敵地クウェートで待ち構えていたのは、アジア特有の難しさでした。
6月23日に行なわれたロンドン五輪アジア2次予選の第2戦で、日本は1-2で敗れてしまいました。しかし、第1戦で3-1の勝利を飾っていた日本はトータルスコアで4-3と上回り、何とか3次予選(最終予選)へこぎつけることができたのです。
サッカーにおける”アジア”という枠組みは、その他のどこの地域よりも特殊です。時差が横たわり、異なる気候が入り組み、10時間以上の移動を必要とする。ヨーロッパ、南米、アフリカなどの予選で、これら三つの要素が揃うことはほぼありません。
日本で深夜1時45分にキックオフされたクウェートとのアウェイゲームは、現地時間の19時45分開始です。6時間の時差があるわけで、数日前なら眠りについている時間に、選手たちは真剣勝負を戦っていたのです。
私自身、90年代前半から10年以上にわたって、各年代の代表チームに携わってきました。東南アジア、東アジア、中央アジア、中東、アラブと、様々な国や地域でのアウェイゲームを経験しています。
そうした環境下では、「いつもと同じことはできない」という前提に立ってゲームを進めていくべきです。
パフォーマンスに影響を及ぼすのは、気候の違いや時差だけではありません。アウェイでは不利なジャッジを受けることもある。
ピッチコンディションも無視できません。芝生の種類や長さだけでなく、芝生の下の土の固さも国によって様々です。第2戦の舞台となったクウェートのスタジアムは、テレビの画面を通じても分かるほどにデコボコでした。
日本で行なわれる国際試合やJリーグのゲームのような、素晴らしいサッカーをイメージしてはいけない。頭のなかを切り替えることが必要です。ピッチやコンディションや自分自身のコンディションを考慮して、「いつもと同じことはできないなかで、どうしたら勝利を引き寄せられるか」を追求していくべきなのです。
選手たちは必死に戦っていました。気持ちは十分に伝わってきた。
ただ、アウェイでの第2戦について言えば、状況に応じたプレーの判断において、改善の余地があるように感じられました。
たとえば、後半開始直後に喫した同点ゴールのシーンです。
相手のシュートは見事でしたが、ゴール前でトラップをしている。ダイレクトのシュートではなかった。シュートコースを消す時間はあったのです。
相手より一秒でも早く、一歩でも前へボールに寄せる。1センチでも相手より足をのばす。本当にわずかなそうした違いが、国際試合では歓喜を呼び込んでくるのです。あるいは、取り返しのつかない失敗を招く。
アジア全土で一斉に2次予選が行なわれたこの日の結果を受けて、最終予選へ進出する12か国が出揃いました。日本にとっての朗報は、中国の敗退でしょう。
これまでの例にならえば、最終予選の組み合わせには前回大会の成績が反映されます。
4大会連続で五輪に出場している日本は第1シードになると思われがちですが、北京五輪には予選を勝ち抜いた日本、韓国、オーストラリアに加えて、中国が開催国として出場していた。そのなかで日本だけが、本大会で勝ち点をあげることができなかった。
最終予選は12か国を3つのグループに分けて争う。第1シードに割り当てられるのは3か国で、前回大会に出場した4か国が最終予選へ進出した場合、日本は第2シードへ転落する公算が強かったのです。それだけに、中国が敗退したことは大きなニュースと言えるでしょう。
第1シードになったとしても、もちろん油断はできません。カタール、イラク、UAE、バーレーン、シリア、サウジアラビアと、最終予選にも中東の強豪が進出してきました。クウェート以上に手強い相手が、日本を待ち構えているのです。
アジアの代表として世界の舞台を目指す以上、時差や気候の違いといったものは避けて通れません。問われるのは人間としての芯の強さです。
心身ともに疲労が蓄積する残り15分から、さらにパフォーマンスをあげることができるか。ミスが増えてくるその時間帯で、プレーの精度を落とさず、なおかつ相手のミスを突くことができるのか。勝負どころと言われる局面で力を発揮できる選手が、日本代表にまで登り詰めていくのです。
23歳で来年の五輪を迎えるこの世代の強化は、2014年のブラジル・ワールドカップに直結する。最終予選を勝ち抜くことで、心身ともにタフなプレーヤーへ成長していってほしいものです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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