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個人の特性を見極めた指導を

加茂 周

加茂 周

元サッカー日本代表監督

今月は元サッカー日本代表監督、加茂周さんです。

サッカーのお話を中心に、「子供の才能の伸ばし方」をお訊きしました。
長年の指導経験に裏打ちされた、加茂流指導論!

 

加茂 周 (元サッカー日本代表監督 現サッカー解説者)

1939年兵庫県生まれ。
1974年日産自動車サッカー部 (現横浜Fマリノスの前身)の監督を経て
1994年から97年まで、 サッカー日本代表監督に就任。

「ゾーンプレス」など、日本サッカー界に 新しいサッカーシステムを構築、
そのサッカーに対する観点は未だに鋭い。

現在は尚美学園大学サッカー部のゼネラルマネージャーを務める傍ら、
NHKサッカー解説者として2002年ワールドカップ、Jリーグなどでもおなじみ。

又、NHk教育「視点・論点」に出演する等、文化活動も幅広く行っている。

個人の特性を見極めた指導を

――現在の活動をお聞かせください。

 新聞、テレビの解説。それから大学の客員教授。尚美学園大学サッカー部のゼネラルマネージャー。新潟のサッカー専門学校「JAPANサッカーカレッジ」で特別アドバイザーをやっています。

――直接指導はされているんですか?

 直接選手に教えるということはあまりないです。というのは、監督やコーチがいるのに横から口を出すのは、1番良くないと思っていますから。私が逆の立場だったら、勘弁してくれ!と思うので(笑)。

加茂周――また指導者として現場に立つことは?

 実際に話が来てみて、1部でも2部でも構いませんけど、成果が上がりそうなところだったらやりたいですね。まだ元気なので、あと何年間は現場でやれるという自信はあるんですけどね。ただ、歳取るとだんだん声が掛からなくなって来ますから。

――「子供の才能を伸ばすにはどうしたらよいか?」という親御さんが多いのですが、加茂さんの指導論をお聞かせください。

 日産時代にね、周りからの要望があって、サッカー教室をやってくれということで幼稚園児から中学生までのクラブを作りまして、今でも続いていますが、その時に、親御さんに訊くとね、月曜日は英会話、火曜日は書道、水曜日は体操教室、木曜日は学習塾で、金曜日だけ空いてるから参加させたいと(苦笑)。そういう子が多かったんですね。

その時に親御さんにした話は、プロの選手、当時日産はプロ化に踏み切っていましたけどね、日本リーグの時代でしたけど。十何チームあって、18歳から32~33歳の幅の選手が各年代に20人ぐらいいるわけですよ。その中に入るのは大変ですよと。そしたら才能がいるわけですよ。才能というのは欲しくても与えられるものではなくて、お祖父さん、お祖母さん、両親のいずれかにすごく足の速い人がいるとか、長距離が得意な人がいるとか、そういう能力がないとね。

お祖父さん、お祖母さん、両親も運動能力が大したことないという子は、まずプロのサッカー選手にはなれませんよと。だから、このスクールに来て、団体スポーツの中で訓練して、礼儀や仲間と一緒にゲームを楽しむのが大事であって、プロの選手になるには、それなりの才能がなければ難しい。遺伝で早くに芽が出る子もいれば、遅くて18歳ぐらいから開花する子もいる。お父さんもお母さんも足がそう速くないのに、子供にサッカー選手なれったって無理ですよ。まぁ、こんな話をするとがっかりされるけれど、正直に言いますよ。だけど、スポーツ、特に団体スポーツというのは仲間と一緒に練習したり合宿したり、相談して考えたりして一丸となって何かをするというのがすばらしいのであって、そういうことでやってくださいとお願いしています。

――生まれつきの遺伝的なものというのは大きいですか。

 大きいですね、残念ながら。ただ、この子はサッカー向きだからと言っても、本人が野球やテニスをやりたいと言ったら仕方がない。昔は体格と運動神経が良ければみんな野球選手を目指したんだけど、最近はやっとサッカーにも来てくれるようになって、日本の選手もサイズも上がって来たんですよ。昔は足が速い選手というのは小さいと決まっていたんですよ。たまに釜本みたいなのもいましたけどね。

――技術面ではいかがですか。

 技術は格段に進歩してますよ。20年前に比べたらえらく違いますし、30年前と比べたら全く違いますね。

――加茂さんが監督をなさっていた日本代表と今の日本代表を比べてどうですか?

