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無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)とLGBT対応~勝間和代・パクスックチャ・増原裕子

今回は、特別に人気セミナーのレポートから貴重なノウハウをお届けします。

2018年2月22日19時、「無意識の偏見とLGBT対応セミナー」が、五反田アリアル会議室ANNEX(東京・品川区)で開催されました。昨年の2017年11月に同テーマで開催したセミナーの反響が大きく募集定員を上回ってしまったため、追加で開催となった人気セミナーです。昨今、企業のダイバーシティ推進分野で高い注目が集まっている「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」。前半はどうすれば無意識の偏見を乗り越え効果的にマネジメントできるかという視点で、ダイバーシティ&ワークライフ・コンサルタントのパク・スックチャさんが講演。続いて無意識の偏見とLGBT対応との関わりについて、ダイバーシティ経営におけるLGBT対応を専門とする増原裕子さんが講演。後半には、経済評論家の勝間和代さんも加わり、Q&Aとトークセッションが行われました。

 

第一部:パク・スックチャさんレクチャー&ワークショップ

「無意識の偏見」は誰にでもある

NATO首脳会議時の記念写真(2017年5月/ベルギー・ブリュッセル)出典:ロイター NATO首脳会議時の記念写真(2017年5月/ベルギー・ブリュッセル) 出典:ロイター

講演冒頭、去年のNATO首脳会議の際に集合した各国のファーストレディーたちの写真を紹介するパク・スックチャさん。1人だけ男性がいることに気づき「ファーストジェントルマン?えっ?国のTOPのパートナーが男性?」と実は驚いてしまったことを告白します。ルクセンブルクのグザヴィエ・ベッテル首相のパートナー、ゴーティエ・デストネ氏です。ベッテル氏は首相になる前からゲイであることをカミングアウトしています。「私はこういう仕事しているのに驚いてしまう、つまり偏見があるんだと気付くのです。誰しもが偏見、つまりバイアスを知らず知らずのうちに持っているもの」とパクさんは言います。

続いて米国での女性の活躍に関する状況やデータを提示しながら、「女性リーダーの割合が向上しない理由を探る多くのリサーチが行われた結果、家庭との両立の問題もありながら、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が関わっていることが分かってきたんです」と説明しました。

無意識の偏見は組織マネジメントにも大きく関わっている

レクチャーでインタラクティブにワークを多く取り入れるパクさん。誰もが知らず知らずのうちに無意識の偏見を持ってしまうことを聴講者に認識させます。

一般的に高学歴な人や高いポジションにある人ほど、「私はバイアスを持っていない」と思う人が多いとパクさんは言います。自分は論理的に考えられ、人を公平に評価していると考えているのだそうです。しかし、私達人間の脳には限界があり、自分の経験値(知っていること)で正解を出しがちであることは、最新の脳科学研究でエビデンス(evidence、証拠)がたくさんある。親から言われたことや学校、様々なコミュニティの価値観、広告やメディアの刷り込みなど、様々なことが関係し、人間は知らない間にバイアスが刷り込まれていくのです。

パクスックチャさんのセミナーとワークショップ風景 聴講者が楽しく参加できるワークが多いパクスックチャさんのレクチャー

続いて、パクさんはオーケストラが新しい試みとして行った審査員前にスクリーンをするオーディションシーンを紹介。選考のやり方をブラインド・オーディションに変えたことで、女性の合格率が向上した事実を伝えます。「1970年代の米国のメジャーなオーケストラ楽団員は95%男性でした。でも、音大を卒業する人は半分近くが女性です。なぜそのようなことになるのか不思議ですよね。そこで審査員の前にスクリーンを置き、本来の音、演奏だけで審査をできるように変えました。その結果、現在では女性が40%に増え、男女の比率だけでなく、有色人種も増えたのです。」

無意識の偏見が組織での意思決定、採用、評価、昇進、仕事の配分などのタレントマネジメントに大きな影響を与えていることが分かってきたため、多くの企業が取り組むようになったのです。

