2005年06月15日
さおだけ屋に学ぶ 経営、生活に役立つ会計
今月は「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」で話題の著者、山田真哉さんにインタビューをさせて頂きました。
経営者意識を社員に伝えるためのデータ活用法や、家計簿の話、そして山田さんの人生で大切にしていることまで、ためになるヒントが満載です。
山田真哉(やまだしんや)
公認会計士・インブルームLLC代表
6月現在60万部突破!記録邁進中!『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』
『女子大会計士の事件簿』 などの大ヒット作を執筆!
プロフィール
公認会計士。神戸市生まれ。高3の時、阪神大震災に遭い自宅が全壊。大阪大学文学部日本史専攻卒。一般企業に就職後、それまで縁のなかった会計・法律・経営などの勉強を始め、1年間の猛勉強で公認会計士二次試験に合格。 合格後は中央青山監査法人に勤務。日本公認会計士協会・会計士補会広報委員長にも就任。 公認会計士三次試験に合格後、インブルームLLCを設立。現在、代表を務める。
さおだけ屋に学ぶ 経営、生活に役立つ会計
-「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(光文社新書)55万部突破、おめでとうございます。
今では、どの書店も入り口の目立つところに山積みで、その売れ行きもとどまる所を知らないご様子ですが、この本を出版しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
私は、大学時代に塾講師のアルバイトをしておりまして、当時は朝から晩まで授業のことを考える生活をしていたのですが、その時から「出版すれば一人前の塾講師」と色々画策していましたね。大学3年生くらいの時から。ですから最初に出したのは、大学4年生の時に企画書を出した、就職活動の本です。その後予備校を辞め、会計士の勉強を初め、いずれ会計士になったら本をだそうと思いながら頑張っていたので、なんとか会計士に受かった時は、自然に出版のことを考えました。
会計は、実は本質的な話になればなるほど、私達の身近な生活にも繋がってくるのです。私自身が会計の勉強を始めたのが社会人になってからなのですが、数字に強くなったおかげで、日々の損得の判断や、将来設計のヒントにもなりますし、経済も分かるようになりました。そう考えると、「会計が嫌い」「会計を学んでも意味がない」と思っている人にもとても有益なものですし、「新しい視点・考え方」や「数字のセンス」をどうしたら、楽しく、分かりやすく伝えることができるだろうか、と考えた末に出てきたのがこの本なのです。
-本の内容も面白い切り口ですよね。さおだけ屋も含め、日常生活に落とし込んで話を進めて行きますし。そういうヒントはどこから得ているのですか?
そうですね。予備校時代からそうなのですが、授業をいかに面白くするか、というポイントは、いかに実感させるか、身近に感じさせるか、という所にあるんですよ。そして伝えたいことはシンプルにさくっと伝える。
例えば、理科でも実験を目の前で見せた方が、理解が高まります。それと一緒です。会計も、目の前であんな事あるよね、こんなこと知ってるよね、これは実は裏にこんな秘密が…という風に持っていったほうが、授業としてはウケがいいわけです。
ですから、予備校講師時代に培ってきたものが活きてきた、という具合でしょうか。
-山田さんは文系の大学の出身ですが、何故、数字を使う会計士という仕事に興味を持ったのですか?一般的に、文系だから数字が苦手、という人が多いように思うのですが・・・。
会計に向かったのは、別に数字が好きという訳ではないんですよ(笑)
会計が好きだったという訳でもなくて、経営の勉強がしてみたかった。予備校を辞めて無職になった時、ちょうど学生時代のかばん持ちの仕事を思い出しました。かばん持ちをしながら、経営者のそばにいることが出来たのですが、その頃から経営に興味が沸いていたんですね。当時は実際に自分がする、と言うほど形になってはいませんでしたが。
経営の勉強をしようと思った時に、ほんとはMBAが取れれば一番よかったのでしょうけれど、何よりも英語が苦手でして(笑)。そこで、経営の勉強ができるのが何かと探すと、会計士にたどり着いたわけです。日本語だけで、いいと。(笑)
だから、本当は経営の勉強がしたくて、会計は後からついてきた、というところです。勉強してから知ったんですよ、会計の奥深さを。「文系だから数字が苦手」という点ですが、会計には、確かに数字が不可欠ですが、必ずしも数字に強い必要はないと思っています。必要なのは数字のセンスです。そして、この数字のセンスに興味がある方は、是非「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」(光文社新書)を読んでみてください。「数字が弱くても会計は使える」という意味がきっと分かります。
-今経営のための会計という言葉が出てきましたが、実際に経営に活かせる会計の視点を、もう少し詳しく教えて頂けますか?
