今回で、「講師の心」における連載コラムが100回目を迎えます。こちらで連載コラムの掲載をスタートしたその当時は、私自身、まだアメリカから全面帰国して間もない頃でした。
長年の海外生活にピリオドを打ち帰国した私が目にした「日本における変化の一つ」は、「日本社会における『縦社会構造』(vertical social structure)の崩壊」でした。2012年を迎えた現在、S.N.S.(social networking service)やブログ等の活用で、人々は、不特定多数の”実際には会ったことのない相手”とインターネット上で簡単にやり取りができるようになりました。S.N.S.やブログは、コミュニケーション・ツールとしては便利と言えば便利には違いないでしょう。しかし一方で、この現象は、人間社会における「本来の、”古き良き”人との付き合い方」を大崩壊させる役割も果たしました。
本稿においては、「コミュニケーションの基本・根本」について再考する目的で、今、改めて、「本来の、”古き良き”人との付き合い方」を(A)、「現在における人との付き合い方」を(B)として比較してみたいと思います。
(A)本来の、”古き良き”人との付き合い方の具体例(1995年頃のもの)
(1) 年齢が上、あるいは社会経験が豊富な人に対しては、
相手に対してそれ相応の敬意を払い、
常識、且つ、節度あるコミュニケーションを図っていた。
(2) 年賀状、クリスマス・カード、暑中お見舞いなど、
大切な人に対して手書きで、心を込めた挨拶状を出した。
(3) 「大切な用件は実際に相手に会って、あるいは電話で話す」を
コミュニケーションの基本とした。
(4) 人と待ち合わせをし、約束の時間に遅れそうになった際は、
駅で電車から降りたら即、約束の場所まで
“急ぎ足”で歩いた(時には走った)。
(5) 良い友達を作るには「心を込めて丁寧に人と接する」ことが
何よりも大切であると考えられていた。
(A)における5つの考え方は、本来、伝統的に日本人が備えていた「コミュニケーションの基本・根本」であったと思います。ところが、21世紀に入り、インターネットやメールが急速に人々の生活を支配するようになると、(A)における5つの具体例は以下(B)のように変わりました。
B:現在における人との付き合い方の具体例(2012年現在のもの)
(1) S.N.Sやブログ等を活用すれば、年齢・職業に関係なく
不特定多数の人々と交流が図れるので、
どのような相手に対しても「友達感覚」で接するようになった
(”縦社会構造”の崩壊)。
(2) 挨拶状を送る際は、手書きのカードや手紙ではなく、
メールで簡単に送る。(手書きが面倒なこととされるようになった)
(3) 伝えたい用件、あるいは大切な用件があれば、
相手にメールで伝える(電話するのは億劫(面倒)である)。
(4) 約束の時間に遅れる場合は、遅れる旨をメールで知らせれば
特に急ぐ必要がなくなった。
(5) 新しい友達が欲しければ、S.N.Sやブログ等で
実に”簡単に”作れるようになった。
以上の5つの具体例について、AとBを比較したとき、私自身、”身震い”するほどの恐怖を感じます。上記の比較から、実に短期間の間に、日々の生活におけるコミュニケーションについての考え方・捉え方が急激に変わったことがわかります。
AとBを比較して、一体どちらのほうが私たち人間にとってより幸せな生き方なのか、このことは、個人個人によって考え方・捉え方も違うでしょう。そうした中、私たちは、今再び、コミュニケーションにおける根本問題、即ち、(1)「コミュニケーションとは一体何のためにあるのか」、(2)「本当の意味での『心あるコミュニケーション』とはどのようなものを指すのか」について再考する時期に来ているのではないでしょうか。
言うまでもなく、「道具」(tool)は、あくまで”道具”でしかありません。もしかしたら、私たちは、道具に支配され、そして、道具の”利便性”に惑わされ、「真に大切にするべきこと」の面前で”盲目”の状態となっているではないでしょうか。読者の皆さん、今回は是非、私と一緒に、再度、「コミュニケーションの基本・根本」について深い思索を試みていただきたいと願っています。
生井利幸なまいとしゆき
生井利幸事務所代表
「ビジネス力」は、決して仕事における業務処理能力のみを指すわけではありません。ビジネス力は、”自己表現力”であり、”人間関係力”そのものです。いい結果を出すビジネスパーソンになるためには、「自分自身を…
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