東尾理子 (ひがしお・りこ)
プロゴルファー
- ― プロゴルファーの生活というのは、トーナメントにいるときはどんなふうなんですか。
- 東尾 普通の生活ですよ。特別だけど、特別じゃない。どういうことかといいますと、たとえばプロ野球なら、その日その日に勝負が決まりますね。ところがゴルフの場合、勝負が決まるのが1週間単位なんです。その間、トレーニングもするけれど、映画やコンサートを観に行って気分転換もしているんです。ただ、そこで自分のメンタルをいかにキープするかというのが大切になってきます。ゴルフ場はお寺のようなもので、精神修養をするスポーツだと私は思います。アメリカの大学で心理学を学んだことも大いに役に立っていますね。
- ― 具体的に集中力を持ち崩さない方法などもあるのですか。
- 東尾あります。たとえば池を越えるショットを打たなくてはならない場面があったとします。その際、自分がここに落としたいという場所はなるべく「あの木の左下」というように焦点を絞って定めるべきなんです。まず一般の方は池を見てしまいますね。その先だったらどこでもいい、という発想になると失敗します。「ひょっとしたら池ポチャになりそうだから古いボールで打とう」なんてネガティブな考え方はもってのほかです(笑)。よくないパターンを頭でイメージしちゃうと、体はそれにひっぱられてしまうんです。そういう具体的なメンタルの調整方法はいくらでもありますよ。
- ―そのあたりはぜひ講演で詳しくうかがってみたいところですね。東尾さんは肌も女性的に美しくキープされていますが、アスリートとしての食事の仕方が役に立っているんでしょうか。
- 東尾 ゴルフは太陽の下を歩いていますから、紫外線をかなり浴びますので、その点は注意しています。女性として肌をきれいに保ちたいと20代の頃から思っていましたから。揚げ物や甘いものはニキビが出るので控えています。食事の内容はアスリートとしての食べ物のとり方は美にもつながるかもしれませんね。肉のとり方でいうと、牛肉や鹿肉のような赤肉はエネルギーになるのに時間がかかるので、鳥、豚、魚といった白肉をとるようにしています。どうしても赤肉が食べたいときは、日曜の夜とかに食べるんです。お酒に関しては私はもともとあまり飲めないので、あとはカフェインをとらないようにすることですね。カフェインは利尿作用があるので、試合中に脱水症状にならないためです。コーヒー、紅茶、お茶を飲んだらプラス1杯は水を飲まないと水分補給したことにならないんですよ。
- ― なるほど。体型のキープについてはいかがですか。
- 東尾 実はアメリカに留学していた頃は、今よりも5キロも太っていて、パンパンしていたんですよ。ドーナッツ、クッキー、ブラウニーと甘いものを当たり前のように食べていて、日本に帰国して『午後の紅茶』を飲んだら苦く感じたくらいですから(笑)。ゴルフというスポーツは太ってもいいスポーツなんです。体重は飛距離に比例しますから、逆に痩せすぎていてはダメ。その点で筋トレが発達しているアメリカにいたことはよかったと思います。その頃からジムには必ず通い、トレーナーについてもらっていました。あまりにも日常的に筋トレを続けているので、あるとき、夫に私がやっていたトレーニングやストレッチをやらせようとしたら「筋肉がちぎれる!」と言われて驚きました。彼はもともと野球少年でゴルフもうまいし、毎日走っているし、食事もアスリート並みに気をつけているので同じことができる気がしたんですが。長年の積み重ねというのはそれくらい違うものなんですね。
- ― 日々の積み重ねということでいうと、ジムに通わなくても何か私たちにもできそうなことはありますか。
