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インタビュー特別対談

2004年10月13日

渡邊陽一×古賀稔彦 特別対談Vol.1「よい指導者とは決して天才ではない」

アテネ五輪での、谷本歩実選手(金メダリスト)との感動の抱擁シーンが記憶に新しい、古賀稔彦氏。

今回、講師マガジン「人」の立ち上げ特別企画として、渡邊(講演依頼.com運営会社 株式会社ペルソン代表取締役社長)自らが取材にあたり、古賀氏の本質を探りながら、アテネ五輪で見せたあの感動の裏にある指導者の精神に迫ります。

お酒を飲みながらのお話、今回だけの特別企画です。

渡邊陽一×古賀稔彦 特別対談Vol.1「よい指導者とは決して天才ではない」

渡邊:  まずはアテネオリンピックでの谷本選手の金メダル、おめでとうございます。
こうした結果を考えますと、やはり古賀さんは選手としても指導者としても天才だと私は感じました。

古賀:  ありがとうございます(笑)ただ、私自身は自分を天才だとは思っていませんよ。

渡邊:  そうなのですか。指導者としても素晴らしい才能をお持ちだと思いますが。

古賀:  これは私の才能に対する考え方なのですが、才能とは何か目に見えて凄いことをした人に対して才能があるという使い方をしますが、私は才能はある、なしではなく誰にでもあるものだと思っています。なぜならどんな小さなことでも、人より秀でている事は才能だと思うからです。それは、人より気遣いが上手いということや優しいということも才能だということです。

私は自分のことを指導者とは思っていません。むしろサポート役だと思っています。
ですからこの子には才能がある、あの子には才能がない、というようなどこかで線を引いてしまう考え方をしてしまうとそれはサポートの邪魔になってしまいます。

柔道を教えていると、ちょっとしたアドバイスで格段に上手くなることがあります。それはその子の中にある可能性を引き出したということです。才能があるかどうかという見方では、そうした可能性を見落としてしまうと思っています。だからこそ、私は誰の中にも才能があると思って柔道を教えています。

渡邊:  古賀さんの才能に対する考え方は私と違いますね。
誰の中にも才能がある、その才能を発見して引き出してあげることがサポートしていくということであり、古賀さんのおっしゃられる指導の在り方という訳ですね。

古賀:  そうですね。何かに気づいた人がひとつ言葉をかけてやることで、選手自身も「自分達は絶対に出来るんだ」という強い気持ちを持ってくれるようになります。それがサポートすることでもっと上にいけるということなのだと思います。

渡邊: 「サポート」という発想が出てくる事はそれだけで凄いことですね。
その言葉をどこかで習って知っている方とご自分の考えとして語られる方とでは大きな違いがあると思います。重みが違いますよね。もちろん古賀さんは後者でいらっしゃる訳ですが、その「サポートする」という発想は古賀さんの中のどこから出てきたものなのですか。

古賀:  私はほとんど本を読みません。自分の本でさえ読まないくらい、読書をしないのです。ですから、私の考えはみな今までの自分の経験の中から自分の感覚で判断して、やってみて出てきたものです。本を読みすぎるとどうしても自分の考えが左右されがちになってしまいますから。

渡邊:  「サポートする」というキーワードは古賀さんの感覚から出てきた言葉なのですか!感覚を的確に言葉で表現するというのはやはり才能ではないでしょうか。ここで言う才能とは私の考える才能で、一握りの人にしかない特別なものという意味ですが。古賀さんは普通におっしゃいますが、自分の感覚を相手にわかるように説明できる人はそうはいないと思うからこそ、それは才能だと思うのです。

古賀:  自分の感じたことをうまく言葉に出来ないのは、感覚というものがあくまで個人のものだからです。選手にコーチの言っていることがわからないのは、コーチの感覚で物を話すからですね。ですから渡邊さんは私が感覚を上手く表現できるとおっしゃいましたが、いくら的確だと判断される言葉に置き換えても本当は他人にはわからないものなのです。では絶対に自分の感覚が相手に伝わらないかというと、それは違います。あることが出来ていれば伝わるものなのです。

