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コラム 人権・福祉

2011年02月04日

オシャレの効果~介護する人、される人の装い

「自由」な装いに利用者も喜んで

 現在、厚生労働省が行う緊急人材育成事業の講師をつとめています。受講生は幅広い年齢層・キャリアの方々がいて、彼らに介護の仕事に関心をもってもらうべく講義をしています。

 先日、この講義中にテストを行いました。このなかで「ヘルパーとして利用者のお宅に伺う際、どのような服装がよいか」という設問があり、テスト制作者の模範解答には「社会常識として、派手な服装は避け、清潔感のある服装を心がけましょう」とありました。

 この「模範」回答に異論はありません。ですが実際に介護経験があり、各地の現場取材もしている私はこの回答を紹介したうえで、こんな話を加えました。

 仙台のあるデイサービス(日中の一定時間、高齢者を預かって食事や入浴、レクリエーションを提供する)では、職員のユニホームをやめて私服にしたところ、職員のみならず、利用者にも喜ばれました。自分好みの服で働いてもらうことで個性が発揮され、その個性がよい意味でケアにも反映されたようです。

 ちなみにこの事業所では「なんでも自由」かというとそうではなく、利用者へのマナー教育などは、ほかの事業所以上に徹底して行っていました。

 私が自宅で祖母を介護していたときは、大きなイラストや英字が入ったTシャツを着たり、色味は明るいものを選ぶようにしていました。

 おしゃれな祖母は、毎日私の服をジ~ッと見て、ファッションチェックをしているようでした。自力で身動きができず、一日のうちの大半は、天井や壁と向き合っている祖母には、介護している私や母の服装が楽しみだったのかもしれません。

更衣介助は無理せずに

 一方、祖母自身のスタイルはと言えば、自宅で介護を始めた当時こそ、日中は洋服、夜はパジャマと着替えをしていたのです。朝と夜のメリハリをつけるためにもこうしたほうがよいと本などで教わったからです。

 しかし、毎日二回の更衣介助に加え、食べこぼしや尿で汚れが生じるとそのたびに替える必要があって、家族は次第にしんどくなってきました。

 在宅介護を行う家族にとって、介護イコール生活。介護を長く続けるためには、無理しているなと感じた行為は見直すことが必要になってくるのです。

 誰かがいいと言ったことでも、それが負担であれば「自分流」でいいのです。見直しの結果、毎日二回の更衣介助を一回に、プラス、汚れたらその都度着替えを行うようにしました。

 パジャマの布地は肌触りのよいもので、色は清潔感のあるブルー系を選んで買うようにしました。上下どちらかが汚れたときは、両方着替えをしなくてもよいように無地のものを2、3枚用意して、パジャマといえどコーディネートにも配慮していました。

問い続けたい、本当に大切なこと

 ちなみに、「おしゃれ」の効果については、現場の取材でも目にしてきました。高齢者施設でメイクをしてもらった女性の表情に素敵な笑顔がうまれたり、職員の腕にかみつくなどしていた認知症の女性に移動美容室(車内が美容室になっており、施設などに出張するサービスを行う)でカットやパーマを提供したところ、たちまち穏やかになり、エレガントな表情に変わったのを見て驚いたことがあります。

 今から約13年前、祖母が入院していた病院では、患者の多くが、”つなぎ”でホックの部分に鍵がついた「抑制着」を着ていました。管をはずしたり、おむついじりを防ぐために着用するものです。頭髪は男性も女性も短く刈られていました。

 今まで見たこともなかったこの光景に、私は大変ショックを受けました。私が医療、介護福祉分野のジャーナリストになるべく舵を切った、その理由のひとつは、抑制着に丸刈りで呻く高齢者を目にしたからかもしれません。

 あれから、医療、介護現場の現場で抑制着に丸刈りの高齢者は見かけなくなりました。患者や利用者の、目に見える「外見」は変わってきたのです。

 それでは、患者や要介護者に対する、目に見えない「思い」は変わったのでしょうか。これからも仕事を通して、私は問い続けていきたいと思います。

小山朝子

小山朝子

小山朝子こやまあさこ

介護ジャーナリスト/介護福祉士

9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…

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