リーダーの資質が変わってきている、と感じます。スポーツの世界はもちろん、政治や経済、エンターテインメントの業界においても、リーダーやトップと呼ばれる人物像が変化してきている、と。
特徴的なのは、モチベーターとしての側面です。自身のカリスマ性や過去の名声で引っ張るのではなく、部下の気持ちをうまく刺激できる調整型のリーダーが求められているのです。
そこで、2月29日に行なわれたブラジル・ワールドカップのアジア3次予選です。アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本は、すでに最終予選進出を決めていました。ウズベキスタンを迎えた一戦は、第三者的に見れば消化試合という位置付けになるでしょう。
しかし、そうではない、のです。
消化試合にしては、いけなかったのです。
最終予選は10か国をふたつのグループに分け、ホーム&アウェイで開催されます。組み合わせは3月9日に行なわれますが、シード分けは同7日時点のFIFAランキングに基づきます。
2月発表のランキングで、日本はオーストラリアに次いでアジア2位でしたが、3位の韓国とはポイント差がほとんどありませんでした。ウズベキスタンに負けると、3位に転落してしまう恐れがあったのです。
2位なら第1シードで、3位は第2シードになります。オーストラリアと並ぶ第1シードなら、オーストラリア、韓国との対戦を避けることができたかもしれない。それだけで、最終予選突破の可能性は高まる。第1シードの資格を譲らないためにも、ウズベキスタン戦は勝たなければいけなかったのです。
私がコーチングスタッフに加わっていたら、選手が集合したその日のミーティングで、ウズベキスタン戦の位置付けを伝えます。こんな言葉をかけたでしょう。
「最終予選進出は決まっているけれど、この試合は決して消化試合じゃないぞ。アジアの上位2位をしっかりキープして、第1シードを確保するんだ。この試合は、最終予選突破への第一歩なんだ」と。
FIFAランキングを落とさないためにも、必死にやらなければいけないシチュエーションだったのです。
ああ、それなのに!
親善試合のような雰囲気を感じたのは、私だけではないでしょう。1点をリードされても、日本の攻撃にはまったくエンジンがかからない。いつか点は取れるという慢心のようなものさえ漂い、何がなんでも点を取るんだという闘志は、残念ながら見当たりませんでした。
気になったのは、ラスト15分の戦いぶりです。国際試合は終盤の得点が多く、この時間帯に自分たちでゲームを動かせるかどうかが大切になります。
ところが、アルベルト・ザッケローニ監督の采配を見ていると、膠着した局面を打開できていない。選手交代で流れを変えたり、戦い方を変えたり、といったことができていないのです。ウズベキスタン戦も、交代選手は投入したけれど、何となく逃げ切られてしまった。
ウズベキスタン戦には、海外クラブに所属する選手が8人もスタメンに名を連ねました。そのなかには、前日に帰国したばかりの選手も含まれていました。
海外のクラブで活躍するほどの選手ですから、ポテンシャルが高いのは間違いありません。ただ、準備期間の短さを考えると、彼らが”いつもどおり”なのかどうかは、実際に合流してみないと分かりません。
フィジカル的に問題はないか。メンタル的に疲弊していないか。いわゆる海外組の心身にわたるコンディションの見極めは、非常にデリケートで難しい作業です。監督を含めたコーチングスタッフの、力の見せどころでもあります。ずっとクラブで仕事をしてきたザッケローニ監督は、そのあたりがまだうまくできていないな、という印象があります。
ザッケローニ監督就任後の日本代表は、アジアカップで優勝したり、ホームで韓国に快勝したりと、分かりやすい成果を収めてきました。しかし、今回のようにぶっつけ本番的な真剣勝負では、実はまだ一度もいい試合をしたことがないのです。
前述の韓国戦は2日前の集合でしたが、交代選手が6人まで認められていた。選手はペース配分を考えずに、最初から飛ばしていけるんですね。公式戦とは明らかに違うわけです。
日本、ウズベキスタン、北朝鮮、タジキスタンの4か国で争われた3次予選で、日本は4か国最多の14ゴールをあげました。しかし、そのうち12点までがタジキスタン戦で記録されたものです。ウズベキスタンと北朝鮮からは、1点ずつしか取ることができていません。
アジア屈指と言ってもいい選手のクオリティを、ピッチ上にどうやって反映させていくのか。いくつもの課題を積み残したまま、日本は最終予選を迎えることになります。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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