男子サッカーが28年ぶりに五輪出場を勝ち取った1996年のアトランタ大会に、私はコーチとして参加しました。女子サッカーが五輪種目となったのも、同じく96年大会です。
20年前の当時を振り返れば、男女揃って表彰台を狙うことのできた今回は素晴らしい進歩と言うことができます。日本選手団は史上最多のメダルを獲得しましたが、サッカー競技も成功を収めることができました。 女子サッカーの銀メダル獲得は、継続性の勝利です。
佐々木則夫監督が指揮をとるのは2大会連続で、彼だけでなくスタッフも五輪を経験している。4位に終わった北京大会を受けて、表彰台へ上がるためには何をすればいいのかを、逆算して考えることができていたのでしょう。
アメリカとの決勝戦は、内容的にも見応えのあるものでした。残念だったのは、失点の時間帯です。前半と後半の立ち上がりに1点ずつを失ってしまったわけですが、この時間帯は日本にとって〈魔〉の時間帯です。
身体が大きく筋肉量の多いアメリカの選手は、日本人に比べて爆発力がある。サッカーのキックオフ直後というのは100メートル走を繰り返すようなもので、この時間帯はどうしても身体能力の差が出てしまう。時間の経過とともに身体が温まってくれば、日本の選手もスピードやパワーを発揮できるのですが、そこに至るまでには少し時間がかかる。10分ないしは15分ほどです。
なでしこジャパンも懸命にボールをまわして、相手のスピードやパワーによく対応しようとしていました。しかし、本格的にエンジンがかかる前にやられてしまった。集中はしていたけれど、すでにトップギアへシフトしているアメリカの勢いを止めることはできなかった、というわけです。
男子サッカーは、二人のオーバーエイジがチームを劇的に変えました。吉田麻也と徳永悠平です。彼らふたりが最終ラインに加わったことで、守備の安定感は格段に増しました。
とりわけ吉田は、このチームに足りなかった高さをもたらし、ボールの落ち着きどころにもなっていた。苦しい場面では吉田にボールを預けて、彼から攻撃を展開することができていたのです。
個人的に残念だったのは、準決勝の失点シーンですね。メキシコに許した決勝点は、GK権田修一がMF扇原貴宏へつなげたボールを、自陣で奪われたことがきっかけになりました。
権田の判断を責めるつもりも、扇原が軽率だったと言うつもりもありません。メキシコの抜け目のなさを褒めるべきですが、扇原の周りには何人もの味方選手がいました。
「敵がきてるぞ!」とか「危ない!」といった声をかければ、扇原はボールを失わなかったかもしれません。周りの選手が危険を察知していれば、扇原をサポートすることもできたはず。つまり、あの瞬間の日本は、集中力が切れた状態だったのです。
五輪の準決勝ぐらいのレベルになると、本当に些細なミスが失点に直結する。勝敗を分ける。「一瞬のスキを突かれた」と言われるようなシーンですが、それこそがタイトルをかけた戦いの厳しさなのです。
ただ、グループステージで敗退していたら、あの「厳しさ」を体感することはできません。準決勝まで勝ち上がったから、一瞬のスキに泣くという経験を積めたのです。メダルには手が届きませんでしたが、最大数の6試合を消化したことは、大きな財産になるでしょう。
1試合目と6試合目では、できること、できないことがまったく違います。身体がキレない。反応が遅くなる。いつもの一歩が出ない。自分だけでなくチームメイトも、できることが少なくなっていく。自分に何が足りないのかを、選手たちは身をもって感じ取ることができたでしょう。メダルは獲得できなくても、成長への糧は身体に刻まれました。
それにしても、韓国は割り切った戦いをしてきましたね。
ホン・ミョンボ監督は、ブラジルとの準決勝で得点源のパク・チュヨンを先発から外しました。ブラジルに勝つには、擦り切れるほど動き回らなければならない。そして、すべての力を振り絞ったとしても、勝てる保証はない。むしろ可能性は低い。
実際に前半は0対1で終わり、後半60分過ぎでスコアは0対3まで拡がっていました。パク・チュヨンは70分過ぎに登場しましたが、これは逆転を狙った起用というより、3位決定戦への足ならしだったと私は理解しています。
果たして、疲労の少ないパク・チュヨンは日本相手に先制ゴールをあげ、勝利を引き寄せる原動力となりました。韓国にとっての日本戦がどれほど大きな意味を持つのかを、改めて知らされた気がしました。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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