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コラム 政治・経済

2012年04月10日

中国が変わらなければならない5つの理由

中国の政局がややざわついてきた。重慶市党委書記の薄煕来氏が解任されてから、こちらのネットでも「中南海で号砲が聞こえた」等々、いろんなデマまがいのニュースが微博(中国版ツイッター)に投稿され続けている。しかし、中国の重大事は政局だけではない。鄧小平氏が改革開放を告げてから30年余り、急激な経済成長と大国化への願望によって社会や経済の構造に根本的な歪がもたらされてしまった。本稿を始めるにあたり、まずそのことをご紹介したい。

今回は中国で起こっている特に重要な5つの構造変化を取り上げる。これらはすべて中国政府が”コントロールできないもの”になってしまっていることに注目すべきだ。現政権がもしこれらに何の対応もできないとしたら、中国という国家そのものの存続にも関係してくるし、それは翻って日本にも大きな影響をもたらすことになるだろう。

まず最初の2つは中国自身の構造変化だ。第1は「人口構造の変化」。少子高齢化に伴って中国も労働人口(15~59歳)の減少が始まる。当初2010年代半ばと言われていたが、昨年(2010年)すでに減少に転じたというデータもある。日本の例を挙げるまでもなく、一国の経済発展にとって労働人口減少は致命的になる。中国は高齢化のスピードも世界一だが製造業の割合がまだまだ高いだけに、労働人口の確保が経済成長に直結する。

第2は「新中産階級の出現」。中国はここ4~5年でいわゆる中産階級層の増加が著しい。特筆すべきはこの次世代消費者層は学歴が高いことだ。これまでの消費者層は大卒2~3%という時代のいわばたたき上げ富裕層だが、これからの消費牽引層の学歴は大卒が30%を超えている。だから製品の品質やサービスへのこだわりやブランドに対する考え方など、消費行動がこれまでと大きく変わるだろう。また食品の品質や社会の不公正には極めて敏感に反応するだろう。彼らはネットを活用して情報を収集したり世論を形成することも日常だ。次回以降に述べるが、実はこれは日本企業にとって、また中国で大きな事業機会の波がやってきたということにもなる。

次の3つは世界との関係性だ。第3は「グローバル経済との連動化」。世界のGDPに占める新興国の割合は次の10年で6割を越えて主力となり、中国はやがて米日欧に替わるリーダーになる。しかし今度のリーダーは、以前の先進7カ国のように少数の国の意図で経済ルールを決めることはできない。いくら中国が”社会主義市場経済”と言ってみたところでこれには理論的背景がない。中国は一生懸命世界経済のルールを変えようとしているが、現在のように為替レートや資本規制を続けていくことは早晩できなくなるのは自明の理だ。

第4は「資本輸出国化」だ。中国は近年、貿易黒字や為替レート維持による外貨準備高が急増したため、積極的な対外投資を始めた。その増え方は凄まじく、今後10年以内に中国は対内と対外の投資金額が逆転してしまう。つまり中国は「投資受入国」から「資本輸出国」へと変貌を遂げる。しかし現在でも中国の対外投資は、国家を背景とした資源投資や先端技術獲得のための買収に偏っており、企業が世界でビジネスをしていくための投資、いわゆるグローバル化に向けての投資になっていない。自国でやっている事業は政府の利権と結託したインサイダー的ビジネスが多い中国企業は、世界に出て行った途端に大きな壁にぶつかるだろう。

第5は「エネルギークライシス」。今や中国の経済成長は地球全体の資源制約や環境問題に直結している。単位GDPあたりのエネルギー消費量は、現在でも日本の4~5倍だと言われている。発展改革委員会の専門家は、中国が日本並みの省エネを実現しないともはや経済成長が持続しないと言っている。技術だけでなく社会の仕組みや管理方法を今すぐ世界最先端の日本並みにするというのはあり得ない。まもなく中国の産業活動の多くが休止に追い込まれる可能性がある。また「温室効果ガス」についても世界最大の排出国であるから、早晩削減義務を負わされるだろう。

いわゆる中国崩壊論やバブル崩壊論は、先進企業の発展段階の教訓から類推した”希望的観測”に過ぎない。強大な権力を有する中央政府は、政治的問題や国内問題については当分の間、何とかうまく処理していくだろう。しかしここにあげた5つの構造変化はすべて外部要因が絡んでいて自国だけでは対処できないものだ。中国で顕在化した産業構造、社会構造の転換の必要性は、国家の存続そのものに関わっている。そしてここにこそ我々日本のビジネスチャンスのヒントが隠されているのだ。

松野豊

松野豊

松野豊まつのひろし

日中産業研究院代表取締役

1955年大阪生まれ。京都大学大学院工学研究科衛生工学課程修了。株式会社野村総合研究所経営情報コンサルティング部長を経て、2002年に野村総研(上海)諮詢有限公司を設立し(野村グループで中国現地法人第…

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