渡邊:  それは何でしょうか。

古賀:  信頼関係です。選手に自分の感覚を一番正確に伝えるということは、まず信頼関係が成り立っていなくては出来ないことなのです。

初めは選手に対してそれぞれの感覚の中でわかるように言葉で伝えていきます。例えば、私の感覚を相手に伝えるとき、いろいろな言葉で相手に一番わかる言葉を探しながら教えていきます。それが時間の経過とともに信頼関係が出来てくると、私と選手の感覚が共有できる時期が来ます。感覚の一致とでも言いましょうか。この感覚の一致をみることで、より深い指導ができることになります。自分で感じたことを選手も感じてくれている訳ですからね。指導のポイントが伝わりやすくなります。

結局のところ、感覚でしかわからないものを言葉で言い表す事は無理なのです。とすれば、コーチの感覚を選手が理解して生かしていくしかない。それにはお互いの感覚の一致が必要で、この構図は信頼関係なしには絶対に成り立たないと思います。

ですから初めの話に戻りますが、この子は天才だとか、才能があるとかという目で見てしまうとこうした信頼関係が作れず、結局何も伸ばしてやれないということになってしまうのです。

渡邊:  なるほど。それは古賀さんの指導方針というわけですね。この指導方法もご自分のご経験の中から判断して構築されたものなのですか。どなたかから影響を受けたりはなさらなかったのでしょうか。

古賀:  私の場合は、指導に関しては恩師の吉村先生の影響が強いと思います。もちろんまるでそのままではありませんが。ただ吉村先生はご自分の私利私欲はまったくお考えにならない方で、常に選手の立場に100%立って考えてくれる方でした。選手を第一に考え行動し、発言されていた。これで私達選手との信頼関係が出来ていました。ですから、そうした環境の中で選手生活を送った私も自然と吉村先生と同じように選手の立場に立って行動したり発言したりするということをしているのだと思います。

渡邊:  吉村先生の影響は強いですね。今の古賀さんの指導スタイルの原点を作ったといってもよいのではないでしょうか。

渡邊: 影響を受けたといえば、一番近くにいらしたお兄様からはいかがですか。私は兄弟の影響と言うのはやはり大きいと思うのです。私自身も4人兄弟ですから言うのですが、兄弟とは身近にいるだけにお互いに大きな影響を与え合っていると思います。
古賀さんとお話していると、ご自分をとても客観的に見られていると感じます。その客観性は小さい頃からあったのでしょうか。お兄さんにもそうした客観性はおありになるのですか。

古賀: 客観性ですか。私が小さい頃はどんな子供だったかと言いますと、体の弱い子供でした。いつも布団に入っているような子供時代でした。反対に兄は元気でよく母にやんちゃを怒られていました。ですから私は布団の中から元気な兄を遠くに見ている環境である程度まで大きくなりました。観察していたんですね、こうしたら怒られるのかと冷静な目で(笑)そうした中で客観性というものが育まれたのでしょうか。

渡邊: お兄様はどうだったのですか。

古賀: 兄は指導者という人を教える立場に立って変わったと思います。

渡邊: 客観性が出てきたとお感じになる訳ですね。

古賀: そうですね。客観性が出てきたというよりは、自分の考えを通すことばかりではなく、相手を受け入れる余裕が出てきたと感じます。

渡邊: 相手を受け入れる余裕ですか。その余裕がないと信頼関係も生まれてこないのでしょうね。だからお兄様も指導者になられてから変わられた。すごいですね。そしてやはりその客観性をもともとお持ちだった古賀さんはやはり天才だと私は思ってしまいます。先ほどはご自分のことを天才だとは思わないとおっしゃっていましたが、天才とはどんな方だとお考えになりますか。

古賀: 天才とはやるべきことをやっている方だと思います。やるべきことをやっていれば何かは成し遂げられます。ただ、その成し遂げたことが派手なことだったりすると目立ちますからね。それを見てみなさん天才とおっしゃるのではないでしょうか。

