戦争前、イラクは結婚ラッシュに沸いていた。恋人たちが結婚の約束を交わし、お互いの愛を確認しあった。そのままイラク戦争開戦。戦時中、息をひそめていた恋人たちは子供をさずかった。戦後、ベビーラッシュの到来。かつての日本とも重なる家族のつながりがそこにあった。
戦場となったバグダッドで赤ちゃんが次々と誕生した。母親たちが出産の喜びと苦労を味わった。どの家庭でも家族が増えていった。
市内の病院には医療機器はほとんど残っていなかった。それでも破壊されずに残った機器で出産を支えていた。赤ちゃんが生まれれば医者、助産婦総出で命の誕生を迎えた。赤ちゃんが予定日よりも早く生まれたのであれば、旧式 の保育器にい れて赤ちゃんを大切に見守った。そこにはイラクの出産方法、 技術があった。
戦争で破壊された病院の現状は厳しい。戦争が起こるとまず電気・ガス・水道が止まる。そして空港や港までもが爆撃で破壊され、兵糧は断たれる。最悪の場合、病院までもが空爆の被害にあう。だからこそ医者、薬、医療機器が不足し、子供たちが 次々と命を落としていった。
頭が痛い、お腹が痛いから病院に行く、薬をもらい、それを飲んで病気が治る。この方程式が戦場では通用しない。ほとんどの国において医者は不足し、薬も無く、生きのびるはずの子供たちが亡くなっていく。それがあたりまえとなっていた。
イラクでは子供の数に注目があつまる。例えば隣の奥様に6人の子供がいれば、自分の家では7人の子供をもつと目標をたてる。子沢山がイラクでは喜ばれる。日本とは真逆の大家族がイラクでの家族構成の基本であり、子供たちは家族を支える為の大切な労働力なのでもあった。だからこそ、結婚は早く、そして子供はたくさんということが家庭の理想であった。
家族こそ戦時下で生き延びる最後の希望なのである。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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