2019年4月21日、スリランカの最大都市コロンボを中心に発生した連続爆破テロ事件。実行犯として浮上した現地のイスラム過激派組織ナショナル・タウヒード・ジャマー。最高指導者は自らも自爆したザフラン・ハシム。
事件発生時、これほど大規模で計画的な犯行をスリランカ国内のローカル組織が実行に移したことに疑義をもちました。それは、スリランカでは人口の約7割が仏教徒、次いでヒンドゥー教徒、イスラム教徒やキリスト教徒はそれぞれ1割ほどの少数派であるからです。
スリランカでは1983年から仏教徒であるシンハラ人と北部を拠点とするヒンドゥー教徒のタミル人武装組織タミール・イーラム解放のトラ(LTTE)との内戦が約26年間続き多数の国民が犠牲となりました。さらに2004年12月に発生したスマトラ沖地震の津波によって広範囲に被害が拡大。イスラム教徒やキリスト教徒が関わる事件はほぼ皆無と言える状況が続いていました。
今回の連続テロ事件の背景には2014年6月に中東で誕生した過激派組織イスラム国の存在が確認されています。スリランカ国籍を持つ人物約30名がイスラム国入りを果たし、現地での戦闘訓練だけでなく過激思想を母国に持ち帰った足跡が報告されました。中東を拠点としていたイスラム国の過激思想は流動的に世界中に拡散し浸透してきています。特にアジア地域では現地の過激派組織とテロの連帯を組んだ武装闘争が拡大しており、スリランカの事件以前にはフィリピン南部ミンダナオ島でイスラム国に関わりを持つ過激派アブ・サヤフやマウテ・グループによる大規模戦闘、インドネシアのスラバヤではイスラム過激派ジャマー・アンシャルット・ダウラによるキリスト教会襲撃事件、バングラデシュでは武装組織ジャマトル・ムジャヒディーン・バングラデシュによる外国人殺害テロ事件が発生。
テロの拡大は戦闘員が世界中に分散するだけでなく、各々の国で過激思想に感化された人物が独自にテロを遂行する一匹狼型のテロが目立ち始めています。
過激派と深い繋がりのないはずだったスリランカでの事件は今後のテロの広がり方を示しました。誰しもがテロ事件のうねりを認識しておくことが問われてきています。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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