明け方の始発電車の中は、眠そうな目をしたサラリーマンのお父さんたちで一杯だった。
よく父親不在ということを、少年非行の誘因の一つとしてとりあげ、父親たちの生活態度の見直しの必要性を唱える人も多々いるが、私はそうは思わない。
たしかに、父親と母親がいつも一緒にいて、話をしたり、勉強を見てあげるということは、とても大切なことだと思うが、それならば両親が揃っていて、いつも二人が子どもの傍にいることが非行を防ぐのか。一人親だと、子どもは育たないのかという疑問がわいてくる。
両親が揃っていて、恵まれた環境の中でも非行は起こる。
逆に、一人親であっても、両親が共働きである家庭であっても、子どもはしっかりと成長し、人の痛みのわかる、心のある人間として成長しているケースが多い。
仕事で遅くなり電車に乗ると、疲れきった顔のサラリーマンたちの姿を見る。
私自身も仕事をして疲れきっての帰宅だけに、その姿を見て思わず、「ご苦労様」と、言ってあげたくなる。
お父さんは頑張っている。自分に、また家族を持っている人は、家族の為に頑張っている。これが、世の現実だと思う。
以前に比べれば、国民の休日も増え、家庭に居る時間も少しは増えてきたのかもしれないが、職種によっては、それがままならない人は多いと思う。
仕事をするということ、働くということ、生きるということは、そういうことでもある。
ならば、一生懸命働いている父の姿を、子に教えてあげればいい。これが、今の社会であり、その中で仕事をするということは、どういうことかということを。
父親が仕事で一緒に過ごす時間がないのなら、その姿を通して、今の社会の仕組みや仕事をするうえでの責任ということの大切さを、子どもの一番傍にいる人間がしっかりと教えてあげればいいと思う。
お父さんは、頑張っているんだということ、いかに生きるということは大変なことかということを。その時、その時で理解できる範囲のことを教えて、子どもに考える時間を与えることが大切なような気がする。
子どもには、成長発達の段階に応じて受け入れる能力がある。幼ければ幼いなりにつぶらな瞳で、大人の姿を見つめている。
その子どものもつ、それぞれの能力と感性で解釈をしていく。それが学びではないだろうか。
父親とあまり接する機会がなくても愛されているということを知り、お互いの″心のチャンネル″が同じであれば、子どもは迷うことはないと思う。
私は、ニュースの特集で、「15歳の旅立ち」と題して、問題行動を犯したある少女が、更正して卒業式を迎えるまでを追ったドキュメントを制作したことがある。その少女の父親は、中学校の校長先生をしていた。母親は専業主婦。「二人とも、私の話を聞いてくれることがなかった」と、彼女が語った言葉が、今も耳に残っている。
父親と母親が二人揃っていることは、子どもにとって一番の幸せだと言うことは言うまでもない。しかし、ここで大切なことは、両親が揃っていても、その家族がバラバラで、夫婦間の愛も思いやりもなく、ただ擬似的な家庭を営んでいるだけでは、子どの心は丈夫に育たないと思う。夫婦の間に信頼があり、愛があれば、子どもはそれを敏感に察知して、安心して生活していくのではないだろうか。
様々な事情で、一人で子どもを育てている人も多いと思う。両親が揃っていようがいまいが、大切なことは、形にこだわるのではなく、心をもって子どもの一番傍にいる者が、どう子どもと向き合うかということではないだろうか。
一日べったり接触することではなくて、体があいた時、子どもの心も体もしっかりと抱き締めてあげること。その時に、子どもが発している声を吸い上げてあげることで、子どもは、親に愛されていることを確認すると思う。
“仕事をしていても、必ず終わったら、自分のところに戻ってきてくれる”という信頼感があるからこそ、待つことも不安でなくなるのだと思う。
育むということは、親も子どもも一緒に成長していくことだと思う。そこで大切なことは、お互いが、心から信頼できる関係であることではないだろうか。
時代の流れの中で、変わりゆくものが多々あるが、人間が人間としてしっかり立つ根底である「親は子を思い、子は親を思う心」は、いつの時代も見失うことなく大切にしていきたいことのように思う。
春日美奈子かすがみなこ
フリージャーナリスト
國學院大學大学院法律研究科法律学専攻修士課程修了。報道畑25年の経験を生かし、少年院や教護院(現・児童自立支援施設)での実習を通し、常に現場の”今”や”生の声”を大切にして、少年問題に取り組んでいる。
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