ゲームの解説をする立場の人間からすると、今シーズンのJ1リーグはかなり悩ましいものがありました。サンフレッチェ広島の優勝と、ベガルタ仙台の2位を予想した人は、ほとんどいなかったのではないかと思います。同じように、ガンバ大阪のJ2降格を予想できた人も、いなかったのではないでしょうか。
Jリーグのクラブのチーム作りは、ふたつに大別することができます。
最初のひとつは、他クラブから選手を補強していく方法です。
J1リーグでは、名古屋グランパスや浦和レッズなどが、毎シーズンのようにビッグネームを獲得しています。終わったばかりの今シーズンであれば、ヴィッセル神戸も即戦力を補強しました。それなりの資金力が必要になりますので、補強中心のチーム作りは一定水準以上の予算を確保できるクラブに限られます。
もうひとつは、自分たちで育てた選手をチームの中心に据えていく方法です。
J1リーグ初制覇を成し遂げたサンフレッチェ広島は、この”育成型”として知られるクラブです。シーズン最終節に出場したメンバーで言えば、森脇良太、森﨑和幸・浩司、高萩洋次郎の4人が、クラブの下部組織から育ったプレーヤーです。また、サンフレッチェ広島でプロとなり、そのまま主力へ成長していった選手も少なくありません。
他クラブからの補強はもちろんしていますが、チーム作りの軸足は育成にあります。現在は浦和レッズでプレーする槙野智幸、柏木陽介といった日本代表クラスのプレーヤーも、サンフレッチェ広島の下部組織出身です。
U-16やU-19などの若年層の代表チームには、継続的に選手を送り込んでいます。広島のような育成型のクラブの成功は、「高いお金を払って選手を獲得しなくても、チャンピオンになることができるんだ」というモデルケースです。他チームにとっては、大きな刺激となるでしょう。同時に、これからプロを目ざす地元の子どもたちにとっても、大きな励みになるはずです。
チームを率いたのは、就任1年目の森保一(もりやす はじめ)監督でした。日本人監督がクラブを優勝へ導いたのは、2005年の西野朗さん以来7シーズンぶりとなります。
”ドーハの悲劇”を現役の日本代表として経験した森保監督は、今シーズンが初めての監督就任でした。指導者としては若い44歳の彼が優勝監督になったことで、日本人監督の評価が見直されるきっかけになれば嬉しいですね。
J2降格の憂き目にあったガンバ大阪は、昨シーズンまで優勝争いの常連だったクラブです。”西の雄”とも呼ばれてきましたが、2012年は開幕前からドタバタ続きでした。
10シーズンにわたってチームを指揮した西野朗さんと契約を更新せず、今シーズンはブラジル人のセホーン監督を迎えました。ヘッドコーチには元日本代表の呂比須ワグナー氏が就任しましたが、ここにひとつ目の躓きがありました。クラブ側は呂比須氏を監督にするつもりでしたが、監督就任に必要なライセンスに問題があり、『セホーン監督、呂比須ヘッド』という態勢に着地したのです。
新監督のもとでチームは序盤から出遅れ、3月には早くも監督交代となりました。この時点で、リーグ戦はまだ30試合以上も残っていました。巻き返しは十分に可能です。
ところが、ガンバ大阪はなかなか浮上してきませんでした。降格圏内から一時的に抜け出すことはあっても、中位に顔を出すことはありませんでした。
原因は複合的なものでしょう。何かひとつをあげるとすれば、私は「何とかなるんじゃないか」という精神的な甘さを指摘します。
ガンバは遠藤保仁と今野泰幸というふたりの日本代表を擁し、代表経験者もズラリと揃っています。個々のポテンシャルは高く、実際に彼らはリーグ最高得点を記録しました。
それゆえに、「まだ大丈夫だろう」とか「まだ何とかなるだろう」という気持ちを、ズルズルと引きずっていった気がします。そうしたメンタリティが、1対1の競り合いでの甘さ──彼ら自身は甘さと感じなかったかもしれませんが、より早く、より強く、より遠くといった気持ちは、対戦相手のほうが確実に強かったでしょう。それによって、対戦相手に付け入るスキを与えてしまったという印象があります。
何が起こるか分からないのがサッカーですが、それにしても、今シーズンは予想もつかない出来事の連続でした。天皇杯でも、一発勝負ならではのサプライズがあるかもしれません。
山本昌邦やまもとまさくに
NHKサッカー解説者
1995年のワールドユース日本代表コーチ就任以降10数年に渡って、日本代表の各世代の監督およびコーチを歴任し、名実ともに日本のサッカー界を牽引してきた山本氏。山本氏の指導のもと、成長をとげた選手達は軒…
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