『表現しようとするならば、まずは「技」が自然にこなせるようじゃないといけない。技の習得度にはもちろん個人差がある。自分が習得するのに時間がかかるタイプならば、それでもいい。でもその分、人より時間を費やして取り組み、振り付けに追われてしまわないところまで持っていこう。そこまで来て初めてイメージに描いていた世界観や表現にまで目を向けることができるんだ。そうなるといよいよ物事が楽しくなる。』
これは、現在取り組んでいる舞台のリハーサル中に演出家から飛び出た言葉です。
この連載で私は幾度となく「表現」をテーマとして選び、書かせて頂いています。今回この演出家の言葉をヒントに、「表現」と「基本」の考え方を一度整理できればと思います。
実は最近、新入社員研修の講演を立て続けに2本させて頂くことがありました。 社会人としてのスタートなので、「継続」、「突破」、「自らチャレンジ」、などが中心的なキーワードになり研修を行っていますが、これにプラスして「表現」と「基本」の考え方を、少しでも新入社員の皆さんに理解して頂けるといいな、と感じております。
選手時代のお話を少ししましょう。
私は幼少の選手時代から常々「どうしたらオリンピックでメダルを獲れるのか?」を考えていました。本当にシンクロという競技が好きだったので、考えて取り組むことが苦しいどころか楽しくて仕方がなかったものです。その考えはオリンピックに出場するまで、そして出場してからも続くものでした。そんな背景の中、競技を続ける上での自分の法則、イメージの法則があります。
「なりたいイメージを強く持ち、しかもそれが現実的に自分の姿であること。
その上でそのイメージが世界基準であること」
でもこのイメージを突き詰めて、現実に自分のものにしようとする時、具体的に今の自分に何が必要かを考える必要性があり、結局「基本技術」の大切さを痛感する毎日でした。
例えば水面上に上がる足一つをとっても、シンクロ選手にとっての大きな表現の要素。「細く長くつま先までしっかりと伸びていて、どこまでも足が続くかの如く真っ直ぐのライン。水面が揺れてもそれを微動だにせず、驚く程高さがある。世界のトップレベルの選手でもこんなに足が水面上に上がっているところは見たことがない。」と具体的に映像でイメージします。そして、その素晴らしいイメージを実際に自分の体でこなすためには、体のラインを真っ直ぐに保つための筋力が必要であり、水をしっかりと掴む泳力が必要だと、次から次へと分かってくる。結局はその土台となるのが、基本技術や基礎体力だと気づくのです。
正直なところ、この「基本」とか、「基礎」というものは地味で単調な作業なので、面白くはありません。でも、これがないとなりたいイメージに近づけない。だからこそ、この地味で単調な作業を頑張って早く身につけようとします。それでも、やっているうちに、私は「基本技術」はとても奥が深いことを知り、イメージを掘り下げて具体的に考えていくこと自体が楽しくなっていました。
競技者だった立場で話をすると、実力のある選手に、この「基本」が欠けていることは絶対にありません。又、演出家の言葉にもありますが、「基本」が出来て、その上で「表現」ができるようになるのです。
これは、どんな職種、どんな部署においても同じことが言えるのではないでしょうか? 長期的に物事に取り組もうとするとき、面白くないことや辛いことに対峙しなくてはならない場面が必ず出てくると思いますが、工夫やアレンジができる面白そうなお仕事に取り組むまでにはそういった土台となるものを作らなくてはいけないのは当然通るべき道なのだと思います。
またそう腹をくくると、思いっきり土をならして広く深く土台を作れば、あとのお楽しみが増えるということです。私ももう一度それを再確認して、これからも頑張っていこうと思っています。なんだかとても頑張れそうです。
武田美保たけだみほ
アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト
アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…
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