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働き方改革の本質は、社内に好循環をもたらすことなんです

白河桃子

白河桃子

昭和女子大学 客員教授

目次

慶応義塾大学文学部を卒業後、大手商社を経て、外資系証券会社へ。現在は、ジャーナリストとして多方面で活躍している白河桃子さん。執筆テーマは、働き方改革、少子化、ライフキャリア、女性活躍推進、男女共同参画、ワークライフバランスなど多岐にわたり、中央大学の山田昌弘教授とともに「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著『「婚活」時代』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、19万部を超えるベストセラーになりました。婚活は2008年度、2009年度の流行語大賞にノミネートされるなど、強い社会的影響力を持つ言葉に。今では、すっかり一般用語として定着しました。

近年では、相模女子大学客員教授として教壇に立つほか、内閣官房「一億総活躍国民会議」「働き方改革実現会議」委員などの公職、地方行政のアドバイザー活動でも活躍されています。講演活動にも積極的で女性活躍、地方創生、少子化などをはじめ、今注目のテーマ「働き方改革」でもご指名の多い講師の一人です。

話題の近著『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』から、今後働き方改革にどう取り組むべきか、豊富な取材経験も持つ白河さんならではの視点で語っていただきました。

表面的な制度を変えるだけでは決して解決しない

働き方改革という言葉はすっかり一般化しましたが、話題のご著書『御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社』(PHP新書)では、誤解をしている人が多いとお書きになられています。

白河桃子さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

今は、狭い意味の働き方改革だけが、広まっている印象があります。残業をやめればいい、休み方を改革すればいい、テレワークの制度を入れればいい…。そうした、とても表面的な考え方になっているんですね。

働き方を変えることは、これから会社が生き残れるかどうかを左右する、重要な経営課題なんです。まずは、経営者が経営課題であり戦略として認識しなければいけません。端的に言えば、昭和の働き方やビジネスモデルが、もう時代に適応できなくなっているということです。それをすべて改めるということなんです。昭和のアンインストールですね。したがって、人事だけが制度を作るのではなく、経営層や労使、会社全体で取り組んでいかなければなりません。トップからボトムまで取り組みを進め、最終的には制度を入れるだけではなくて、風土もしっかり変えていくところまでが働き方改革です。

ですから、最後に得られるものは、単に「残業が削減されて、残業代が減りました」では困るんです。経営課題が、解決されないと。一つは、人材確保。今や空前の人材不足の時代です。新規人材の獲得に加え、人材流出への対応にもつなげていかないといけない。また、ダイバーシティによるイノベーションの創出。生産性の向上とは、付加価値の高いビジネスモデルを作ることです。

そして働き方改革で何が手に入るのかといえば、実は最大の果実は、社員の心理的安心感や、社員の関係性の質の向上なんです。表面的に制度を変えたりするだけではなく、しっかり運用し評価や報酬体系にまで踏み込んで変えていけるかが、これから問われてくるんです。

働き方改革が、会社に大きなプラスをもたらしてくれる、ということですね。経営者によっては、「働き方改革は一時的に売り上げを下げてしまう」という認識もあるようです。

白河桃子さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

実は売り上げが上がっている会社もちゃんとあるんです。「働き方改革をするにあたっては、しばらく売り上げを考えるな」といったニュアンスの発言もありますが、業態によって違う。事実、ずっと売上げ増を続けている会社もあるし、業績が上がるまでのタイムラグも小さくなっています。

まずは「労働時間は有限」という所に着目してほしい。それで何が良くなるのかといえば、見えないところが良くなるんです。実は今の会社では、社員の人たちは時間というもので関係がギスギスしている。長時間働ける人、そうでない人、ダラダラ残業している人、そうでない人。長時間労働で疲弊している職場、メンタル疾患の多い職場…時間がギスギスの原因になっている。残業削減をすると、最初は混乱するんですが、だんだん変わっていきます。なぜなら、チームで協力しないとみんな限られた時間までに帰れないからです。

