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2013年06月25日

モチベーションは大切か?

昔、勤めていた会社で人事マンをしていた頃、転職してきた方から「この会社は、モチベーションの高さを大切にする人が多いようだが、仕事にモチベーションなんて必要なんですかね?」と言われたことがあります。「自分の役割ややるべき業務がしっかり分かっていて、それを全うするスキルがあれば、モチベーションなんてあろうがなかろうが、ちゃんと仕事はできるだろう。なのに、なぜモチベーションを盛んに口にする人が多いのか不思議だ」と言うのです。

これは私にとって、新鮮な問いかけでした。当時の会社は平均年齢が20歳代の若い集団なので知識も経験も乏しく、色々な出来事に対しての対処法やケアすべきことを誰も知らない、やってみないと分からないということが普通でした。また、組織が急激に拡大していましたから、各々の役割や仕事がどんどん変化していき、ミッションが曖昧になってしまうきらいもありました。そんな状況下で必要だったのは、情熱や前向きさであり、時には気合と根性であったことは間違いありません。その問いかけは、「モチベーションを、知識や技術の不足、組織運営の稚拙さの言い訳にしていないか?」ということだったように思います。

以来、私は「モチベーションが何より大切だ」という議論に対して懐疑的になりました。そもそもそれは、日本人の労働観にそぐわないようにも思えます。厚労省の調査などでも明らかなように、日本人は「勤労は美徳である」と考えてきました。高齢者の多くが「定年後も働き続けたい」という意向であるのも、経済的事情もあるとはいえ、基本的には日本的労働観の表れと見るべきです。日本人にとって勤労は美徳であり、それはすなわち、モチベーションなどと言われなくとも、前向きに、やる気を持って仕事に取り組むことができる民族だということです。

旧約聖書には、「禁じられた果物を食べてしまったアダムとイブが、神から罰として労働を与えられた」とあります。英語で労働を表すlaborの語源は「難儀」、同じようにフランス語で労働を表すtravail(トラバーユ)の語源は「拷問」だそうです。businessも「忙しい」が転じたものですから、そもそも欧米人にとって、労働はネガティブなものであったことが分かります。そういう民族には、モチベーションは欠かせません。嫌なことをする、避けたいことに取り組むのですから、「モチベーションが何より大切だ」となるのは実に分かりやすい話です。報酬や労働契約、労働時間に対する考え方が大きく異なるのも、このような労働観の違いに起因すると考えるのが自然でしょう。こう考えれば、労働を美徳だと考える日本人に対して、難儀だと考える欧米人向けの手法でモチベーションを高めようとするオカシサに気付くはずです。

モチベーションなど、どうでもよいと言うつもりはありません。確かに、会社や職場、働き方や労働に対する考え方は変化してきていますから、勤労を美徳と考える日本人であっても、モチベーションアップが課題なのかもしれません。しかし、冒頭のエピソードにあるように、業績や組織が思い通りにいかないのは、モチベーションではなく、教育不足による知識・技術の乏しさが原因なのかもしれませんし、組織運営が稚拙だからなのかもしれません。また仮に、モチベーションアップが課題だとしても、その向上施策が効果を発揮しないのは、労働観の異なる欧米人向けのものを無思慮に導入しているからかもしれません。

いつの頃からか、うまくいかない原因を「モチベーション」に求め、モチベーションアップをテーマに研修などを行おうとする会社が増えました。幹部から新人までモチベーションアップを課題とし、売上不振は営業マンのモチベーションの問題となり、最近では「今後は女子社員のモチベーションを引き上げなければ…」といった会話がなされています。意味が曖昧なので使いやすく、従業員個々の内的な問題にできる気楽さもあるかもしれませんが、組織運営にそう簡単な話はありません。経営者も人事部も、本当にモチベーションが問題なのか、大切なのかと考える必要があるのだろうと思います。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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