ご相談

講演依頼.com 新聞

今話題のプレッシャー管理法をスキルとして学ぶ

高杉尚孝

高杉尚孝

高杉尚孝事務所 代表取締役

同じプレッシャーの下、成果を出せる人と出せない人がいます。
その違いはどこにあるのでしょうか?

今回は、その思考法の違いや、スキルを、心理ストラテジストの高杉さんに伺いました。

高杉尚孝(たかすぎひさたか)

心理ストラテジスト / 高杉尚孝事務所 代表取締役
米国アルバート・エリス研究所会員
NHK教育テレビ「英語ビジネスワールド」99~02年講師
ニューヨーク証券取引所認定スーパーバイザー・アナリスト(NYSESA)

米ペンシルバニア大学ウォートン校 MBA。
モービル石油(現エクソン・モービル)から、
経営コンサルティング会社マッキンゼーのニューヨーク及び
東京事務所にて、日米多国籍企業、金融機関の戦略立案等に従事。

その後、米系投資銀行JPモルガン ニューヨーク本社入社。
帰国後、同社東京事務所にてバイス・プレジデントを歴任。
その後、情報コンサルティング世界最大手バーソン・マーステラ社に入社。
1997年(有)高杉尚孝事務所設立、代表取締役に就任。

今話題のプレッシャー管理法をスキルとして学ぶ

今、多くの優良企業の時期経営層育成のためのリーダー研修で、
「メンタルタフネス」や「プレッシャー管理」などのメンタルスキルが注目されていますが、
その原因をどのようにお考えになりますか?

 そうですね。やはりリーダーに必要な能力はいくつかあるかと思いますが、その仕事の責任の分だけ、プレッシャーや重圧というのが増えてきます。その重圧の中、理想や目標を追求し続け、最大のパフォーマンスを出すことが、企業の中で求められるのですが、今のような時代ですから、プレッシャーに押しつぶされてしまい、精神的に病んでしまうということも出てきますね。そうなってしまっては困りますし、現場では、個人の持っている知識や経験、技術を粘り強く実行することによって結果に繋がっていくわけです。 技術面だけを持っていても、一緒にメンタルタフネスが伴っていなければ、結果につながりにくいということですね。

今までは、このメンタル面はどうやって勉強すればいいのか、という方法論もなかったので、歯を食いしばって頑張るしかなかったんですが、今はその粘り強さをスキルとして「後天的」に身に付ける方法が体系化されたので、組織や企業での研修で取り入れやすくなったのだと思います。

では、そのメンタルスキルについて詳しくお伺いしたいのですが、同じプレッシャーの元で、つぶれてしまう人と、そうでない人がいますが、何か違いがあるのでしょうか?

まず、プレッシャーとは何か、といいますと、基本的な考え方としては、他でもない自分自身が作っているものなのです。よく、状況から自動的に誘発されるもの、その状況自体がプレッシャーなんだと思いがちなんですが、実際はそうではなくて、その状況に対して自分がどう考えているか、自分自身の思考により、その心的な重圧を作っているんです。

そもそも同じ状況であっても10人いればリアクションは違いますよね。これは何を物語っているかというと、結局はプレッシャーというものには実体がないということなんです。
では、どこに違いがあるかというと、思考パターンに違いがあるのです。

思考パターンの違いとはどのようなものですか?

プレッシャーを強く感じる人の思考パターンがどういうものかというと、「絶対的な要求」です。私はそれを「ねばならぬ」思考と呼んでいます。例えば、「この商談で絶対成功しなければならぬ。」とか、「このプレゼンで絶対に失敗してはならぬ。」などです。この失敗が絶対的に許されないというものを、自分に要求しながら、実際には世の中「絶対」というものはありませんから、失敗は起こりえるものです。それが、心の中に大きな矛盾を作ってしまいます。つまり、自分がしてはならないことをしてしまうかもしれない、あってはならないことが起こる、という大きな矛盾が不安となって重圧に変わってしまいます。これが一般に言うプレッシャーです。「オリンピックで金メダルをとらなければならない。」と思っていても、もしかしたら、取れないかもしれないですよね。これがあってはならないと思えば思うほど、プレッシャーは大きくなります。

逆にプレッシャーを感じることがない、もしくはそのプレッシャーを小なく出来る人は、「出来る限り成功したい。成功できればとても嬉しい。でも、失敗することもある。」と失敗の可能性があること、そしてそれが自分の想定内のこととして起こり得るということをちゃんと認識できているのです。

実は私も以前は、プレッシャーを強く感じる方でした。自分で作っていたと言う方が正しいですね。外資系コンサルティング会社や投資銀行で働いていたので、日常的にハイプレッシャーの下にいましたし、そのプレッシャーに耐え切れない同僚も多くいました。それでも不思議なのは、そのハイプレッシャーという同条件の中で、その重圧を感じないものや、成果を出していくものがいるんですね。その時に、心理療法の理性感情行動心理学と出会い、思考とプレッシャーの関係・理論を知ったのです。

では、実際にはどんな思考パターンが望ましいのでしょうか?

