7月20日から、スペイン・バルセロナで世界水泳が開催されます。今回はシンクロ競技の解説として関わらせて頂くことになり、つい先日はシンクロ日本代表合宿の公開取材に参加させて頂きました。
公開取材日ということでしたが、当日は国際資格を持つ審判員や強化部の先生方が全種目(ソロ・デュエット・チームのテクニカルルーティンとフリールーティン、2003年の世界水泳から新種目として加わったフリーコンビネーションの計7曲)の仕上がり具合をチェックするという日でもありました。
選手にとっては神経的にも、疲労度としてもかなりハードな1日だったと思います。1日に全種目を通しで泳ぐのは本当に過酷です。1曲泳ぐ毎に筋肉が笑うと言いましょうか、ワナワナ、ガクガク震えるほどの筋肉の酷使です。遥か9年前、私も演技をお見せする側だったことが懐かしくもありましたが、そのハードさや先生方のコメントをお聴きする時の緊張感までもが蘇ってきて、少し息苦しいような感覚になりました(汗)。
それはさておき、今回のようなシチュエーションの日は、色んな意味で学ぶことができます。例えば、自分の身体との対話が学べます。そして、弱気に打ち勝つというメンタル面での学びにもなります。また、たくさんの曲を泳ぎこなさなければならないので、筋肉のダメージを最小限に留めるために無駄のない動きを無意識に探します。かといって、全力を尽くさず泳ぐと、動きのダイナミックさは失われ、先生方から頂くコメントも厳しいものになるため、同時に完成度も求めなければなりません。このような非常に難しい条件の中で「泳ぎきる」という実績を作ることができれば、それだけでも心理的なプラス要素になります。試合と同じような緊張感で、一つでも手応えを掴めれば、それは本番での自信に繋がります。
前置きが長くなりましたが、「肝心かなめの現日本代表の演技の出来は?」と言いますと、種目によって、「大変期待が持てたもの」、「残りの日程でスピードを上げて仕上げ直しが必要なもの」、「見せ方にあと一押しのインパクトを加えたいもの」の3つに分類できるように感じました。チームのフリールーティンとフリーコンビネーションは、1つ目に挙げさせてもらった”期待が持てた”演技だったと思います。この2種目は先シーズンから引き継いでのプログラムということもあってか、動きが選手達の体にしっかりしみ込んでいるように見受けられ、課題だった強さや高さ、勢いがずいぶん出て来ているような気がします。たくましく躍動的に見えました。構成も改良に改良が重ねられ、観る者を飽きさせない素早い展開だったと思います。北京五輪以降の低迷期からの地道な強化が実を結んできていると言ってよいかもしれません。
しかし、今年から新しく取り組んだプログラムに関しては、まだ発展途上の部分がありました。それを見せてもらったのが朝一だったので、選手の体にエンジンがかかっていなかったのかもしれませんが、そうも言っていられません。シンクロは採点競技であり、採点は人がしますので、どんな理由があってもやはり初日から、あるいは朝一の時間帯から”今回の日本は何かが違う。勢いがある”という強烈な印象を与え、良い流れを作りたいところです。その良い流れは、連日続く大会日程の中で、審判員団の採点をする際の心理に少なからず影響を及ぼすと考えます。インパクトに少し課題があったその種目は、競技日程の前半に行われるので、なんとしてでも課題を克服してほしいと願うと同時に、それができる能力が既に選手達には備わっていると思うので、楽しみに本番を待ちたいと思っています。
実は、今年の世界水泳が日本シンクロ復活のチャンスだと言われています。オリンピックが終わると、引退に伴う選手層の入れ替えが起こりますが、昨年のロンドン五輪でメダルを獲ったスペインと、それに次いで4位となったカナダに、主要コーチ陣含め大幅な選手の入れ替えがあったため、その強化と体制づくりがまだ間に合っていないという情報が入っているのです。私自身も確認のため、先月のヨーロッパ選手権や各国で行われたオープン大会の演技映像を観ましたが、確かにチャンスだと思います。その2カ国とも、昨年まであったパワーや同調性にほころびが見えました。
一方で、それに代わって日本と同じようにメダル圏内に躍り出るべく、ウクライナの勢いが増しています。また、女王のロシアはと言えば、メンバーの入れ替えなどはどこ吹く風。他の追随を寄せ付けないほど演技の完遂度が上がっており、ある審判の方がロシアの演技を観て「まるで浅い水深のプールで、床に手や足をついて泳いでいるかのように、潜ることなくずっと水面上での演技が続いている」とおっしゃっていましたが、映像を観ただけでもその意味がよくわかりました。独走態勢と言ってよいかもしれません。井村コーチとの契約が終わった中国にも、今回どんな演技を見せるのか注目しています。そして、日本はこのチャンスに食い込めるのか!?
日本の選手たちには「残りの日程の最後の1秒まで上手くなり続ける」という強い意志で練習に取り組み、バルセロナでその成果を一気に爆発させ、是非ともチャンスを掴んでもらいたいと思います。
武田美保たけだみほ
アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト
アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…
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