ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム スポーツ

2005年04月01日

ありがとう&夢のつづき

アテネ五輪から帰国して、あれよあれよと言う間に1週間。表彰式やオリンピック特別番組の出演、その他諸々で、泳いではいないものの毎日何かしら予定があり、試合での疲労は取れるどころか強化合宿中の追い込み時期並みの疲労が溜まっていく一方でした。

背中に何か背負ってるみたいに重~くてだるい、そんな体の疲労感を私はこう分析。「アテネで自分の限界に挑戦できた証だな」「やっぱり陸に弱いな」(笑)。分析結果はまんざら嘘ではありません。ここまで筋肉にダメージを感じたということは、やはり気力、体力ともに、全て出し切ったことの現れだったのだと思います。気持ちはとても清々しく、大仕事をやり終えた後の達成感がありました。

「本当の思い・本当の支え」
それから間もなく、「シンクロワールドグランプリ」という初のエキシビションマッチが開催されたのです。

体は全く動いてくれていませんでしたが、それでもその試合に向けての合宿に入り、トレーニングを再開しました。今だから正直にいいますが、この時、体はもちろんのこと精神的なものをくい止めるのが大変でした。

一度、大仕事が終わってしまってますから、なかなかすぐに「はい、もういっちょ」という風にはなれなかったのです。感謝の気持ちを込めた演技を、という言葉を先生とチームメンバーの中の合い言葉にして、奮い立たせていよいよ大会当日…。

私はこの大会で、選手としてだけでなく人として大切なものを多く学ばせてもらうことができました。「引退」はもう決めていました。心の中で。全てをやり尽くしたはずのその最後の最後に、人対人の真の一体感を得たのです。

その一体感とは、シンクロ関係者各位、大会関係者各位、友達、ファンの皆様、そして家族が今までどんな思いで私達を支えてきてくれていたのか。その本当の思いに気づいたことなのです。「改めて気づいた」のではなく、「本当の思いに気づいた」。これが、この表現が正しいように思いました。

「皆さんの支えがあってこそ、ここまでくることができました。」以前から繰り返すように、この言葉を発してきました。けして口先だけの気持ちではありません。本当に心がそう感じるから言っていました。ですが、このワールドグランプリで舞台に立ったとき、いつもと違う感覚があったのです。

観客から遠く離れているはずなのに、みんなのドキドキしながら見守る表情がはっきり見えました。声援も過去最高に鮮明に耳に飛び込んできました。緊張しているはずなのに自分の鼓動がやたらゆっくり感じられ、心臓が脈を打つ度、手足の指先まで血が通っていることが確認できました。それと同時に体の細胞が活性化されていくような…。

演技開始前にこれほど色々なことを感じたことはありません。感性の冴えはオリンピックを越えていました。緊張が程良い具合に取れていたからなのだと思いますが、みんなの思いがこんなにも大きくて温かくてすぐ近くにあるものだったのかと、私の全身を包んでくれる空気が教えてくれました。動くはずのない体が、見事に演技の最後まで飛び跳ねてくれました。

前の感覚と何が違うか。それは、応援して下さっている方々の持つ”温度”を、私も共有できたことです。これまでも、熱気は感じていました。そして、それが私の背中を後押ししてくれていたことも知っていました。でも競技生活の最後に、その熱気が実際にどんな温度で、みんながどんな表情で、どんな声で見守ってくれていたのかを、プールサイドにいる自分がまるですぐ近くにいるように体感できたこと、それに包まれながら泳いだこと、知っていたことのもう一つ深いところを知れたことが嬉しかったです。

そして、知ってから「ありがとう」という感謝の言葉をこれからもっと大切に使おうと思いました。何事も、本当の意味を知るのは難しい。時間がかかる。知ることで傷つくこともあるかもしれない。でも、本当を知ることは素晴らしいと私は思います。

この連載を通じて、私は日々の発見を喜びにして自己のモチベーションを保ってきたことを再認識しました。知ることも、イコール発見。ずっと、続けていこうと思います。

「私がここに生きていることを伝えたい」
私は、競技生活を終えました。でも、喪失感はありません。幼い頃からずっと続けてきたシンクロで、自己を見つめること、目標に向かって突き進むこと、お互いを感じ合うこと、感謝すること…様々なことを学びました。言葉を重ねますが、本当にこの経験は宝です。

私はこんな思いを、楽しさを、伝える表現者でありたいと新たな目標を持つことができました。表現の可能性は無限にあると思います。シンクロででも、話すことからでも、生き方からでも表現できる。大袈裟な言い方ですが、「私はここに生きていますっ!!」って発信し続けたいのです。

「これってエゴイストかな?」って、思ったこともありますが、力強く人生を歩みたいという願いはそれぞれ人なら思うもの。ですよね?自己満足や自己陶酔だけに終始すると本当にエゴで終わってしまいますが、私はこれから今まで以上に客観的に自分を見つめる目を養う勉強をし、人としてのバランスをとりながら、かつ、人間臭い人になりたいと思っています。

我ながらたくさん目標立てたなーと思いますが、今まさに取り組んでいるこの自己実現に向けての道は、楽しくてやり甲斐があってドキドキします。いいことばかりがあるわけではありませんが、何があっても培った前向きさで私は乗り切ります!発信し続けます!これからも頑張ります。どうぞ、よろしくお願いします。

皆様、ご拝読頂き有り難うございました。文章を書くこと。これも素敵な表現で、とても楽しい経験でした。ペルソンの皆様には、このような機会を与えて下さったこと心より感謝致しております。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。