高杉尚孝 「相対願望思考」です。「こうなりたい」「こうしたい」など、強く願望するやり方です。勿論、結果は良い方がいいに決まっていますので、その願望のために努力は最大限するんです。努力をしなくて良いわけではないのです。努力をなしでは、結果的に目標達成など期待出来ません。

しかし、ここで重要なのは、失敗の可能性があることを認識し、想定の範囲を広げておくことです。よくリスクヘッジという言葉がありますが、起こり得るリスクをある程度想定して対応を考えておけば、対処が出来ますね。その分、心の余裕が出来るわけです。何より、ここで大切なことは、「絶対的な要求」に転換しないこと。

実は、「ねばならぬ」は、非論理的思考なのです。思い込みであって、論理的ではない。また実証性もないので、論理性という観点では、「飛躍」なんです。そもそも「絶対的な要求」が失敗した場合には、つい「もうこの世の終わりだ。」とか「私は無価値な人間だ。」という思考に陥りやすいんですね。でも【最悪の状況】というものは、この世の中にあり得ないんですよ、本当は。そういう不安な状況では、なかなかいいアイディアは生まれにくいと思います。

物事を冷静に見る目が大切なのですが、プロジェクトを前にした時に、上手く行くことのメリットは大きい、上手く行かないことのデメリットも大きい。つまり、上手く行って欲しい理由は五万とあると考えるといいですね。でもだからと言って、絶対に成功しなければならない理由はないんです。望ましさがどんどん大きくなるだけです。

確かに「絶対的な要求」をしてしまうと、その後が悲観的な思考の傾向がありそうですね。
しかし、プレッシャーを感じるという意味では、それだけ高いレベルの目標を掲げているということもありますよね。それだけ物事を達成してきた方も多いのではないですか?

そうですね。私は、「絶対的な要求」が必ずしも全面的に悪いとは思いません。現にその思考で成功を収めている人も勿論いますし。ただ、昔は自分を崖っぷちまで追い込んで、結果オーライでやってきた方は多いと思うのですが、今はその崖から落っこちてしまうことも随分増えてきましたから。頑張り過ぎて病気になってしまう場合もあるので、自分にプレッシャーをかけるやり方はあまりお薦めしません。

例えば、プレッシャーで成功を収めている方というと、野球のイチロー選手(シアトル・マリナーズ)はこの思考パターンです。皆も知っているように結果を出しています。ただ、以前イチロー選手のインタビューで、こんなことを言っていたんです。「息苦しさや吐き気を感じる時がある。」とか「夜中にはっと気が付いたら泣いていたことがある。」などです。結果を出している分、精神的負担は随分と大きいんですね。

それと対照的なのが、松井秀喜選手(ニューヨーク・ヤンキース)の思考です。「今日の勝利を明日に繋げたい。」とか「ワールドシリーズに是非出たい。」などと全て相対願望。それもとても強い願望で動いているんです。願望だから達成しなくても良いという訳ではありません。そのために何をすれば良いのかをしっかりと認識し、最大限の努力もされています。ただ、強い願望の思考パターンなので、自滅しないんですよ。

確かに、松井選手は、左手首を骨折されての記者会見で、相対願望思考の話し方をしていましたね。「今まで以上のパフォーマンスを出せるくらいの気持ちで戻ってきたいです。」など…。

高杉尚孝 そうですね。今回の松井選手の怪我は私もとても残念に思っています。もちろん彼自身もそうでしょう。でも、インタビューなどからすると、松井選手は、「あってはならないことが起きた」とは考えていないようです。あくまでも
「あり得ることが起きたのだ」というように考えているのがう伺われます。イチロー選手も松井選手も一流選手ですが、思考パターンが全く違うんですね。他の野球選手も、ありとあらゆる最悪のパターンを想定して、準備するというタイプの選手もいますし、応用パターンはいろいろとあります。

ただ、ここで注意をしなければならないのは、今まで精神論でやってきた方が、これを聞いて萎えてしまうことがあるんです。あとは、結果の保証がないならやりません、という人がいたり。

でも世の中、人生にギャランティー(保証)なんてない
ですからね。唯一はっきりしているのは、 「生まれたからには死ぬ。」ということだけですし。やった方がいい理由はいくらでも思い浮かぶはずです。そのために、うまく行く確率を最大限上げなければ、甘え、怠慢と同じですね。だから、やらなければならないのは同じです。

「絶対的な要求」に転換しない、という部分だけが違うのです。

理解はできるのですが、実行するとなると難しそうですね。

ある程度は訓練が必要ですね。反復練習です。スキルの一つですから。
スポーツと同じように、マニュアルを理解しただけだと、実践はできない。
思考の訓練ですね。そのお手伝いは、研修の中でやっております。

この相対願望思考を生まれつきに習得している方というのは、いらっしゃるんですか?