 今の代表の方がうまいですよ。月とスッポンほどの差がある訳じゃないですけどね。でも、バランスも技術もいいですね。

――日本サッカーのレベルが上がったのは、底辺が広がったということですか。加茂周

 底辺がなぜ広がったかというと、サッカーが他の競技よりも一歩進んでいたのは、あらゆる段階に応じた指導者を大勢育成してきたからなんですよ。他の競技だと、普段は自営業だけど、休日は競技経験を生かして教えてやろうか、というのが多いんだけれど、サッカーは、クラブの運営まできちんと指導しますから、ある程度のレベルで教えることが出来るわけです。昔は野球とその他のスポーツでしたが、サッカーがそこから抜け出て野球に近づきつつあるのは、そこだと思います。

――昔の選手と比べて、今の選手を見て思うことはありますか。

 やっぱり、運動能力の高い選手が入って来てくれたなと思いますよ。体格も含めてね。ただ、その中でリーダーシップを取る子が少なくなったなと思います。同じ年齢の人たちが集まった中で、「俺が!」と言って旗を振る子がいない。みんなまじめにやるんだけど、そうかと言って俺について来いという子が、少なくなったと思います。

――その原因は何だと思われますか。

 やっぱり学校教育が原因だと思いますね。今の小中学校というのは、特別に目立たないように育てるじゃないですか。運動会をやって何等になっても賞品が一緒とかね。そんなアホなことが現実に行われて来たんですよ。そんな中から個性豊かなリーダーシップを取れる子なんて育たないですよ。偏差値全体が高い子が良くて、他はダメでも運動や美術なんかが1つだけ飛び抜けていい子というのもいるはずなんですよ。それが平均をとってしまうと全体的に低くなってしまう。我々の時代はケンカが強いだけでも認められたし、それなりに一目置かれましたから。だから、一人一人持っている才能を伸ばす教育をして欲しいと思いますよ。

平均点が取れる選手というのは必要なんですよ。だけど、チームの11人の中には3人ぐらい、ずば抜けて足が速いとか、1対1は絶対的に強いとかいう子がいないとなかなか強いチームは作れないですよ。世の中も同じですよ。 知育もいいですけど、徳育も体育もバランスよく子供たちを育てなければダメだと思いますよ。

――監督時代、指導をする上で大切にしていたことは何ですか?

 選手一人一人の特性が違うので、それぞれ要求することは違うんですが、全体に対して要求するのは集中力です。練習でフィールドに入ったら、とにかく集中すること。私の練習は1回に1時間半と短いですから、集中してもらわないと効果が上がらない。だから、集中して欲しいとはいつも言っていました。それが最終的にゲームにおける責任感とかチームプレーに結びついてくると思っています。

加茂周――以前、講演の中で「人間関係」(チーム内、協会、マスコミ等)を大切に、というお話をされていますが、中田英寿選手やマリナーズのイチロー選手など、日本のマスコミと折り合いが悪いと思われている選手に対してどう思われますか。

 それは選手それぞれの考え方で、「俺はマスコミと極力付き合いたくない」と言う人もいると思うんですよ。だけど、基本的には彼らもプロで、お客さんあってのものですからね、最低限の責任は果たさねばならないと。私もそういうアドバイスをするようにはしてきました。

確かに自分のミスで負けたとかね、その時のショックは相当なものですから。インタビューとか来られるとね、そりゃあ素直になんてなれないですけど、きちんと対応するようにとはアドバイスします。
――加茂さんの選手時代もそうでしたか?