そうですね。会計は、本当、データです。(笑)
プロ野球でもそうですが、データ分析をせずに、勝つ野球が出来ますか?という話なんですよ。それは自社のデータであり、他社のデータであり、会計で得られるものが大きい。だから、経営者として闘うのであれば、ある程度のデータ収集と、分析は必須ですね。「やっぱり会計は役にたつ」というレベルではなくて、会計がなくて闘う方がリスクが高いという発想になってくるのです。
そして、データの収集で大切になってくるのは、「大局を掴む」ということ。
よく会計というと神経質に全てのデータを分析しているように勘違いされますが、実はそうではないのです。「木を見て森を推測する」という事でしょうか。重点的に大事な部分を分析し、全体を把握する。そう考えると、むしろ大雑把な方が有利かもしれませんね。(笑)
例えば、今最大のお客様は、全体の売上高の何パーセントを占めているのか、顧客の中で一番多い業種は?ざっくりでいいのですが、データで全体像を把握すること。データというのは基本的にみんなに公表しやすいものなので、社内でそれを共有することによって、従業員に経営者意識を持ってもらうことができると思います。
それは、プロ野球で言えば、選手も代打の人も、データを知って、打席に入ったほうが有利ですよね。同じことです。最近業績が伸びてる企業は、そういったデータを大切にしています。
-経営者意識を持たせることは、今課題にしている企業が多いですよね。
では、例えばですが、一般の方に、こんなことを知っていたら、得をするというような会計のヒントはありますか?
一番いい例としては、「食器乾燥機を買えば、水道代が年間8万円安くなる。」という話ですね。我が家では、年間10万円しか、水道代がかかっていないので、8万円も安くなったら、8割減です。そうすると、どういう食器の洗い方をしても、8割減にはならない、というのが分かりますよね。世の中、数字で惑わされてしまうことも多々ありますから、生活の中でも、まず自分の家計を知っておくことが大切だと思います。 家計簿をつけていない人が多いですし、もし毎日つけていても、年間はいくらなのか、ということを把握していない場合も多い。節約で家計や夫の小遣いを切り詰める前に、まずデータを取って分析する。そうすると本当に節約する部分や、買い物をする時の損得の判断もはずれません。大雑把でいいんですよ。
-確かに、数字を見て納得させられることは世の中多いですね。データで大局を掴むという意味では経営においても、一般の生活も同様だと思うのですが、そういった考え方は何事にも応用できますよね。
そうですね。実は、大学生の頃、歴史家を目指していたんです。歴史の長い流れの中で、今はどういう段階なのかというような、できるだけ大局的な見方をするような努力はしていたので、そういう意味では全体を把握する能力に長けていたのかもしれませんね。どこの時代、人物が好きというより、メソポタミア、エジプト、ギリシャ、ローマでイタリア、オランダ、イギリスと来て、アメリカという大きな流れのダイナミズムが好きで。「木を見て森を見ず」という言葉が戒めになるように、全体を見るという視点は忘れてはいけないことではないでしょうか。
-確かにそうですね。
今学生の頃歴史家を目指していた、というお話がありましたが、大学受験目前に阪神淡路大震災をご経験されてますよね。
そうですね。震災を経験しなかったら、本を出そうとか、会計士を取ってみようとか、積極的、能動的な事はやらなかったと思います。私は、家が全壊したにもかかわらず命を永らえることができましたが、同級生で18歳の命を終えた人もいます。命には限りがあるので、精一杯やらなきゃ、というのは心にありますね。
実は震災前は、地味に、常に地味に生きていました。そのまま行けば、どこかの山奥で、ずっと本を読むような生活をやっていたかも知れません。でものんびりしていられないな、と気づくことができたから今の自分がいるのではないでしょうか。
-最後になりますが、山田さんの大切にしていること、講演で伝えたいことは何ですか?
大切にしていることは、一つの考えに固執しないという事です。臨機応変とも言うかもしれません。やはり、一つのことを曲げない、というのは凄く大事なことだと思うのですが、それによって他人に迷惑をかけることも多々あるので、自分の考えは柔軟にしていたいですね。だから、新しいことや、面白いことにも挑戦したいですし、また7月に「けっこう使えるつまみ食い会社法」という新しい本も出します。それも是非読んで頂きたいです。
そして講演では、その場に合ったためになるお話をしたいと思っていますが、どんな場所でも共通して伝えていることは、データは大事ですという事です。何をするにしても、データは大事なので。それが山田真哉という会計士らしい視点でもあるのかもしれませんね。
-素晴らしいお話をありがとうございました。
文・写真 :鈴木ちづる (2005年6月15日 株式会社ペルソン 無断転載禁止)
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