誰も排除しない組織、社会に

無意識の偏見を解決する手段の一つは、「積極的なコミュニケーション」だとパクさんは言います。気が合う人とは自然とコミュニケーションの量も質も高まりますが、逆に苦手な人とは会話量が減ります。しかし、苦手だと思うのも、本当にその人のことを分かって判断しているとは限りません。「人の事をよく知らないうちに、この人はこうに違いない、という思い込みをすることが無意識の偏見に繋がります。そしてもっと大事な事は、誰も排除しないということ。」最近人事関連の話題でよく出てくる、インクルージョン(inclusion)についても言及します。「みんなを受け入れて、私はここに属していると誰もが思える組織作りをすれば、それぞれが持っている能力を最大限に発揮でき、より良い組織、より良い社会になるはずです。どんな人でも自分らしく生きられる社会になったらいいなと心から思っています」とパクさんは講演を締めくくりました。

第二部:増原裕子さんレクチャー

LGBTは13人に1人

アンコンシャス・バイアスが結論としてLGBT対応にどう繋がるのか。
ダイバーシティ経営におけるLGBT施策の推進支援コンサルタントとして、企業や自治体向けにLGBTのことを伝える増原さんからお話くださいました。レズビアンの当事者でもある増原さんは、プライベートでは、元宝塚歌劇団出身の東小雪さんと同性結婚式をし、3年前に渋谷区のパートナーシップ証明書を第一号で取得し話題になります。その後東さんとは昨年末に離婚が成立。今は仕事のパートナーとして良い関係を続けていらっしゃいます。

増原裕子さん講演の様子

まだ日本社会の中では見えにくい課題である、LGBT。LGBTの友人や家族、同僚、身近にいると答える人は日本でどれくらいいるでしょうか。「LGBTと言えば、誰を思い浮かべますか?という質問をすると、同じような人たちをイメージされることが多いんです」と増原さんはオネエ系タレントと言われる方達を紹介しながら説明します。企業の管理職向け研修でも、LGBTという言葉は知っているけれど、実際に身近にいないためにどんな人たちなのかがイメージ出来ない、という反応が非常に多い現実がある。「いわゆるオネエ系と括られている方達は、タレントさんですからパフォーマンスとして振る舞う方もいらっしゃいます。人によってはゲイで女装をしていたり、トランスジェンダーだったり。世の中にいるLGBTは皆彼らと同じだと考えられてしまうとだいぶ違うんです。」

増原さんが自分はレズビアンだと認識したのはちょうど10歳の頃。しかし、それから22歳で大学を卒業するまで、誰にも話せず思い悩む日々が続いていました。スライドに映した幼少期の自分の写真を指さしながら「皆さん、この10歳の少女を見て、レズビアンだと分かりますか?」と聴講者に語りかけます。人の中身はキャラクターが際立っているタレントさんと違い、一見しては分かりません。「LGBTは13人に1人いると言われていて、実は佐藤・鈴木・高橋・田中という4大苗字の人の合計よりも多いと言われています。気づかないだけ、それぐらい本当は身近にいるんです。」
またLGBTを考える上で大事な、性を構成する4つの要素と、そのうちの2つであるSOGI(Sexual Orientation & Gender Identity)についても解説しました。

■LGBTとは
LGBTはLesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で性的マイノリティの総称。LGBに関しては好きになる相手の性別、性的指向に関わる概念であり、Tは自分の性別に関して違和を抱く人の事を言い、LGBとTでは何が課題になっているかが大きく違う。加えて、最近若い人に多い、性自認が男女どちらでもない、又は中性的などのXジェンダー、恋愛感情や性的欲求を抱かないアセクシュアル(又はAセクシュアル、エイセクシュアルとも言う)なども含めてLGBTは総称的に使っている用語。
■SOGI(ソジ)とは
SOGIとは、2006年頃から国連でも使われており、Sexual Orientation & Gender Identity の頭文字を取った言葉。4つの要素、からだの性(生物学的性)、こころの性(性自認)、好きになる性(性的指向)、表現する性(性表現)のうち、性的指向と性自認のことを表している。LGBTのように性的マイノリティを総称する言葉ではなく、全ての人に関わる広い概念を指す。

