北京オリンピックが間近に迫っている。同時に国内ではチベット暴動、四川大地震と動揺が続いている。今回は一連の騒動の発端となったチベットから見える教育事情、チベット族とウイグル族の学校を紹介したい。
チベットでは学校に校舎があり校庭があるということは稀である。授業を受ける場所はチベット仏教のお寺の中というのが当たり前となっていて、真っ赤な袈裟を着込んだ小坊主たちがバターで作られたろうそくを灯した境内で、年配のお坊さんの講義に耳を傾けていた。
授業内容は国語や算数といったなじみの教科に時間を費やすも、それ以上に力を入れていたのが道徳や倫理の授業であった。その内容は奥深い。一つの議題に対して中国の歴史の逸話を絡めて問答を繰り返すというもので、まさに大学の哲学の講義を髣髴とさせる。小坊主たちは決して黙って座り込んでいるだけでなく、積極的に質問をぶつけていた。
傍から見ていると大騒ぎしながら中国の昔話を聞いているといった感じだが、その内容は風刺に富んでいて、実生活に直結するものばかりである。中国4000年の歴史の教訓が生かされたダイナミックな授業が毎日行われていた。授業が終わると寺の境内で空気の抜けたバスケットボールを使ってサッカーを楽しんでいた。
チベットは標高が約4000m地点にあり、ちょうど富士山の頂上で生活しているようなものである。空気が薄く高山病にかかりやすい環境の中で、子供たちは元気一杯に走り回っていた。
中国ウイグル自治区の小学校はお寺ではなく、草原での青空教室で授業を行っていた。この地域はシルクロードの真ん中に位置し、中国国内でありながらも市民は金髪で青い目を持つアラブやペルシャの種族の血を受け継いだ人々が住んでいて公用語もウイグル語という中国語とは全く別な言葉を話している。隣の国にはパキスタン、アフガニスタンが面していて、学校では外国語教育に力を入れていた。青空教室だけあって授業が終わるとそのまま草原で両親の農作業や牧畜を手伝うというのも遊牧民ならではの環境であった。
ウイグルでは子供たちの教育は大切だがそれ以上に家族を養っていくための農業と遊牧をいかに手伝うことができるかが重要視されていた。それゆえに子供たちは学校での授業を受けながらも、ラクダを乗りこなす力を身につけることが優先されていた。実際、私がタクラマカン砂漠をラクダで越えるときのラクダの綱とりは13歳の子供であった。
少年は言う「5歳のときから父親とラクダを連れて砂漠を旅してきた。ラクダを操ることはラクダと言葉を交わすことだよ。ラクダの目と尻尾の動きだけでも何をしたいのか分るようになった。ラクダは友達だよ。」
制服を着てカバンを持ち教科書を携えて通学できる環境は中国内陸部ではまだ少ない。チベットやウイグルの子供たちに「日本という国の名前は知ってる?」と聞くと「聞いたことはあるがそれが地図上でどこにあるのかは知らない」という。パスポートを持っている人は限りなくゼロに近く、もちろん外国に行ったことがある人はほとんどいない。
チベットの生徒たちとウイグルの生徒たちに共通していたのは、学校教育が直に生活の基盤と繋がっていたこと、そしてお坊さんや遊牧民の先生の話は歴史から今を生きる教訓を語りかけていることであった。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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