モテるようになるために、素敵な人になるために……、洋服を着る前の状態から、洋服の選び方、ミラネーゼの話まで、さまざまな角度からいろいろな話をしてきましたが、今回は、いよいよ核心部分である船旅の魅力に触れたいと思います。
先日、休暇とカタログのイメージを撮影しに、地中海~アドリア海10日間クルーズを楽しんできましたので、そこで経験したことをお伝えしたいと思います。
そもそも船旅の魅力とはいったい何なのでしょう?それは宿泊地までの移動や待ち時間が多い飛行機の旅とは違い、いったん船の中に入ってさえしまえば、あなたとあなたの荷物を快適に運んでくれることです。言ってみれば……「移動型の5つ星ホテル」。宿泊はもちろん、映画や劇場でのエンターテイメント、カジノ、スパ、美味しいレストランでの食事、寄港地での観光など、移動しながら、一度にその魅力を味わえてしまうことが魅力なのです。
では、クルーズの目的とは何でしょう?成熟した日本のマーケットでは、物を消費するだけの時代は確実に終焉を迎えています。これからは大切な人(家族、恋人、友人)と一緒に過ごす、かけがえのない時間こそに価値が問われていくのです。例えば、エルメスのバーキンという100万円以上するバッグを買うことは、女性にとっての憧れですし、何年も愛用出来るようなものを買うことは、人生にとって大事なことだとも思います。ただ、エルメスのバッグを買っただけでは素敵になれないんですね。
やはり、そのバッグが似合うようなライフスタイルを送り、自分自身の中身を磨くことで、エルメスのバッグが似合うようになると思うのです。エルメスのバッグをいくつも買って所有するだけなら、その半分の値段、例えば50万円で行けるような「地中海クルーズ」に一度でも出かけてみてはいかがでしょう?大切な人と一緒に五感で刺激を感じることや思い出作りが、心の豊かさにつながり、かけがえのない人生の宝物になります。人生は思い出の集積なのですから。
クルーズの目的とは……?それは、ずばり物欲ではなく、精神的な満足感を得ることにあります。日本でクルーズ(船旅)というと……、「一生に一度」、「船の中は退屈?」、「お年寄りの旅?」、「値段が高い!」、「言葉が心配」のような固定したイメージが強くあります。しかし、アメリカをはじめとする欧米諸国では、もっともっと見近になり、ライフスタイルの一部になっています。
欧米では、夫婦、恋人同士「2人でひとつの単位」という感覚があります。僕がお会いした2人のなかでも、そんな理想とでも言うべき素敵なご夫婦と言えば……。ピエール・ルイジ・ロロピアーナのご夫婦です。ロロ・ピアーナとは、妥協なきクオリティを使命として、イタリアを拠点に6世代にわたり高級カシミヤやビキューナ、極上ファインウールなどを世界のトップブランドに提供しているトップテキスタイルブランドです。
ラグジュアリーなライフスタイルを提案していて、メンズ、レディス、子供服、ホームファニシングなどがトータルに揃う知る人ぞ知るイタリアブランドの王様。写真からでも2人の愛が伝わってくるでしょ。2人ともシックなネイビーでまとめているのに、とても華やかに見えます。
日焼けされた肌に似合うネイビーのワンピース、美しいカッティングのバックストラップのハイヒール、健康的で艶のある髪の毛、ジュエリーはつけずに胸元はバーンと大胆に開けて……、すべてコンサバティブなものを着ているのに、不思議とセクシーさも感じさせてくれます。
そんな美しい奥様の隣には、控え目に堂々とシックなストライプのネイビースーツを着こなす旦那様。シルクサテンのネクタイの色の選び方から、白い麻のチーフの入れ方、黒い靴の選択まで、極めて控え目なのがいいんですよね。スーツの柄も、極めてオーセンティック。ダブルブレステッドのスーツも、6つボタンの下1つがけというのが、貫録と優雅さを感じさせてくれます。
2人とも日本人みたいに、変にダイエットみたいなことを意識していたり、白髪を気にしていたりしないで、年相応なことを楽しんでいるようにも見えます。夏の夜のパーティなので、夜の色に似合うミッドナイトブルーのコーディネイト。ちなみにですが、船の上では当然船に似合うネイビーと白の着こなしに変わります。やっぱり大事なのがT.P.O.なのです。
そしてもう一つ大事なのが、流行に流されないということなんです。流行は「流れて行く」と書きます。毎年のように雑誌やブランドが提案する流行に流されていたら、まるで自分がない人みたいでしょ。いくらお金があってもキリがないし。流行なんて鵜呑みにしないで、自分の似合うスタイルや洋服を見つけることが、素敵になることの始まりなんですね。
そうそう、このご夫婦からは、物質的豊かさではなく、心の豊かさこそ、人生後半における大切な財産だということを教えてもらいました。「移り変わる流行よりも普遍的な美しいスタイルを」、「多くの粗悪な物ではなく少しの良い物を」。僕の哲学の根幹を教えてくださった素敵なご夫婦……こんな大人の2人こそ、さまざまな人からモテると思うのですが、いかがでしょうか?
干場義雅ほしばよしまさ
ファッションディレクター
東京生まれ。スタイルクリニック代表取締役。三代続くテーラーの家に生まれる。「POPEYE」でモデル、BEAMSで販売を経験後、出版社へ。「MA-1」、「モノ・マガジン」、「エスクァイア日本版」などの編…
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