実は、もうお亡くなりになりましたけど、ソニーの盛田会長ですね。生前お会いする機会があったんですが、生まれつき前向き相対願望思考なんですよ。「いやあ、僕は失敗を失敗とぜんぜん思わないんですよ、ワッハッハ」ってね。生まれつきプレッシャーを感じないそうです。本当羨ましいですよね。でもこういう方は人口の1%くらいじゃないでしょうか。通常のビジネスパーソンはみんな「絶対やらねばならぬ!」と、頑張っちゃうわけですから。

そもそも「絶対的な要求」は生まれつきの思考なんです。小さい子を見ていてもすぐ絶対要求をしていますよ。後でもいいんじゃないか、というようなことを、「今じゃなきゃだめだ」と、絶対的な要求をしていますからね。自分ではあまり意識していないのかもしれないのですが、ちょっと考えてみるとこの光景はよく思い浮かぶと思います。

確かにそうですね。子供の頃は、自分の願望や欲望に素直ですし。
大人になると素直さが制御されてしまうんでしょうか?

高杉尚孝 そうですね。こうある方が望ましい、という思考に変わってくるでしょうね。大人になっても素直な方はいると思いますが、その全てを強行的に出すと、人付き合いは出来ないですからね(笑)。

そういうお話で言えば、感情というのも面白くて、【感情的】と【論理的】と対照的な物言いをすることがありますが、感情の裏には論理があるんですよ。実は思考を伴わない感情もなければ、感情の伴わない思考もない。ただ多くの場合、思考のところが自動的になってしまうので、感情の裏にある、理屈や思考の部分に気づけないことが多いんですよね。

「どうしてそう思うの?」といって、答えられない人は、その理詰めがちゃんと出来ていないだけで、状況から感情や行動は直接は出てこないですからね(笑)

よく聞くと思いますが、「もう我慢できない。」「耐えられない。」これも思い込みの一種です。「我慢できない。」と言いながら、実際は我慢しているんですよ。そういう方、社内に一人ぐらいはいますよね。でもこれ、我慢「したくない」だけなんですよ。
「したい・したくない」という話を「できる・できない」という話をごっちゃにしちゃうんです。

だから実は、いろんな所で曖昧に理解していることは多いんです。そういう意味では、常に理屈や思考を明らかにする癖をつけていけば、論理的思考が問題を解決してくれることが大いにあると思います。心の問題は、自分が一番分かっているようで、分かっていなかったりすると思うので。

確かに、感情の裏の思考というのを気づけていないことも多いですね。
最後になりますが、メンタルスキルの中で他に大切なことはありますか?

「絶対的な要求」つまり、世の中には、絶対的な保証なんてものはない、と言いましたが、何がおこるか分からないのが世の中ですから、「柔軟性」はとても大切だと思います。私は、「交渉術」などの研修もしているのですが、実は交渉も柔軟性がとても必要なものなんです。こちらの言い分や目的と、相手の個人的な目的、組織的な目的などをすり合わせる上では、譲歩が必要な時も出てきます。日本人の間では、誤解があるかもしれないのですが、一方的にこちらの言い分を相手に強要する、というのは交渉でも説得でもなく、自発的に動いてもらい、最終的には「win-win」の状況を作り出すのが、交渉です。つまり問題解決のためのコミュニケーション方法なんですね。社会に生きる上での自分の思考も、何か壁にぶつかった時は柔軟に、又冷静に考えることが出来れば、解決方法が見つかるかもしれません。

そして、この柔軟性は、特に、リーダーとなる人には大切ですね。私が理想的だな、と思うリーダーは、木で言うと「梓の木」なんです。梓で弓道の弓を作っているんですけど、すごくしなやかでありながら、ものすごく強いんですよ。芯のない柳でも、ビクともしない樫の木でもない。自分の予想外のことは、いつだって起こりえることですからね。柔軟性がないと、何かあった時に、すぐ折れてしまう。そうすると、周りの人が頼れなくなってしまいますから。

目標や理想を追求するには、粘り強さと精神的なタフネスが大事になってきます。
それが、今のリーダーには必要不可欠なスキルだと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

文・写真 :鈴木ちづる  (2006年5月22日 株式会社ペルソン 無断転載禁止)

高杉尚孝

高杉尚孝

高杉尚孝たかすぎひさたか

高杉尚孝事務所 代表取締役

論理思考とコミュニケーション系能力開発の講師、講演、執筆活動などを精力的にこなすとともに、精神タフネス強化技術のパイオニアとして研修・コーチング・研究活動に従事。認知行動療法の専門家として、心理療法家…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。