 

LGBTへの「思い込み」と「誤解」

一番大きい問題は、私達は「見えない=いない(と思う)」ということ。「家族の中でお子さんがLGBTかもしれないと想定します。そうじゃないかな?と思っていれば気づけるかもしれませんが、そういう考えが全くなければ気づけないですよね。自分からはなかなか言い出せないながらに、子どもは当事者として気づいてほしい場合もあって、私の場合、すごく短い髪型にしていたのですが、なかなか気付いてくれませんでした。」自分の口から言わない限り、存在しないと思われていることが実は当事者にしか分からない大きい悩み。企業の管理職向けLGBT研修でも、研修を受けた方が自分の部署に戻られて、『いやぁ今日の研修を受けたけど、俺はちょっと無理だなぁ』という気遣いのない話をする、というような場面もよくあるそうです。自分の部署にカミングアウトしている人がいないと身近にはいない、と思い込んでしまう。でも実は言えないだけでその職場に、すぐ隣にいるかもしれない。知らず知らずのうちにハラスメントに発展することがあると増原さんは警鐘を鳴らします。

身近な問題だとより多くの人が思えることが課題解決の糸口

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アメリカでは、2015年に全米で同性婚が合法になりました。この2年前の2013年、世論調査で自分の周りにLGBTがいると答えた人の割合が50%を超え、同時に同性婚支持の数字も過半数を超えた。「人は隣にいる人の話だと思えば思うほど、社会として偏見や差別があるなら解消しなければいけない、と考える人が増えるんです」と増原さんは言います。日本の場合、同性婚を認めるかの意識調査では既に賛成派が過半数を超えている。しかし、周囲にLGBTがいるという率がそんなに増えていない。頭では良いんじゃないかと思っていても、身近な問題として捉えられていない人が多いため、過半数を超えている日本の同性婚賛成者達が積極的に同性婚を支持して実際に法制化されるまで動くかどうかと言うと、そうとは言えないところもある。

増原さんはアライの活動にも触れ、野村、NTT、マイクロソフトやゴールドマン・サックス、伊藤忠の労働組合の例も紹介しました。「社内でアライシールを貼る人が増え、いずれ全員が貼るようになったら、もしかしたら、LGBTであることを隠して過ごさなくてもいいんだ、と当事者が感じるようになるかもしれません。小さな行動かもしれませんが、まずは自分からアライを表明するということが大きな一歩になると思っています。LGBTの人たちが生きやすい世の中にするのも、隣にいる人、一緒に働いている人、一緒に学んでいる人、一緒に生きている人の話、身近にいる人の話だと、多くの人が思えるかどうかで決まるんです。」

■アライとは
LGBTをとりまく課題を理解し支援する考え方、またそうした立場を明確にしている人々を指す。北米に端を発するアライ活動は、芸能人やスポーツ選手など多くの著名人やビジネスリーダーの共感を得て世界中に広がり、企業にもLGBTへの対応が求められる中、社内でのアライの存在が鍵を握ると注目されている。

 

最後に、2017年に社内で同性パートナー登録が認められ、日本社会の中ではダイバーシティへの取り組みが進んでいるスターバックス コーヒー ジャパンの例を紹介。チームの生産性を高める方法として、米グーグル社が発表したことで大きな注目を集めることになった「心理的安全性」(英語のサイコロジカル・セーフティを和訳した心理用語)を例に、それぞれがありのままの自分をオープンにしながら働ける組織作り、まさにインクルージョンを推進していくことは、生産性向上をはじめ、離職防止など様々なことに繋がると訴え、講演が終了しました。

 

勝間和代さんまとめ

人間はいかに本来の姿を見ていないか

「『勝間さんって意外に怖くないんですね』って実際に会うと言われることが私は本当に多いんですよ(笑)。これはまさに無意識の偏見ですよね」(会場大爆笑)

