戦場取材では食料に悩まされることが何度もありました。前線の状況が流動的に移り変わり、食料を調達することが困難を極めることが多く、空腹に苦しみました。食糧難に立たされると、わずかな豆やスープを口に出来るだけでも、体の力がみなぎってくる喜びに震え、食事のありがたみを強烈に感じます。食事を口にできることは、心底ありがたいことだと痛感してきました。
食事の問題はカメラマン以上に、現場で実際に戦い続ける兵士にとって大きなダメージとなります。食事に泣かされることは、戦況を落とし込んでしまうほどに影響力が甚大であります。それ故、兵士の体力・気力を蓄える為に、戦火の食生活に力を入れている軍隊がほとんどであります。アフガニスタンで従軍取材をおこなったアメリカ軍は、その最たる食環境に守られていました。
アフガニスタン南部カンダハールにあるエアーフィールドと呼ばれる前線基地には、ここは戦場なのかと目を疑うほどに、レストランが軒を連ねていました。兵士は、軍部規定の食堂で毎日、全食無料でビュッフェスタイルの食事をとることができました。そこにはステーキやピザ、パスタなど欧米色豊かなメニューが並べられていました。こうした食堂以外にも、キャンプ地のなかには、ファーストフード店やカフェ、スーパーなどが点在し、兵士たちは必要なものをいつでも手にすることができました。
キャンプ地のレストランでは、諸外国から契約を結んだスタッフが出稼ぎのかたちでアフガニスタンまで足を運び働いていました。祖国での仕事よりも収入が高く安定しているので、多くの国の方々はもちろん、アフガニスタンの方までもキャンプ地の中で働いていました。
兵士の年齢は20代が多く、祖国の食文化を現場に持ち込まなければ、士気が下がってしまうと耳にしました。食べ慣れた食事が、健康に大きな影響を与えることを見せつけられました。アメリカ軍に限らず、韓国軍の取材ではキムチ、イラクに派遣された日本の自衛隊取材ではみそ汁など各国のソウルフードが戦場で大切な力となっていました。『食は力なり』。戦場に立ち、改めてこの言葉の意味を理解することができた思いであります。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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