低い失業率、輸出は過去最高
ギリシャなど欧州経済危機が続く中で、ドイツ経済の強さが目立っている。マクロ指標で最も分かりやすいのが失業率。EU(欧州連合)統計局がこのほど発表した昨年12月の各国失業率は、スペインが22.9%、若年層(25歳未満)では実に48.7%、ギリシャが19.2%、若年層では47.2%など、信じられないほどの高さに達しているが、対照的にドイツは5.5%、若年層でも7.8%という低さだ。しかも月ごとに低下している。
IMF(国際通貨基金)の推計によると、ドイツの2011年の実質GDP成長率は3.0%と比較的高い伸びとなった模様だ。2012年は0.3%増と、さすがに減速は避けられそうにないが、それでもユーロ圏の主要国では最も高い成長率となる見通しだ。
ドイツ経済の強さを代表するのが自動車産業。フォルクスワーゲン、BMW、ダイムラーの自動車大手3社は、昨年1年間の世界新車販売台数がそろって過去最高を記録した。世界の新車販売は回復傾向にあるが、中でもドイツ勢は元気で、フォルクスワーゲンはトヨタを抜いて初めて世界第2位に浮上した。自動車産業が牽引車となってドイツ全体の輸出も伸びている。2011年の輸出額は前年比11%増の1兆600ユーロとなり、過去最高を記録した。
ドイツがこのように好調なのは、(1)ユーロ統合とEU拡大によって域内向けの輸出が伸びた(2)欧州経済危機によるユーロ安でユーロ圏外向けにも輸出が伸びた――などが要因だ。もともとドイツは自動車や機械産業などを中心に経済力が強いが、EUとユーロ統合のメリットをうまく取り込んで、一段と強さを発揮している形だ。
政府の経済活性化策が背景に――法人税引き下げ、投資促進
だがそれだけではない。実はさらに重要な背景がある。ドイツ政府がここ10数年、国際競争力強化と経済活性化に積極的に取り組んできたことだ。その一つが法人税の引き下げ。ドイツの法人税率は2000年までは35-40%で、世界でもトップクラスの高さだったが、2004年に一律25%に引き下げ、さらに2008年には15%に引き下げた。これによって企業の税負担が一気に軽くなり、競争力が高まった。
法人税の引き下げは外国企業の国内立地の促進にも役立った。ドイツ政府は国内への投資を積極的に受け入れ、多くのグローバル企業が進出した。その一方で、ドイツ企業の国外投資も活発化し、こうした動きを通じてドイツ企業の競争力は強くなっていった。ドイツが欧州各国の中で最も好調なのは当たり前のようなイメージがあるが、その陰にはこうした政府の政策があったのだ。
さらにさかのぼると、1990年の東西ドイツ統一以来の経済活性化策がある。統一ドイツ政府は、経済発展の遅れていた旧東ドイツに集中的に援助し開発を進めた。その負担のため一時は経済が悪化したが、それを乗り越えて旧東ドイツの底上げを成し遂げ、ドイツ経済全体の足腰を強くすることにつながったのだった。
昨年末に欧州経済危機の取材でドイツを訪れた際、旧東ベルリンの地域を歩いたが、統一前の面影はほとんど残っていなかった。ビルや商店街などの街並みも道路事情も、旧西ベルリンと全く変わらない。ベルリンの壁崩壊のきっかけとなったブランデンブルグ門の前では、壁が撤去されたあとに整備された大通りを車が次々と行き交い、旧東ベルリン地域にある商店は多くの買い物客でにぎわっていた。今となっては当たり前の光景だが、それは膨大なコストを支払って、経済を立て直した結果なのだ。ある日本人駐在員は「これがドイツ人の底力。今のドイツ経済の強さの源泉もここにある」と語っていた。
日本に貴重な教訓――法人税引き下げなどで競争力を取り戻せ
ドイツがこのように強さを発揮していることは日本にとって貴重な教訓を与えてくれている。日本経済が低迷から脱するには、ドイツがとったような経済活性化策が必要なのだ。
例えば法人税。日本の法人税率は現在30%で、ドイツの2倍も高い。つまり日本企業はドイツ企業の2倍の法人税を払っていることになる。前述のようにドイツの法人税率は2000年までは35‐40%だったから、現在の日本以上に税率が高かったのだが、短期間で15%まで下げたのだ。企業は法人税の他に地方税も払っているので、それらを含めた税負担の割合を実効税率というが、それで比較してもドイツが約29%に対し日本が約41%。いかに日本企業の税負担が重いかが分かる。
実はグローバル化が進む中にあっては、法人の税負担は企業の国際競争力に大きく影響する。成長著しい中国の法人課税の実効税率は25%、韓国は24%、シンガポールは17%など、いずれも低い水準。これが新興国の経済成長を後押ししているのだ。逆に、日本の実効税率は世界でトップクラスの高さ。これでは日本企業の競争力はそがれてしまう。
日本では現在、消費税引き上げが最重要テーマになっているが、本来なら法人税引き下げこそ最重要なのである。膨大な財政赤字を抱えている現状では法人税引き下げなど非現実的に聞こえるかもしれないが、今のように企業の税負担が重いままでは経済の停滞が続くことになる。
日本企業は高い法人税に加えて、高い電力料金、円高、貿易自由化の遅れ、厳しい労働規制、温室効果ガス対策の「六重苦」にあえいでいる。このような負担を早急に軽減し、日本企業の競争力を強化することが何よりも必要だ。日本政府はドイツのように、経済活性化を国の政策の主軸に据えて、強い日本経済を取り戻すべきである。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
政治・経済|人気記事 TOP5
中小企業の生き残り戦略~鯖江の眼鏡業界の挑戦~
岡田晃のコラム 「今後の日本経済-岡田晃の視点」
コロナ感染の動向と日本
進藤勇治のコラム 「進藤勇治の産業・経済レポート最前線」
EUの厳しい環境規制
進藤勇治のコラム 「進藤勇治の産業・経済レポート最前線」
ウクライナ危機、出口が見えない
藤田正美のコラム 「今を読み、明日に備える」
インフレ
藤田正美のコラム 「今を読み、明日に備える」
講演・セミナーの
ご相談は無料です。
業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。