そうすると、関係の質が上がってくる。関係の質が上がると、今度は社員のみなさんの思考の質が上がってくる。「これってどうなの?提案してみようか」「これって良くない?」という会話が増えてくる。こうした気づきがあると、次は行動の質が上がるんです。「じゃあ、やってみようか」と。以前は「自分のことだけで精一杯だから、とても無理」という空気だったものが、積極的に発言し、行動する空気に変わっていく。自律的な働き方になります。

指示待ちではない社員が誕生してくるんです。社員間の関係性が良い職場で、さまざまに積極的な発言をしたり、行動をしたりすることによって、イノベーションが生まれる。だから、結果の質が上がる。こういう好循環が起きていることに気づいてほしいんです。目に見えないところが、実は働き方改革の本質のところなんです。

今は、職場の幸福度が測れるんですね。日立がウエアラブル端末を個人につけて、計測した実験があるんですが、あるコールセンターでは職場の幸福度の高い日は、受注率が34%も上がった、というデータがあります。このとき、幸せ度を大きく左右するのが、職場の関係性なんです。みんなと関係がいいと、職場全体の幸せ度が上がる。一人で幸せなんじゃないんです。関係性が重要なんです。そうすると、業績も上がるんです。

 

改革が出来ない会社は採用ができない時代に

逆にもし、働き方改革ができないと、企業にはどんな未来が待っていますか?

白河桃子さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

これは講演でよく申し上げていますが、損をしますね。わかりやすいところでは、人が採れなくなる。せっかく育てた人が流出していく。特に女性です。私は「寿転職」と呼んでいるんですが、結婚を機にワークライフバランスの悪い会社から去るんです。「結婚しました。退職します」と申し出られて、会社としては、「寿退社おめでとう」と思っているのかもしれませんが、違います。もっと働く環境のいい会社で働いているんです。それこそ5年、10年かけて育成した人材を取られているということです。

今は人手不足倒産という話もあります。魅力的な会社にならないと、人が採れません。求人広告を高値で出しても、4社に1社は採用できないと言われています。中小企業では、内定者の7割が辞退した、なんて話も聞きます。特に若い人は、ワークライフバランスにとても敏感です。逆に、働き方改革に本質的に取り組んだ結果、ワークライフバランスの良い会社になって、新卒のエントリーが1年で3倍くらいになった地方の中小企業もあります。今は、インターネットの時代。情報は全部、出てしまいます。逆に、いい取り組みをしていたら、それも広がっていきます。少なくとも人材採用、人材定着という観点でいえば、取り組みは確実に実を結びます。

 

中小企業の人材不足はテレワークの導入も解決策の一つ

特に中小企業では、働き方改革にどう挑めばいいのか、小さな会社でもうまくいくのか、悩んでいるケースも多いと聞きます。

白河桃子さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

中小企業向けの講演にお招きいただくことも多いのですが、むしろ中小企業のほうがうまくいく、という事例をお話することもよくありますね。というのも、中小企業のほうが、社長のトップダウンですぐに動くからです。だから、思い切ったことができる。著書『御社の働き方改革、ここが間違ってます!』でも、たくさん事例を挙げていますが、中小企業ほど、結果が出るのも早いんです。制度を整え、社員の関係性を変え、風土まで変えていくには、大きな会社だと1年以上かかる。少なくとも8カ月以上は取り組まないと、という印象があります。しかし、中小企業は結果が早いです。また、切羽詰まった実情や危機感が、一気に会社を変えていくこともあります。

ひとつ実例があります。ある中小企業で語学のできる女性社員が、引っ越しと出産で退職しようとした。今や中小企業でも、インターネットを通じて海外企業から問い合わせが来たり、取引をしていたりすることはよくあります。しかし、彼女に代わる人材の採用が難しい。この会社もこの一人の女性が海外を担当してくれていたのですが、「引越しで通えなくなるので辞めたい」と言われてしまったんです。そこで、特例でテレワークを導入することにした。ただ、会社で初の取り組みで、社員からは「特別扱いではないか」という声も上がりました。断腸の思いで一度、非正規の社員にするんですが、フルタイムのテレワークで働けるし、女性も通勤時間が減ったぶん、子育ての時間も増えて喜んだ。今はまわりの理解もできてきて、正社員に戻っています。

