1997年制作の映画『タイタニック』。この悲劇の豪華客船の多くが、レオナルド・ディカプリオの演じた青年のように決して裕福とはいえない人々でした。船が座礁し、沈没が決定的だとわかった時、その人々がどのような扱いを受けたかご存知でしょうか?そして私は、現在の日本人がこのタイタニック号の悲劇に見舞われた人々に、姿を重ねて見ずにはいられません。
それはなぜか?日本は1968年今日までGNP世界第2位の座に君臨し続ける経済大国です。しかしながら、最近まで世界一だった太陽光、風力、燃料電池の技術が、今やドイツなどヨーロッパの先進各国に追い抜かれてしまいました。
日本以外の先進国では、これらを国家のエネルギー政策の中心に据え、予算をかけ、90年代初頭から育成してきたのです。日進月歩の技術革新により、新エネルギーは今や、各国の一大産業となっています。また各国でCO2削減目標の引き上げ競争が起き、今後活発化するCO2排出権取引は、ビッグビジネスとして急成長が見込まれています。
地球環境破壊という、人間活動が原因であるからこそ避けられない重大な”困りごと”を解決する手段をビジネスにすれば、多くの分野の企業が参入できて確実に利益を得られ、結果的に国の経済を成長させることができると知っていたからです。それなのに日本は、せっかく高い技術を持ちながら、
これをビジネスとして生かしきれていないため、経済成長のチャンスをみすみす逃しているのです。
タイタニックの話に戻りますが、沈没が避けられないと判明した時、船長室で会議が行われました。
一等客室に宿泊をしていた富裕階級の人々にはその事実が伝えられ、数少ない救命ボートに優先的に乗せられたのに対し、それ以外の貧しい人々は、最後まで事実を知らされず、あまつさえ、混乱を避けるために客室から出られないよう、鍵をかけてしまったという説さえあります。
タイタニック号の進路上に氷山があるから、回避するようにと何度も警告無線が送られていたのに、
これを無視し続けた結果の大惨事でした。タイタニック号が氷山に接触したのはたった10秒ほどだけ。乗客は一瞬の揺れを感じた程度でした。しかし、この瞬間に、その運命は決まっていたのです。
正しい情報を知らないということは恐ろしいことです。
さて経済大国である”日本丸”に乗船している現在の私達は、”絶対に沈没しない船”の中にいるのでしょうか?今、どこをどんな状態で航海しているのか、理解できていると言って大丈夫でしょうか?いったい前述した他の先進国状況を把握している日本人がどれだけいるでしょうか。
日本は、7月に迫った洞爺湖サミットに向け、先日ようやく2013年以降2030年までのCO2削減率目標値を60~80%にすることが決まったばかりです。しかし、とりあえず目標を掲げただけで、実現の具体策は明確ではないのです。
現状の危機を回避できるかどうかは真実の情報を掴み、具体策を見出すことで、いかに方向転換できるかどうかにかかっています。何も知らず海の中に沈みゆかないために、まずは情報を探し出すこと。
企業が方向転換することが、政府の方針に変化を促します。日本が変わり、その力を生かすことで地球を救うことができます。私達は今、最大のピンチであり、最高のチャンスの時を航海しているのです。
村田佳壽子むらたかずこ
環境ジャーナリスト
桜美林大学大学院修士課程修了。元文化放送専属アナウンサー。1989年環境ジャーナリストの活動開始。現在、明治大学環境法センター客員研究員、ISO14000認証登録判定委員、環境アセスメント学会評議員、…
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