アジア経済に占める日本の存在感が低下していることで、欧米の政府や企業などの日本への関心が薄れている、と言われてきました。あまりにも不安定な政権もまた、対外的な信用を失墜させているのでしょう。そうしたなかで、「ジャパン・パッシング」という言葉が無視できなくなってきていると感じます。
サッカー界においても、『ジャパン・パッシング』は現実として起こりつつあります。
かつて日本は、ヨーロッパのビッグクラブにとって魅力的なマーケットでした。シーズン開幕前の7月や8月には、毎年のように複数のクラブが来日したものです。知名度アップを目ざすキャンペーンとして、彼らは限られた時間のなかで日本を訪れたのでした。
それがどうでしょう。
今夏のプレシーズン、バルセロナ(スペイン)とマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)はアメリカツアーを敢行しました。昨季のヨーロッパナンバー1を争った両雄が、揃って同じ場所へ向かったのです。日本でもお馴染みのアーセナル、チェルシー、リバプールのイングランド・プレミアリーグ勢は、東南アジアに照準を定めました。「ジャパン・パッシング」どころか、「ジャパン・ナッシング」という状況です。
私は8月中旬にベトナムを訪れたのですが、当地でもイングランド・プレミアリーグのクラブに人気が集まっていました。現地法人に務める知人に聞くと、「マンチェスター・ユナイテッドが一番人気だ」とのことでした。
世界の人口はおよそ70億人と推定されています。そのうち、中国、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)で、ほぼ半分を占めると言われています。
これから人口が増えていく国も多い。ベトナムはおよそ8600万人の人口が、10年以内に1億人を越えると想定されている。それも、次代の担い手となる若い世代が増えていく。高齢化社会へ向かっている日本とは対照的です。国としての将来性を鑑みれば、どちらが魅力的なのかは言うまでもないでしょう。ヨーロッパのクラブが東南アジアへ目を向けていることには、そうした理由があるのです。
さて、Jリーグはどうしたら良いのでしょうか?
ヨーロッパのクラブが、再びやってくるのを待つのか。我々も積極的に海外へ目を向けていくべきでしょう。そのためのきっかけは、すでに用意されているのですから。
Jリーグには「アジア枠」という制度があります。これまで外国人選手は3人までしか試合に出場できませんでしたが、アジアサッカー連盟所属国と地域の選手に限って、もうひとりプラスできるというものです。アジア枠を活用しているクラブはありますが、韓国人選手とオーストラリア人選手が圧倒的なシェアを示している。2か国の選手が、ほぼ独占していると言っていい。その他の国の選手には、どのクラブも目を向けていません。
でも、たとえばベトナムの選手をアジア枠で獲得したら。
サッカーはベトナムのナショナルスポーツですから、現地では間違いなく大きなニュースになります。ユニホームやグッズの販売も期待できるでしょう。ユニホームに企業名を掲出しているスポンサーにとっても、大きなメリットになります。ユニホームが売れることで宣伝になれば、費用対効果も膨らむというものです。東南アジアが魅力的な市場となっているのは、日本企業にとっても同じですからね。
カタール人選手を獲得すれば、同国のテレビ局がJリーグの放映権獲得に動くかもしれない。身近な例をあげれば、本田圭佑選手がロシアのCSKAモスクワへ移籍したことで、同クラブのゲームを日本のCS放送で観ることができている。同じことを期待するのは、決して的外れではないでしょう。
Jリーグの認知度が高まれば、カタールの企業がスポンサーに名乗り出ることだってあるかもしれない。アジア枠を使うことによって、ビジネスチャンスが一気に向上するのです。商業的な視野を外しても、アジア枠の活用には意義があります。
アジア各国の選手をJリーグに招くことで、アジア全体のレベルアップに寄与することができる。日本サッカー界はワールドカップやオリンピックで結果を残すことを目標としていますが、我々の足元となるアジアを置き去りにしたままでは限界があります。アジア予選から厳しい戦いを繰り広げるようになれば、選手たちはそれだけ成長できる機会を得ることができるのです。
アジア枠というアドバルーンを打ち上げるだけでなく、制度に実効性を持たせる。これからのJリーグの成長戦略に、アジアは欠かせない市場となっているのです。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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