 

お客に「できない」と言える環境を作ったアクセンチュア

ご著書にも事例がたくさん出てきますが、大企業の働き方改革の成功例から学べるのは、どんな点でしょうか。

白河桃子さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

例えば、大和証券。ここはトップダウンで、評価にもかなり反映させたところが大きいですね。部下の時間マネジメントができない上司は、評価が下がってしまう。参考にしたいところのは、残業が減って余った時間に何をするか、ということもきちんと設計されているところです。子育てをする人は、子育てをすればいいし、若い人は学校に行ったりする。24時間会社に捧げてきた人は困るわけですが、その人たちも意欲が出るよう、自己研鑽するとポイントがつく制度を取り入れています。実際、CFPという証券資格を持っている人は、業界トップです。

アクセンチュアも2年前から働き方改革に取り組んできましたが、背景にあったのは、人が採れなくなる危機感でした。参考にしたいところは、取引先にも自社の働き方改革をしっかり開示し、協力を求めたこと。プロジェクトプライドという取り組みなのですが。例えば、18時以降の会議は招集しない。社内で実施するだけでなく、お客さまとの契約書にもプロジェクトプライドの意義や協力への要請を書いて、クライアントも巻込んでいます。契約書に入っていたら、現場もお客さまの無理な要望に対して、きちんと「できない」と言える。こうした取引先の巻き込みというのは、極めて重要だと思います。

サイボウズは、働き方の未来をすべて実現している会社だと感じています。副業兼業の制度もありますし、しかもどんどん進化している。背景にあるのが、働き方が選べる、という考え方です。100人いたら、100通りの働き方がある。これがすでに実現されているんです。その先にある評価と報酬の問題にも、しっかり対処している。びっくりするんですが、社内の評価テーブルはないんです。多様な働き方の人が増えると、「AさんとBさん、社内でどっちが上か」なんて評価もできなくなるんですね。では、どうやって評価しているのかというと、その社員が人材市場に出たとき、いくらで雇われるか、社外バリューで判断しているんです。そうすると、社員も自ら転職エージェントなどに登録して、自分のバリューを探るようになる。年功で自動的にポジションや収入が上がるわけではありませんから、しっかり自分で勉強しないといけなくなるんです。

リクルートは徹底してテレワークを推進しています。参考にできるのは、かなり強制的に行われたことです。テレワークは多くの会社に導入されていますが、「育児中の女性が使うものだよね」と思われていたりする。だから、「来ないとどう思われるかわからない」と、どうしてもみんな会社に来てしまって、利用が進まないんですが、リクルートは「週に一度はやってください」「全員経験してください」とかなり導入時は強制的に取り組んだんです。テレワークを始めてから4ヶ月後に、あるリクルートのグループ会社に行ったら、オフィスフロアが4分の1になっていました。

テレワーク導入前にフリーアドレス制をいれたり、それでうまくいくケースもあるんですが、リクルートは社内でしっかり話し合いもしているんですね。「こんなに仕事が…」という一方で「30年後にどうありたいか」を真剣に考えた。「24年働いているけど、今が一番働きやすい」という社員の声も聞きました。女性が活躍している会社のイメージも強いですが、以前は長時間労働が前提なのでスーパーマザーしか活躍できない、という面もあったんです。その陰でくすぶっていた女性がたくさんいて、テレワークは、その人たちの力を解放したと思います。

 

働き方改革、女性活躍、地方創生、少子化は繋がっている

白河さんは、働き方改革をはじめ、女性活躍、地方創生、少子化というテーマでのご講演が多いとお聞きしています。

白河桃子さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

実は、この4つはすべて一つにつながっています。働き方改革を実施すれば、確実にできるのが、女性の活躍であり、社内の出生率のアップです。考えたら当たり前ですが、女性が働き続けられるようになって、子どもを産むようになるんですね。私の友人スリールの堀江敦子さんが『両立不安白書』というものを出したんですが、子どものいない働く女性の9割が両立を不安に思っているんです。そして、そのうちの5割近くが、妊娠出産を仕事のために遅らせたことがある、と答えているんですね。これは大きな少子化の要因です。だから、その不安を払拭してあげれば、社内の出生率は必ず上がるんです。また、男性が早く家に帰れるようになることも大きな効果があります。男性の育児協力があるかないかで、その後、子どもを持つ確率は大きく変わっていきます。