普通の女性は活躍するはずがないという無意識の偏見がある人にとっては、活躍している人は特別に強く、怖い人でなくてはいけないのだと、勝間さんは言います。そして、最近話題になっている#MeTooというタグを例に出し、偏見のメカニズムを説明しました。「#MeTooというタグを使って被害者が様々な告発をします。するとその被害者を叩く人が出てくるんです。なぜか分かりますか?偏見も被害者叩きも実は同じ理論で、私達は頭の中で勝手に秩序を作っているんです。その秩序を乱されるとすごくイライラする。イライラすると何が起こるかというと、秩序を乱した人が悪い、ということになってしまうんです。通常私達の信念では、罪なき人が被害にあってはいけません。そうすると、被害にあった人は罪がなくてはいけない。結果として“被害者にも落ち度がある”と、倫理観の強い人ほど被害者を叩きます。バイアスも全く同じです。本人達が勝手な法則やルールを作っていて、自分は正しいはずだ、ルールからはずれる人が悪い、正しくない、という風になってしまう。だから、この世の中を正しい、正しくないで見ることをやめるということを私は浸透させたいんです」世の中は実は無秩序で、正しい、正しくないではなく、ダイバーシティやインクルージョンは、カオスだということを認められる世界、認められる社会、認められる組織だと勝間さんは加えます。

「私達は、社会全体、全員がバイアスを持っているということを認められて、全員がそれをさらけ出せる世界に、そして、当たり前のように身の回りにLGBTの知り合いがいると皆が言える社会にできたらと思っています。」

勝間和代×パクスックチャ×増原裕子「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)とLGBT対応」セミナーレポート 左:勝間和代さん 中央:増原裕子さん 右:パク・スックチャさん

 

――企画・編集:江本千夏/鈴木ちづる

勝間和代/経済評論家

勝間和代 『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法』を皮切りに、『断る力』など次々とベストセラーを連発し、世に多くの信望者(通称・カツマー)を生み出した。また、少子化問題、若者の雇用問題、ワークライフバランス、ITを活用した個人の生産性向上、など、幅広い分野で発言。ネットリテラシーの高い若年層を中心に高い支持を受けている。著作多数、著作累計発行部数は500万部を超える。ウォール・ストリート・ジャーナル「世界の最も注目すべき女性50人」、世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leadersに選出、エイボン女性大賞(史上最年少)、第一回ベストマザー賞(経済部門)を受賞。現在、株式会社監査と分析取締役、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。

パクスックチャ/ダイバーシティ&ワークライフ・コンサルタント

パクスックチャ米国ペンシルバニア大学経済学部BA(学士)、シカゴ大学MBA(経営学修士)取得。米国と日本で米国系企業に勤務後、日本に戻り米国系運輸企業に入社。同社にて日本・香港・シンガポール・中国など,太平洋地区での人事,スペシャリストおよび管理職研修企画・実施を手がける。2000年に退社し、日本で最初にワークライフバランスを推進するコンサルタントとして独立。米国とアジアに精通したグローバルな経験を活かし、グローバル化と複雑化する多様性への対応に向けダイバーシティ&インクルージョンの推進に携わる。近年では、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を日本で広めるべく執筆、講演等の普及活動に力を注ぐ。

増原裕子/LGBTコンサルタント

増原裕子株式会社トロワ・クルール代表取締役。慶應大学大学院修士課程、慶應大学文学部卒業。ジュネーブ公館、会計事務所、IT会社勤務を経て起業。ダイバーシティ経営におけるLGBT施策推進支援を手がける。経営層、管理職、人事担当者、営業職、労働組合員等を対象としたLGBT研修の実績多数。LGBTの人々が生きやすい社会をビジネスによって実現し、属性に関わらず生き生きと輝ける社会の実現を目指している。『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』などメディア掲載多数。著書に『同性婚のリアル』等4冊がある。

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