渡邊: やるべきことをやっていてもなかなか結果の出ない方もいらっしゃると思うのですが。

iv14_05古賀: 誰でもやるべきことはやられてはいると思いますよ。ですが、結果が出ないからといってそこでみなさん辞めてしまっていると思います。本当に強い気持ちで「自分はこうなりたい」と思ったら、やってみてダメでは終わりません。これでダメならば次はどうしよう、こうしようと次に進む気持ちがあります。その気持ち(モチベーションですね)を継続していけるかが重要なポイントになります。このことが出来る人が結果的にすごいと言われることを成し遂げて、天才と呼ばれるようになるのだと思います。

渡邊: ということは、指導者としてはそのモチベーションの継続をサポートしていくということになる訳ですね。

古賀: そういうことになりますね。谷本選手の場合は、オリンピックの3年ほど前から金メダルを取ったら一緒に抱き合って喜ぼうと約束していました。その約束が彼女にとってモチベーションになってくれたのかもしれません。もちろん彼女自身の金メダルを獲る、という強い気持ちがあってこそですが。

渡邊: そうした継続力が必要だと言うことを世の中が天才だと呼ぶ方たちは自然にわかって実践していらっしゃる訳ですよね。自ら変わって行くことに挑戦していかれている。それはやはりとても素晴らしいことだと思います。
例えば阪神大震災を見て変わっただとか、死にそうなめにあって変わったという方はよくいらっしゃいますが、自然体で変わろうという原動力を持っていらっしゃる方は少ないと感じます。

古賀: そうかもしれませんね。ただ実際に目標を達成できるかは、そういう気持ちを上手く助けてもらえる環境にいるかということも大きな要素にはなってくると思います。

渡邊: ここでも指導の重要性が見えますね。

古賀: もちろん指導だけでも意味が在りません。選手自身の気持ちがまずあってのことですから。ですから信頼関係は大切ですし、それを築くために選手の立場に立つことが重要になってくるのです。

渡邊: 先程も「選手の立場に立つ」と言うことをおっしゃいましたが、具体的にはどうしたらいいということなのでしょうか。一言で言うとわかったような気になりますが、重要なお話なのでもう少し詳しくお伺いしたいですね。私も社の代表という立場におりますので、社員を育てるなどということに応用できそうなのでぜひ教えてください。

古賀: そう難しいことではありませんよ。「まず相手を受け入れる」ということです。
人間は自分勝手な生き物ですから、やはり自分の話を聞いて欲しいと思っています。ですがそれでは自分の思いをぶつけているだけです。ぶつけたものは跳ね返ってきてしまいますよね。人間関係も同じことで、相手に理解してもらおうと思ったら、まず相手を受け入れるところから始めなければなりません。相手は自分の欲求、つまり自分の話を聞いて欲しいという願いが叶った訳です。そこで初めて相手の話を聞く余裕が生まれるのです。まず聞いてくれ、ではなくまず聞きましょうですね。お互いの話が聞けたことで相互理解が深まります。

渡邊: まず聞きましょう、ですね。
私も社員に対してまず聞きなさいと言っていることがよくあります(笑)

古賀: そうですか(笑)
良い例えをお教えしましょうか。私は柔道家ですから柔道に絡めた例えですけれど。

柔道とは、柔(やわら)の道(みち)と書きますよね。それは柔軟な心を持つことで道を歩いて行けるということだと私は思っています。ここで言う道とは、人生のことです。硬いものと硬いものは衝突します。ですが自分が柔軟なら硬いものでも受け入れられます。そして受け入れれば、そのことについて自分がどうすればよいのかを考える余裕が生まれるはずです。問題は自分の中にあるわけですからね。じっくり考えることも出来ます。そこで自分がどこへ進めばよいか考えればよいのです。

渡邊: 素晴らしい例えですね!そして柔道とは奥が深い。
柔道は古賀さんの人生を形成してきた大きな要素だということがよくわかります。
大変勉強になりましたし、私も是非「柔の道」で進ませて頂きたい、と思います。
今日はありがとうございました。

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古賀稔彦

古賀稔彦

古賀稔彦

柔道家

1967年福岡県生まれ、佐賀県出身。 東京・世田谷の「講道学舎」に入門し、弦巻中学、世田谷学園高時代に数々の全国大会を個人・団体戦で制覇。日本体育大学進学後”平成の三四郎”の異名をとり、バルセロナ五輪で金メダルを獲得。

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