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コラム 環境・科学

2012年10月15日

即効性がある太陽光発電

■電力ピークカットの強力な武器

今年は十分に暑い夏でしたが、事前に政府や電力会社が脅かしていたような深刻な電力不足にはなりませんでした。
とは言え、最近は過去になかったような異常気象が起きる事が珍しくありませんから、今後、これまで以上に暑い夏がやって来るかもしれません。
また、電力ピーク時に使われる揚水発電は電気を使って汲み上げた水で発電するため、効率が悪いですから、極力使用量を減らしたい所です。

そこで、ピークカットの強力な武器になる再生可能エネルギーが太陽光発電です。陽射しが強く、冷房需要が高まる時に発電量が増えますから、消費電力の増加分を吸収する働きをして、全体としては電力の安定化に役立つのです。

その証拠に、太陽光発電の普及が進んでいるドイツでの1時間ごとの発電手段の内訳が分かるWebサイトを見ると、猛暑だった今年8月20日の発電出力の推移を見ても、石油や石炭、ガスなどの従来型発電所による出力は、昼間だからといって特別に増やす必要はなく、かえって午前10時頃から午後4時頃まで出力は減っているのです。
それは、昼間のピーク時に太陽光発電による発電が増えているからで、例えば、この日の午後1時には、1798万kWを太陽光で発電していますが、これは、この時間の全体の発電出力の14%に相当します。ちなみにこの割合は、消費電力量がそれほど多くない初夏だと、50%近くになることもあります。

脱原発について議論する時、停電の危険性が指摘されますが、太陽光発電の普及に力を入れれば、おそらく数年でその心配はほとんどなくなるでしょう。
そういう意味では、脱原発に10年も20年もかけなくても、数年で原発を稼働しなくても電力ピークへの不安をなくす事は十分可能と言えます。
特に日本の場合は、節電の取り組みが進んだ事もあり、猛暑だった今年でも、電力会社間で電力の融通をすれば、原発を稼働しなくても電力は足りる事が分かりましたから、無理なく、短期間で脱原発をする事はできると言えます。

ドイツの場合、主に二酸化炭素排出量を減らすため、多少電気代が上がる事も覚悟の上で、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの普及に長年力を入れて来ています。
そのおかげで、ドイツでの太陽光発電の設備容量は、大型原発や火力発電所26基分に相当する2600万kWに達しています。

日本では、これまで原発にこだわるあまり、再生可能エネルギーに対しては腰が引けた取り組み姿勢で、周回遅れの感はありますが、ようやく再生可能エネルギーによる電気を買い取る制度が本格的にはじまりました。
早くも、「電気代が高くなる」「電力供給が不安定になる」といった声がでていますが、遅れを取り戻し、電力ピークへの不安を解消するためにも、当面は十分に事業として成り立ち、個人の場合でも採算が取りやすい買取価格を維持すべきだと思います。

■蓄電より電力供給を

ただ、私が気になっているのは、太陽光発電で作った電気を蓄電池に貯めて、日が沈んだ夜に使おうという宣伝を良く見ることです。
確かにそうすれば電力会社からの電気を買う量が減りますし、停電時でもある程度の電気を使えるようにはなるでしょう。

しかし、それでは電気が必要な昼間に電気を供給しないという事になりますから、太陽光発電の最大の強みである、電力ピークカット能力が十分に活かせず、もったいないと思います。
また、蓄電池は非常に高価で、寿命に不安もあります。しかも、蓄電池を設置すると、上記とは逆に、安い深夜電力で蓄電し、昼間に使う電気を蓄電池でまかなうことで、太陽光発電による電気のほとんどを電力会社に売るという、実質的に全量買い取りのような運用も可能なことから、電力会社が太陽光発電による電気を買い取る価格が、通常の1kWhあたり42円から34円に引き下げられてしまいます。

これでは、蓄電池の寿命が尽きるまでに元をとるのは困難だと思われます。コストの事を考えても、社会的な貢献を考えても、太陽光発電で作った電気は、できるだけそのまま売った方が良いと思います。

富永秀一

富永秀一

富永秀一とみながしゅういち

環境ジャーナリスト

私はアナウンサー時代から、環境に関する番組を制作してきました。現在は“無理なく続けられるエコライフ”をメインテーマに、テレビ番組制作、ネット放送、書籍・記事執筆等により情報発信中です。講演では、環境・…

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