「いくら言っても、なかなか変わってくれない」、「さんざん教えているのに、いっこうに成長しない」というのは、上司がよく口にする愚痴です。振り返れば私も昔、部下に対してそのように思っていたことがあります。しかしよく考えてみれば、言うたびに部下が変わっていく、教えたら次々それが出来るようになる、といったことがあるでしょうか。仕事と学校の勉強は違います。上司が期待した通りに、右肩上がりに能力を向上させ続けている人など、私はお目にかかったことがありません。
プロスポーツの世界では、期待されて入ったけれども何年も芽が出ず、引退がささやかれるようになった年、急に人が変わったように成績が伸びる例や、全く期待も注目もされずにいた選手が、急激に成長してエース的存在になるような例がたくさんあります。これは会社においても同じで、現在のトップや幹部が、若い頃からその将来を嘱望されてきた人たちかというと、実はそうでもありません。若い頃はうだつが上がらなかった社員が、20年、30年という時間の中で様々な仕事や人と出会い、その偶然をきっかけに成長し、はたからみると予想外の人が台頭してくるというケースのほうが多いはずです。
実務だって似たようなもので、営業経験や商品知識を積み重ねればそれに比例して営業力が伸びる、というわけではありません。努力しているのに成果が出ない、伸び悩む期間があり、それでも続けていたら、何かのきっかけで経験が体系化され、コツをつかんで成績が上がり始める。比較的単純な作業においては、ある程度まで経験や訓練と比例するように効率が向上しますが、これもどこかで限界が訪れます。それ以上の効率向上は、本人が新しい視点や技術を獲得するなど、それまでと異なる、独自の仕事のやり方を習得するまで実現することはありません。
ある人が、”変化”という言葉について、こんな話をしていました。
「誰しも、いきなり化けることはできない。でも、ちょっとずつ変わることが大切だ。ちょっとずつでも変わるということを続けていると、化けるときがいつか来る。”変化”という漢字は、そのように読むとよい。変・変・変・化だ。人は、停滞期と成長期を繰り返しながら成長するものである。だから、周りも自分も、成長する時期が来るまで待たねばならない。また、大きく化ける時期は人によって違うし、化ける程度も人それぞれ。だから、その人の過去や現在を見て、見切ったり、妙な予想をしたりすべきではない」。
「いくら言っても、なかなか変わってくれない。」「さんざん教えているのに、いっこうに成長しない」と愚痴りたくなる上司の気持ちは、とてもよく分ります。しかし、機械の良・不良を見分けるように、人は簡単に評価できませんし、機械の不具合を修理で直すように、人はすぐに、思い通りに動くようにはなりません。全てに短期的な成果が求められる時代ではありますが、そろそろ人材育成に限っては基本的には不可能だと悟ってください。上司が、伸び悩む部下に対して抱くべき思いは「もう少ししたら、成長期に入るはず」という期待であり、かけるべき言葉は、「停滞期は誰にでもある。もうすぐ大きく成長できる時期が来るから、今は辛抱強く頑張ろう」ということではないでしょうか。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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