はマンションの容量が増えちゃうようなものだけ。せいぜい銀座とか晴海のほうを走る新交通機関、そのぐらいで、そんなもの全然革新的でも何でもない。先生がおっしゃるとおり、終わったら盛り上がらないですよね。
幸田:話は変わりますが、老後の生活に備えて今やるべきこと。もちろんいろんな投資はあるけど、やっぱり今から先は、病気をしないとか、健康がいちばんだと思うんですよ。健康じゃないと稼げないんですよ。だから私はね、健康がすべてと言ってるんですけどね。私は73歳になるんですが、健康じゃないと稼げないんですよね。だから、自分に投資をするということが本当はいちばん大事だというふうに思いますし、それから、これは賀藤さんの専門かもしれませんけど、現金の持ち方も、ほんとに日本の円だけでいいのかと。世界が1つのマーケットになっているので、円安になったとき、円高になったとき、いろいろあるわけで。例えば3,000万円持っているとすれば、全部を円ではなく、米ドルとかユーロとか、要するにポートフォリオを組んでも持つとか、そういうことも含めて、やっぱり今後に向けての資産形成を考えるべきではないかと。日本人の資産は、今なお不動産の比率が多いので、そのままの比率でいいのかどうか。相続が発生して、不動産はたくさんあるけれど、手元現金まったくないんで困った話など、数多くあります。「使ってない土地、売ったらどうですか?」って提案しても、「いや、これ、相続税が発生したら売って」って。「いや、最初から売っておけば、納税で困らないのに」と思うのですが、けっこう皆さんね。だから、自分の資産全体の中での不動産の割合だとか、現金のポートフォリオとか、ちゃんと考える時代が、本当は来ているんだと思うんだけどね。
池上:マイナス金利になっていちばん売れたのが金庫だっていうのが、情けないですよね(笑)。
幸田:そう、金庫、ものすごく売れたでしょ。
池上:金庫が売れたって。
幸田:いや、私の知り合いの方はね、これはずいぶん昔ですよ。もう10年前ですけれども、11億円の現金を持っておられたんですよ。全部貸金庫と、もちろん自宅の金庫もあるんですけど、そういう方もおられましたね。だから、まあ、不動産だけというよりは、そういうものを含めて。しかも、いちばん私、難しい問題だと思うのは、相続対策って言うけれども、じつは皆さんね、思った以上に長生きするんですよ。思った以上に長生きするっていうことは、老後のお金がいるんですよ。
賀藤:そうですね。
幸田:そうなんです。だからね、けっこう現金もある程度持っておく必要があるんですよね。
賀藤:資産形成のところにちょっと戻らせていただいて、やっぱりお金持ちかそうでないかっていう区分と、あと、年齢で大きく変わってくると思うんですよね。基本的に現金はある程度持つべきだと思うんですけど、私が思うのは、特に20代とか30代で始める方は……。で、お金持ちの方は、もう自分がリスクを取って好きなことやってくださいと。で、損したら損したで、お金持ちなんでしょ。儲かれば儲かるでお金持ちなんでしょっていう話だと。でも、普通のサラリーマンは、月々何万貯めてそれをどう運用しようかっていうような、いわゆる普通のサラリーマンの方に絞っていえば、もう確定拠出年金を使って、そこでグローバルを買いなさいと。さっき先生がおっしゃった為替もそうなんですけど、いろんなものが資産タイプとしてあるので、それをグローバルに買いましょうと。ただ、投信を作ったり売っている金融機関の人たちに高い手数料を払うのは避けましょう。だから、多少手数料はかかるけど、最も安い部類の例えばETFとかで、いわゆるほとんどINDEXに投資するとかが良いと思います。また、今、スマートベータって、単なるINDEXじゃなくて、ちょっと絞ってやってるのでも、ほぼINDEXと同じような手数料の安いのがありますから、これに月々いくらか定期的に出して。ドル・コスト法に近い感じですけど。そうしたら、出したところで節税になります。で、戻ってきたときでも節税になります。で、どうせ月10万も20万も貯められないんだから。確定拠出年金の2万とか5万というレベルで十分な人が、ほぼほぼ何割以上を占めているわけですよね。そういう方にアドバイスするとすれば、そういうのを使って、もう世界を買いましょうと。世界の成長率は、低くて3%台ですよね。これから南アフリカとかが伸びてくれば、もうちょっとよくなるかもしれないし。だけど、世界成長率は2~3%とかってあるかもしれないけど、日本の0.何%っていう成長率だとかインフレ率を考えると、絶対世界を買っておけばいいと。もちろん、マーケットの波で上がって下がって、ここの(=上がった)とき買ったのは損するけど、私が申し上げてるのは、20代、30代からコツコツとやっていれば、60とか65になったときに、年金にちょっとプラスするぐらいのものが貯まってるんじゃないでしょうか、というのが1つの考え方になるかなあと思って。
幸田:そうですね。投資は、やっぱり年齢だとか持っている資金量とかによってもずいぶん違いますからね。
――ありがとうございました。
講師紹介
幸田昌則(こうだまさのり)
ネットワーク88主宰
福岡県出身。九州大学法学部卒。三大都市圏のリクルート社発行「住宅情報」誌の創刊責任者を歴任。不動産市況アナリストとして、バブル崩壊以前の1989年11月に発表した「関西圏から不動産価格が大幅に下落する」は業界に波紋を呼び、その後、予測の正確さを実証した。
賀藤浩徳(かとうひろのり)
AAAコンサルティング㈱ 副社長 COO|ヘッド・オブ・リサーチ
1983年 大阪大学法学部卒業 金融と不動産の両分野で豊富な投融資実務経験を有し、かつ 国家資格等に裏付けられた理論的バックボーンを持つ。金融と不動産の最前線で、バブル生成から崩壊の一連のサイクルを複数回経験し、マーケットの目利き力に定評がある。
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