- 東尾 コツコツやれることはいっぱいあると思いますよ。まずエスカレーターを使うより階段を使う。それから座るとき、膝を必ず閉じて、下腹を引き上げるような意識ですっと姿勢をキープするように心がけてみてください。ずっとですよ。これ、意外にすぐ疲れてだらっとなっちゃう人が多いです。立つときも、脱力して内股立ちしていたらおしりが垂れちゃう。かかとつけてまっすぐ立つ。それをずっと続ける努力をするだけで、体型はずいぶん変ってくるはずです。体は正直。その人の生活がでてくるもの。それに体型は生活態度や考え方にも影響していきます。美しい人は凛と芯の通った生活態度をしているはずです。
- ― ご結婚されて、東尾さん自身の考え方、人生観も変られましたか。
- 東尾 基本的には何も変りませんが、主人に影響を受けている部分は大きいと思います。彼は仏様のように何でも許せる人。だからとても安らいで生活させてもらっています。私はもともとせっかちな体育会系。5分前10分前行動が当たり前。待ったり待たされたりも嫌い。時間をムダに使いたくない合理的な性格なんです。物事の白黒もはっきりつけたいほう。でも、彼は全部がグレーゾーン。現実的なことに思い悩まないし、相手を追い詰めないんですよね。本当に彼のようになれたらいいなあと思います。もうひとつ、彼のいいところは素直に褒め言葉を口にすることができるというところ。「きれい」「かわいい」といつも言ってくれるので、私はそれを素直に受け止めることにしています。褒め言葉を受け止めると、それがまた自分の美を増幅させるんですよ。彼からの言葉だけでなく、素敵な景色を見て「きれい」と思った気持ももらっちゃう。シンプルなことだけど、プラスの言葉って体にいいし、いっぱい受け止めると絶対にきれいになれると思います。日本人として謙虚なことも大切だけれど、そこは貪欲でいいんじゃないでしょうか。
- ― 素直に褒め言葉を受け止められる、元来の東尾さんの素直さも大きな魅力ですね。もともと、ゴルフというスポーツを選ばれたのはどんな理由があったんですか。
- 東尾 過保護な一人娘だったので「ピアノがいやだ」といえばエレクトーンに変えるといった繰り返しで。小4のときテニスを始めて「後でボールを拾うのがいやだ」という理由で打ちっぱなしのゴルフに行き着いたんです(笑)。ただ、学生のとき、自分と同じレベルの人たちが「プロになる」と言っていたときに、私はプロになるとは軽々しく言えないなと思っていました。それはプロ野球選手の父親がプロとして厳しく生きていた背中を見ていたからでしょう。父親も私のスコアが悪くて叱ったことは一度もありません。プロのピッチャーとして「ホームランを打たれたくて投げた球は一球もない」と言っていました。ジュニアでスコアが悪かったときも「野球でも見にいくか」と気分転換に誘ってくれたり。両親には素晴らしいチョイスをたくさんもらって、好きなことをさせてもらって本当にありがたいなと思っています。そして今、アスリートとして自分があるのは、ゴルフのおかげだと思うんです。これからはいろんな形でその恩返しをしていけるといいなと思いますね。
- ― 女性としてはどんなふうに生きていきたいですか。
- 東尾 シワが増えていくのは過程ですからね。あがきつつ、心をきれいに保って、いいシワを刻んでいきたいと思います。きれいに年を重ねたいですね。
美の逸品
「アスリートとしての体のため、また美容のためにも、いい睡眠をとることはとても大切です。年間、30週ある試合の宿舎環境をいかに家のようにするか。そのために私は家と同じ枕を必ずもっていくようにしています。良質の睡眠をとるには早めにベッドに入って早起きすることも必要。21時〜5時の8時間が私のベストをつくります。」
東尾理子 (ひがしお・りこ)ひがしおりこ
プロゴルファー
1975年11月18日、福岡県生まれ。8才でゴルフを始め、帝京高校2年時に日本女子アママッチプレー優勝。日大入学後、1995年に米フロリダ大に留学。ゴルフ部では1年からレギュラーで、奨学生としては最高…
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