地方の場合、少子化は地方活性のための重要なキーワードになります。実は待ったなしになっているのは、女性が流出してしまっていること。やりがいのある女性向けの仕事がないところからは、どんどん女性が流出してしまう。独身の男女比のバランスも悪くなる。結婚が減り、出生率も減る。少子化が進む。だから三重県など、県を挙げて働き方改革をして、ワークライフバランスに取り組みました。20年間で最も出生率が上がったそうです。三重県では、労働力を大阪に取られていたんです。ところが、大阪の大企業の内定を蹴って、ワークライフバランスのいい三重県の会社で働きたい、という学生も出てくるようになりました。地方にとっては、人を惹きつけ、少子化を解消する、という意味でも、働き方改革は重要なんです。

地方は働き手がいません。だから、ワークライフバランスとともに、ダイバーシティも広げないといけない。高齢者であっても、子育て中の方であっても、なるべく職場に留まってもらったり、戻ってもらったりしないといけないんです。そういう人たちが、やりがいを持って働ける環境を用意しないと誰も来てくれない。いつまでも「24時間働ける、若い男子ください」なんて言っている場合ではない。そんな人は、地方にはもういないんですから。

一方で、個人に関しても、「ライフキャリアデザインを見直す必要がある」とおっしゃられています。このあたりも講演テーマになっているのですね。

白河桃子さん講演依頼.comスペシャルインタビュー

キャリアデザインというと、仕事のイメージが強いんですが、実は結婚、妊娠、出産、家族形成など、全部関わってくるんです。なのに、仕事とそうでないものを別々に考えてしまう人が多いし、別々に教わってしまっている。一体として考えないといけません。仕事をしながらパートナーを得て、お子さんが生まれたら一緒に両立する。自分の仕事を諦めない。そのためには、どうしたらいいか。自律的に動いていかないといけないんですね。私は婚活というものを提唱した人間で、その後、妊活も書いていて、今度は就活というテーマでも本も書いているんですが、大事なことは自分で選択し、自律的に考えられるか、ということなんです。自己選択です。ボーッとしていても何も起きない。仕事も結婚も子どもを持つことも、自分で動いていかないといけない。そのためにどうすればいいか、ということを仕事と絡めて考えないといけません。

男性の中には、仕事が忙しくて結婚できないとか、収入が少ないから結婚できないとか、したいけどできないという人も多いんですが、男性も女性と一緒になって生きていく、という視点を持てば、選択肢は広がります。そのためには、自分もしっかり家事や育児に関わる。家事を分担する、収入を合算する。2人の収入を合わせれば、年収水準が低い地域でもなんとかなるわけですから。結婚し、子どもを持って家族形成をするという希望は、それで十分に叶うんです。そのためには、働き方改革も大事ですが、「昭和の役割分担」を変える意識改革も大事です。男性はとにかく仕事、女性はとにかく家のこと、という役割分担で昭和の時代はうまくいったわけですが、もうそういうわけにはいかない。

ワンオペ育児からチーム育児に。ワンオペ稼ぎから、チーム稼ぎになってくる。女性のパートはお小遣い稼ぎなんかじゃなくて、しっかりたくさん稼ぐ。男性が一家の大黒柱で、一人だけ疲弊するまで働き続けるというモデルは、とても脆弱なんです。これからはチームで生きていく。それが、子育てにもプラスだし、稼ぎも増やすんです。

――取材・文:上阪 徹/写真:若松俊之/編集:鈴木 ちづる

 

白河桃子

白河桃子

白河桃子しらかわとうこ

昭和女子大学 客員教授

東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業、 中央大学ビジネススクールMBA修得。 住友商事などを経て執筆活動に入る。2008年中央大学教授山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。婚活に始…

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