ギリシャで「墨絵教室」~日本文化への関心は予想以上~
今、海外で日本文化に対する関心が高まっている。アニメでの日本ブームはたびたびメディアで取り上げられているが、アニメに限らず、伝統芸能や日本食など、日本の良さや優れた分野に対して、高い評価が寄せられている。
昨年12月に欧州経済の取材でギリシャを訪れた際、アテネで「墨絵」を教えているギリシャ人に出会った。数人の若い女性に毎週1~2時間ほど、筆の使い方や簡単な絵の描き方などの手ほどきをする程度の初歩的な内容だが、日本人でさえ「墨絵」を描いたことのある人は少ないだろうに、ギリシャでそういうことに興味を持っている人がいることに驚いた。彼は日本人の私に向かって、日本文化がいかにすばらしいかを滔々と語り、話が止まらない。「墨絵はその代表的なものだ」と絶賛し、生徒たちも「墨絵の筆を取っていると心が落ち着く」「日本に一度行ってみたい」と口々に語っていた。日本への関心が予想以上に広がっていることを実感した。
我々日本人自身がもっと日本文化の良さを再認識し、さらに広げていくことが、経済再生にもつながるのではないだろうか。そんなことを考えながら欧州取材と前後して、伝統工芸品の海外販路拡大を支援する新たな試みを取材する機会があった。
全国の伝統工芸品の海外販路拡大を支援~日本ユニシスが新たな試み~
これもまた意外な組み合わせで、コンピューター大手の日本ユニシスが日本全国の伝統工芸品の紹介・販売サイトを立ち上げたのだ。jcrafts.comと名づけたそのサイトは、契約した全国の伝統工芸品や地域産品約4300品目についての情報を掲載し、品目ごとに詳しく紹介するとともに、サイト上で注文から購入・決済、アフターサービスまですべてが出来るシステム。同サイトに注文が入ったら産地に発注し、依頼者に配送する。配送先は海外・国内を問わず、もちろん単品でも受け付ける。
多くの伝統工芸品の産地では販路拡大が大きな課題となっているが、特に海外向けとなると情報が不足しており、どこの誰に何が売れるのか、言葉の壁もあって思うように進んでいないのが実情だ。また少量多品種生産のため、商社経由の販路にも乗りにくく、生産者は海外からの細かい問い合わせ対応など手間をかけられない事情もある。もっと気軽に海外の消費者に商品を直接届けるシステムが出来ないものかといった発想から、このサイトを立ち上げたのだ。
これまでも大手の電子商取引サイトで伝統工芸品を扱う例は少なくないが、全国の伝統工芸品に特化して一つのサイトにまとめたのは初めて。日本語の他に英語と中国語版を用意して、自動翻訳や翻訳代行に頼らず、伝統工芸品に詳しいスタッフによる手翻訳でサイトを作成している。商品情報だけでなく、商品や産地の歴史、生産工程、職人のプロフィールなどの情報発信をする一方、出品者に対して海外からのアクセス情報(購入に至らなくても、どこのどんな人からどの商品にアクセスがあったか等)をフィードバックするサービスも行う。また海外消費者からの問い合わせ対応の代行、生産者とバイヤーの仲介、さらには海外での見本市参加やイベント実施、各種プロモーションまで支援する。通常のサイトと並行してフェイスブックなどでの情報発信も行っている。
日本の伝統工芸品とITとの協業である。各伝統工芸品の販売から各種サービスまで一括して支援していくのが特徴だ。すでに海外からの多くの注文が入っているほか、地方自治体からの問い合わせや事業協力などの相談も寄せられているという。日本ユニシスの担当者は「日本の伝統工芸品に対する海外のニーズは予想以上に強いものがある。それにこたえるツールが出来た。これを通じて、海外からの観光客誘致、さらには地域の活性化と雇用創出につなげる事業モデルを目指したい」と意欲を語る。
日本の良さ・強さにもっと自信を~工夫次第で可能性広がる余地あり~
ちょうどこの原稿執筆の合間にネットでニュースをチェックしていたら、「岐阜産の升、NYで人気」という記事が目に入った。それによると、岐阜県大垣市の地場産品「升」が置物や小物入れなどの「おしゃれな雑貨」として注目を集め、高級服飾ブランド「ポール・スミス」のNY店でよく売れているという。
これら伝統工芸品は長年にわたる日本人の知恵と技術が詰まっている。いわば、ものづくりの原点である。たしかに多くの伝統工芸品は衰退しつつあるものが少なくないが、海外に目を向けて工夫すれば、もっと可能性を広げる余地はあるのではないか。あるいは日本ユニシスのjcraftsのようにIT産業という異分野との協業など、違った視点からのアプローチも有効かもしれない。
長引く経済不振で、多くの日本人は何事につけ自信を失いがちになり、内向きの発想に陥りがちだった。しかし日本の良さや強さ自体がなくなってしまったわけでは決してないのだ。今、アベノミクスによってようやく日本経済は浮上の可能性が出てきた。そんなときだからこそ、アベノミクスに期待するだけではなく、我々日本人が自らの力にもっと自信を持って前へ出ていく意欲と気概を発揮したいものだ。それが日本経済の再生を支える力にもなると確信している。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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