講演依頼.com営業部の江本です。
「話題のビジネス本」第九回目は、磯田道史さん著「素顔の西郷隆盛」(新潮社)をご紹介します。
果たして、西郷隆盛は、英雄だったのでしょうか。この本からは、そんなことも思い巡らしました。
西郷の故郷である薩摩社会の基本構造は縦型、英雄崇拝、軍隊的な上意下達だったと言います。西郷は、幼少期から、無敵で傑出した人物であるようにと期待されました。そして、薩摩流スパルタで鍛えあげられ、郷中教育では、武術だけではなく、礼儀や忠孝、精神面での深い学びもありました。
学問への強い好奇心と、一流の人を見極める能力、そして師と仰いだ人物への揺るぎない忠誠や、一度決めたら貫き通す頑固さ。更には、抜かりない情報収集による戦略家であり、策謀の為には、あくどいことも考えられる。純真さと優しさから人の心に寄り添い、いつしか同化していることも。豪快さがある一方で、子供らしい愛嬌で慕われる一面もあり、西郷隆盛を一言で表すことは難しく、どれが核となる素顔であったのか想像に尽きません。
しかし、歴史上のどの場面においても、私利私欲に走ることは無く、常に平等思想と敬天愛人という考えを大切にしていたことに間違いがないはずです。これらを追求するあまりに、抜群の行動力と破壊力で突き進み、加えて自信家だったからこそ疎まれ、そして抗争に引きずり込まれて、家族や仲間を悲しい運命へと導いてしまうことも少なくありませんでした。
改めて一つ一つの出来事と西郷の関わりを考えると、西郷の心の動きと、様々な顔が浮かびます。意気揚々堂々たる姿、悲しさに縛られ苦悩する姿。何度も正反対な姿が表れることがありました。これらはどれも、物事に真正面から向かっていった人間臭い西郷らしさなのかもしれないとも感じました。
さて、西郷隆盛は本当に英雄だったのか。
時代、地域など、様々な状況において、様々な意見があると思います。ただ、西郷は「自分が動けば人は助かる」という信念を、常に体現していたと強く感じます。
信頼しあっていた斉彬公が、自分にしか西郷はコントロールできないと言うように、西郷は厄介、難しい人物だと、爪弾きにしてきた人も多くいました。しかし、危機的状況になると、西郷を呼び戻せと、西郷を追い詰めた人であっても、いつも西郷が局面を打開してくれることを期待していました。
磯田さんは、西郷という強烈な個性を持った異端児に、今の日本の原型が形づくられたと言います。そして、西郷は孤独な人であったかもしれないという考えも記されていました。私もこれに共感し唯一無二な存在であり、孤独であったから、西郷には、人には見せていない素顔がまだあったのではとも思えるのです。
明治維新から150年という今、最大な功労者と言われる西郷隆盛の素顔と、西郷が大切にしたものを考えることは、今私たちが暮らしているという現実、そして未来を考える上でも、学びになるのではと感じています。
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