飛び込み営業のコツ ～ハヤシ人材教育研究所所長・林薫～

なぜ飛び込み営業をすることになったか、経緯を教えていただけますか？

かつて３１歳の時、厳格な父に反発し無謀にも一文無しで名古屋の家を飛び出し、京都で路上生活を始めました。病気をしていた妻と小学１年生を頭に乳飲み子までの幼子４人、一家６人赤貧のどん底生活を経験します。住まい、また職を求めて奔走するが、汚いものでも見るように追い返され、その中で、やっと見つけた会社が書籍販売会社で、本の飛び込み営業の会社でした。しかし、まともに給料がいただけず、７か月ほどで倒産してしまいました。

運よく、その倒産した会社にいた婦人に出会い、紹介を受け、ほるぷ図書月販（営業社員全国３，０００人）という大会社に入社することができました。これが私の営業の原点、飛び込み営業人生の始まりとなります。

失敗したことを教えてください

営業人生３０数年、失敗の数は大小数えきれないほどあります。

マンションでノックまたブザーを押します。しばらく待って留守のようですので、次のお宅をブザーします。返事がないので、次を押します、数軒のドアーが一斉に開くことがあります。お叱りを受け、お詫びして帰るのですが、これはプロとして恥ずかしい営業の一コマです。

これは大口の注文で社長さんの印を頂きに、大会社を訪問した時のことです、会社の玄関に近いところの溝の掃除をされている方が、会釈をされて見えましたが、私は会社の方に気を取られ、しっかり挨拶ができたかどうか、思い出せません、部長さんの案内で社長室に通されましたが、社長さんは不在でした、しばらくすると作業着姿の方が入ってこられました。社長です、と部長さんから紹介されましたが、溝を掃除されておられた方が、まさしくその社長さんだったのです。驚いた私は、とっさに頭を下げますが、もう胸は波打つばかり、未熟な私を見抜かれてしまいました。「契約はまたにしましょう」。そのまま契約は頂けませんでした。

営業は「人間で売る」ものです。「営業力は人間力」。人間力を高めることが、営業で成功する要諦となるのではないでしょうか。

飛び込み営業のコツを教えてください

「コツ」はこれです、とひと言で言えないのが営業です。「コツコツが営業のコツ」と云った人がいますが、これは的を射た答えかもしれません。お客様は１０人１０色、１００人１００色、１、０００人いれば１，０００人の色を持っています、学んだトークまたコツは知識として身に着けておくことは大切ですが、営業に直接結び付くかと云えばそうとは言えません。代わりにすべてのお客様に通じる、大切な心配りがあります。「それは目の前のこの方に、いかに幸せになってもらえるか」という思いです。

「いかに喜んでもらえるか」「いかに感謝の気持ちを伝えるか」、日々そうした思いを胸の中に熱く持ち続け、一人ひとりと接する時間を大切にすることです。これが営業マンにとって大切な営業の本質であり、心です。私は「営業マンは幸せを運ぶ配達人」の信念を貫いてきましたが、営業マンにとって大切なことは、営業の心と、会社を愛し、商品を愛し「情熱をもって、信念を貫き通す」、そして「決して諦めない」ことではないでしょうか。お客様はそんな営業マンを待っていると思います。

現在飛び込み営業をしている人に向けて一言お願いします

飛び込み営業は営業の中でも、特に厳しい仕事の一つです、雨の日も、風の日も、雪の日も、炎天下も、仕事に出ます。成績が上がらず孤独にうちひしがれて泣きたくなる日もあります、勿論うれしくて天に舞うような日もあります。喜んだり悲しんだり、まるで振り子のようです。しかし、営業マンの振子は同じところを行ったり来たりしているのではありません。らせん階段を登るように、日々営業マンとして進化し成長しているのです。

経験を重ねることによって、お客さまに対する対応の術を覚えます。まず気が付くことは、雄弁にまくしたてるものではない、お客様に耳を傾け、聞くことの大切さを身につけます。まず「聞き上手」になることです。そして心のコントロールです。何があっても、動じない、うろたえない、投げ出さない、必ずいい日も来ると思える大きな心です。もう一つ言えば、厳しい言葉になりますが、「人に負けることが平気にだけはならない」こと、死んでも負けないという強い精神を持つことだと思います、ひとの３倍仕事をして、負ける人はないと言われます、私も無器用な人間でしたが、この気持ちで営業のプロ中のプロ３，０００人のトップに登りつめることができました。

気持ち一つ、精神力で誰でもできます、それが営業です。営業こそが社会を動かす、最高のお役目だと考えます、誇りを持って、日本一の営業マンを目指してください、お祈りしています。