芭蕉は自分が尊大な存在となることを嫌がり、弟子たちと自由に議論することを好んだと言われています。有名な「古池や蛙飛こむ水のおと」は、もともと「山吹や蛙飛ンだる水の音」であったそうで、芭蕉はこの句を弟子たちに披露し、その意見に耳を傾け、ディスカッションを重ね、「古池や蛙飛ンだる水の音」となり、さらに「古池や蛙飛こむ水のおと」として完成させたと言います。
「只予が口より言ひ出せば、肝をつぶしたる顔のみにて、善悪の差別もなく、鮒の泥に酔ひたるがごとし」(私が俳句を口にしただけで、びっくりした顔をして、その良し悪しを考えようともしない。その様子は、まるで泥水の中であえいでいる鮒のようだ。)という言葉が残っていますが、周囲から崇め奉られることを嫌っていたことが分かります。
企業組織においても、年数や実績を重ね、経験やノウハウを蓄え、出世して偉くなったりすると、その影響力や発言力も大きくなっていきます。そうすると、本人が意図せずとも知らぬ間に、部下がその人の言動に対して盲従するようになる、何か言うと何でも周囲が「おっしゃる通り」と賛成するようになってしまうことは少なくありません。会議でも、反対意見や異なる意見が出ず、常に肯定的に、好意的に反応されるようになってしまうのは、特に独善的なリーダーだけではありません。実力や権限がついていくに従って、周りにイエスマンが増えていくのは自然なことと言えるでしょう。
俗に「リーダーは、イエスマンで周りを固めてはいけない。」と言われますが、その意味するところは3つあると考えます。一つは、周囲のメンバーの発言によってリーダー自身のアイデアや考えを磨くことができること。芭蕉が自作の俳句に対して弟子たちに意見を求めながら、より優れた作品を生み出し続けたように、技量が足りない人達から出る言葉の中にも耳を傾けるべき大切なことはあって、これを絶ってしまっては判断を誤ることがある。これは、歴史も証明するところです。
二つ目は、周囲のメンバーの積極的な参画意識によって組織が活性化すること。盲従しているメンバーとリーダーとは、夢や目標を共有することが難しく、情報への感度にもギャップがあり、役割意識や責任感にも大きな差があるために、その組織にシナジーやイノベーションが生まれることはありません。現場の創意工夫の無さを嘆くトップも多いわけですが、自分と現場のメンバーとの関係性が原因なのかもしれません。
三つ目は、リーダーと共に考えるプロセスが、メンバーの成長に寄与することです。芭蕉の大きな功績の一つは、弟子たちの中から数多くの優れた俳人を輩出したことですが、これは、芭蕉と弟子たちの自由闊達な議論が大きかったのではないかと想像します。芭蕉がもしお世辞をそうと気づくことなく孤高の存在でいたとしたら、多くの弟子が立派な俳人として巣立っていくことはなかったのではないか。リーダーが、メンバーと自然で自由な関係の中で多くの議論を交わす、そのプロセスにおいて、様々な気づきを得てメンバーが育っていく。なかなか人材が育たないと嘆く声もよく聞くわけですが、彼らの素養が原因ではなく、育成策がうまくいっていないのでもなく、これもやはりリーダーとメンバーの関係が原因なのかも知れません。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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