静かな深い悲しみのなかで
先日11月20日の早朝、NHK「ラジオ深夜便」の【明日へのことば】に出演しました。
『バービーの笑顔が教えてくれたもの』というテーマで、祖父母、両親が全員画家という環境で育ったこと、祖母の入院から在宅介護に至るまでのことなどを話しました。
ちなみに、「バービー」とは、私が呼んでいた祖母の渾名。祖母は「おばあちゃん」と呼ばれることが嫌だったようです。
じつは、放送された11月20日は偶然にも祖母の命日。祖母が急逝したのは、3年前の同日早朝でした。
この放送の終わりで祖母が亡くなったときのことを聞かれました。
私はこのとき、「本当の悲しみは”静寂”だと知った」と話しました。
介護をしていた当時、祖母がいなくなったら号泣し、発狂するかもしれないと考えたことがありました。
しかし、その日、私は泣き叫ぶことはしませんでした。
けれど、あれから3年経った今でも、静まりかえった深夜にひっそりと枕を涙で濡らす日もあります。
そして、空を見上げて目に映る月を祖母の魂のように感じ、心の中で彼女にそっと話しかけているのです。
在宅介護は重労働ですし、それを終えれば心身の負担がなくなります。しかし、愛する人を失った深い悲しみから再び立ち上がるまでに苦しむ場合もあります。
祖母が亡くなった後、我が家に来てくれていたヘルパーやリハビリ担当の理学療法士の方は、思い出話をしに再び訪問してくれました。一方で、訪問看護師は「また伺いますね」と言いつつ、サービス終了と同時にそれきりになってしまいました。
もちろん、利用者とサービス事業者は、サービスが終了すれば、その関係は終了します。けれど、やはり私たち家族は、祖母が亡くなってからも訪問してくれたヘルパーや理学療法士の優しさが嬉しかったし、今も彼らに温かな印象を抱いています。
モヤモヤとしたままでもいい
私が以前ある番組でご一緒した女性は、ひとりで身動きができないお母様の在宅介護を長年続けてきました。
日々の介護の様子を絵日記で綴ったり、少しでも水分を摂取してもらうようハーブティーやスポーツドリンクを活用して寒天ゼリーを作るなど、じつに丁寧なケアをしていました。
その彼女は、お母様の介護を終えた後、尼僧となる道を選んだのです。
昨今は配偶者を既に見送ってシングルに戻る人が「ボツイチ」などと呼ばれ、第二の人生をいかに歩んでいくかが問われています。
近年、家族など身近な人の死に遭遇して悲嘆(グリーフ)する人を支援する『グリーフケア』という言葉も、しばしば耳にするようになりました。そのノウハウを専門的に学ぶ人も増えているようです。
私自身、介護を終えた3年間を振り返ると、そうした学びをするでもなく、亡くなったことを受け止めたと断言するわけでもなく、気持ちの整理もつかないまま、つけないまま、モヤモヤと毎日を過ごしてきたという気がしています。
そしてこれからもそれでいいのだと思う気持ちもあります。
画家だった祖母が残した作品を見ながら、この先ずっと私を励まし続けてくれるであろう彼女に尊敬の念を抱き続けていきたいです。
小山朝子こやまあさこ
介護ジャーナリスト/介護福祉士
9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…
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