成人式を控えた週末の表参道の美容室。私の後ろに、個室を予約してやってきたのは、巻髪にエルメスのケリーバッグが似合うコンサバなマダムと、娘らしき?二人の女のコ達。私が目を疑ったのは、二人の女のコ達がその美容室とまったく違和感のあるアニメ系のコスプレファッションで、どうみても不自然なウィッグをかぶっていたこと。さらに耳を疑ったのは「ママ、お迎えの車、何時に来るの?」というお嬢様発言でした。
少し前までこのサロンで見かけた仲良し親子は、ママと娘がお友達同士に見えるようなファッションで、シャネルのツィードのジャケットとチェーンバッグは貸し借りしていますとか、あるいはLAカジュアルが好きで、一緒に渋谷の109や新宿ルミネで買い物できるのが自慢といった「似たもの親子」でした。
それが今日、遭遇した親子にはファッションにもヘア・メークにも共通の価値観を示すものは一点も無く、母親は女性誌のプレシャスを手に取り、娘達はレセプションの女性に目も合わせず、スマホでゲームをしながら個室に消えて行ったのです。
帰りがけとはいえ、この新しいタイプの親子が気になってサロンスタッフに「よく来られる方?」とたずねてみると、麻布にお住まいの富裕層のお客様で、お嬢さんは二人とも留学経験もあって女子大に通っているとのことですが、来店している三時間にゲームとブログチェックで一言も母親と話をしていないとか…。
ちょっと前ならセレブリティと呼ばれる家庭で、若いうちからブランドを着こなす「お嬢様」と呼ばれた人達が、趣味はゲームでウィッグまでコーディネートしてコスプレを楽しむ「オタク」になっているということです。数年前までオタクと思われていた人は、一般とは違う価値観や風土、環境を持っている人だったものが、ある意味、真逆の存在であるセレブにもオタクが出現してきた、オタクのメジャー化ということも言えるのではないでしょうか。
年始に25年ぶりに再会したヴァイオリニストとして活躍する友人に、16歳になった娘の写真を見せてもらうと、そこには神戸のお嬢さんとして生まれたはずの女の子が迫力のゴスロリ系に変身していました。友人は「年末は一緒にオタクイベントに行ってきた」と話してくれましたが、それが唯一の会話の接点だとも言っていました。
2組の母娘の例を見ていると、専業主婦のゴージャスマダムも、音楽一家の一員として決められた将来の中でポジションを見つけた友人も、娘達にとっては憧れの存在ではないのかもしれません。そのライフスタイルがいいと思っていたら、ファッションもメークも母親に影響されていくと思うからです。
アニメ系、萌系、ゴスロリ系、コスプレにはまるオタクな彼女達は、身近に素敵と思える大人がいないから、いつまでも子供でいたいと願っているのかもしれません。
中村浩子なかむらひろこ
株式会社ヴィーナスプロジェクト 代表取締役社長
大学在学中より、光文社「JJ」において、ファッション・ライフスタイル担当の特派記者となる。その後、小学館「CanCam」を経て、光文社「VERY」、「姉VERY」、「STORY」の創刊記者を務める。オ…
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