最近この演題にて、講演会の依頼を頂くことが増えてきた。体脂肪計や社員食堂で知名度を上げた株式会社タニタだが、創業者(祖父)や2代目(父)の事業承継が語られることはほとんどない。町工場だった会社が、世界初の商品を作り、売上世界一を達成した秘訣は、中小企業の経営者や後継者の方々のお役に立てる部分もあると思い、今回コラムを執筆することにした。私にとって事業承継は人生そのもの。多くの企業やファミリービジネスに関わる人にとっても、大きな可能性と問題を含んだキーワードだと思う。
結論から言えば、成功する事業承継のポイントは「強みの活用」にある。これがタニタ社の事業承継を見つめ、また関わった人達から話を聞き、更に心理学などを学んだ結論である。
この数年間、どのように体脂肪計を作り、なぜ社員食堂を作ったのか? こんな講演会のご依頼も多いのだが、現在企業研修や学校教育に関わる中で、そもそも成功した2代目(父)やその兄弟達をどのように祖父が教育したのかに興味が沸いてきた。つまり企業を成功させた2代目をどのように創業者が教育したのか?は、事業承継の大きなポイントと考えるようになった。祖父はすでに他界しており、その子供達(私から見れば叔父達)にインタビューをし、一番特徴的だったのが、「家族会議」の話であった。
当時の家族会議は、3ヶ月に1回、祖父の家で10年以上に亘って行われていた。今でも記憶にあるのだが、日曜日の朝、父は出かけていった。聞くと、参加者は、兄弟4人+祖父である。トピックは大きく2つ。
①各兄弟の強み・役割
②資産の承継
であった。この話を聞いて、父が経営者として、「強み」という言葉を使って体脂肪計を生み出し、また人と「強み」を意識して人と関わっていることが思い出された。そして、祖父が繰り返しそれを教育してきたのではないかと思うようになった。(ちなみに「家族会議」は欧米のファミリービジネスをやっている親族では一般的に行われていて、離婚した夫婦でさえこの会議には招集され、ファシリテーターの元でビジネスについての話し合いがされているという。祖父がその事を知っていたのか、どうかは分からないが効果的な取り組みだったと思う。)
少し話は変わるが、現在「強みの活用」が、企業や人の生産性を上げるというデータが出てきている。私が学び続けているポジティブ心理学にて、たくさんの研究がされ、「有能な経営者や上司は強みを重視し、チームの業績を上げる」ということが明らかにされている。ただ単に祖父がやっていて、父がその言葉を使うから、という理由だけでなく、科学がそれを証明しようとしている。私自身が事業承継や人に伝える際には、この実際にやられていたことと理論やデータが重なる部分を大切にして伝えている。実際に活用するためには、個人の体験を超えて実証されたワークなどが効果的だと考えているからだ。
「強みの活用」が企業の成功や事業承継の中で果たす役割は大きいと思うが、一方で、それを実際に活用している人は少ないように見える。それどころか、先代の経営者の強みを取り入れるべく、一生懸命になり、自分の強みを見失っている後継者も多いように見える。この強みについての研究や、実際にどのようなワークや研修をすると「強みを発見」できるのか、また機会があればお伝えできればと思う。みなさんの事業承継が幸せで豊かなものになることを心から願っている。
谷田昭吾たにだしょうご
ヘルスケアオンライン株式会社 代表取締役
体脂肪計で世界一となり、社員食堂でも話題になった株式会社タニタの創業ファミリー。同社の営業・新規事業・新会社立ち上げ、海外における役員経験を経て独立。株式会社タニタ前代表取締役社長の最も近くで、その経…
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