 私の時はマスコミも何も、観客10人ぐらいしかいませんでしたから(笑)。試合が終わった後も、一杯行くぞ!ってなもんで。前日も前祝いだと言って飲んでいた時代ですからね。社会人になったら練習も試合直前にチョコチョコっとやる程度ですから。今とは全然(笑)。

年配のかつて優秀だった選手がね、「いまどきの若い奴のサッカーは・・・」なんて言うのはおかしいんですよ。「ボールの持ち方が悪い。今の奴はヘタだ」ってね。その頃はボール止めて、「1,2,3,4,5」ぐらい数えないと相手が前に来なかった(笑)。極端に言えば。今は一瞬の間に2人3人と来ちゃいますから。そういう中で90分間戦っていくコンディション、技術、戦術的に戦っていく能力もすごく大事ですよね。

――加茂さんが現役だった頃と今のサッカーの違いは何ですか。

 サッカー自体は同じですよ。ルールはほとんど同じだから。ボールは質が良くなってるけど、大きさも重さも同じだしね。グラウンドの大きさも同じ。当時は芝のグラウンドなんてほとんどなかったけど。ただ、野球と比べてサッカーの理論的なベースというか、マネジメントの部分も含めてね、進歩が速いんですよ。だから、現場を3年ぐらい離れてしまうと、その遅れを取り戻すのに大変ですよ。だから絶えず現場にいて勉強していないと。今やっていることが、ヨーロッパではこうだ、南米ではこうだと言ってね、絶えず吸収して、整理して、選手に伝える力をつけないと。今の選手の情報量というのは、昔に比べたら大変なもんですよ。サッカーの雑誌やテレビなんか無かったですから。

1チームに監督は1人ですが、選手は30人いるわけですよ。ミーティングの時に選手から鋭い質問が来て、その時にあたふたと答えられなかったら、「このおっさん大したことないわ」となるわけですよ。だから絶えず勉強しなければならない。

一言で言えば、氷山の一角をつくるということ。氷山というのは水面上に出ているのは一部であって、水面下には巨大な塊がある。知っていることを全部言っても、いい選手になったり、いいチームになることはないですから。いかに整理をして出すか。

加茂周しかし、ベースとなるものを持っていないと突然の質問に答えられない。これはサッカーだけに限らないことだと思うんですけど。そういう自信を持っていれば、知らない、自分が気づかないことをパッと質問された時に、「それは気が付かなかった。明日まで待ってくれ」と言えるわけですよ。

ところが、それが言えないと口先だけでごまかすことになる。口先でごまかすと、バレるんですよ。最後は、「ごちゃごちゃ言わんとがんばれ!」となってしまいます。これは、監督、コーチとして失格だと思います。

僕は子供に直接教えた経験があまりないのだけれど、突拍子もない質問が飛び出すらしいです。「そんなつまらんことを訊くな!」と言って怒鳴りつけたりせずに、子供の心になって一緒に考えてあげないと、その子はサッカーを嫌いになってしまう。

――小さなお子さんをお持ちの方々にアドバイスはありますか。

 どんな子でもどこかに才能がありますから。サッカーで一流になれるのは極僅か。野球もそう。画家もそう。バイオリニストもそう。本当に生涯楽しむためにはそれなりの訓練が必要。早く親御さんが才能を見抜いてあげて、本人がそれを好きで、周りも期待して応援してあげる。いいコーチにめぐりあう。そうして運が良ければプロになれます。

でも、小学校のうちは楽しむことが先です。ボールを蹴って楽しい。あいつと一緒にプレーして楽しい。試合に出て楽しい。「巨人の星」みたいなのは、少なくともサッカーには向かないと思いますよ。楽しみながら、その中からよりうまく、より強く、より速くなるためにどうしたらいいのか、ということを子供自身が気づかなければならない。そうじゃなきゃ上手くならないですよ。

――ありがとうございました。

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加茂 周

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加茂 周かもしゅう

元サッカー日本代表監督

1939年兵庫県生まれ。1974年日産自動車サッカー部 (現横浜Fマリノスの前身)の監督を経て1994年から97年まで、 サッカー日本代表監督に就任。 「ゾーンプレス」など、日本サッカー界に 新しい…

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