グローバルスタンダードに合わせた誘致活動
2020年の東京オリンピック開催が決まった。これが景気回復一段と後押しする効果にとどまらず、日本経済の再生という観点からも大きな役割を果たすことは確実だろう。今回の招致成功の要因を一言にまとめると、「グローバル化と日本らしさの融合」という言葉で表現できる。それは同時に、日本経済再生のヒントでもある。
誘致成功の要因としてまず挙げられているのが、積極的なロビー活動。4年前の招致失敗の教訓から、今回は日本の招致関係者がIOC委員に積極的に働きかけたという。テレビでは日本の関係者がIOC委員と話し込む様子やハグをする場面なども流していた。
報道によると、安倍首相も今年に入って東南アジアや中東などを訪問した際に、訪問国の首脳に直接働きかけていたという。
もともと日本人は政治や経済の分野でもロビー活動が苦手といわれている。しかし海外ではロビー活動のようなことは当たり前で、いわばそれがグローバルスタンダードである。「ロビー活動はちょっと…」などと言っていたら成果を挙げることは出来ない。そこを今回は見事に乗り越えた。
今回の様子を経済活動になぞらえれば、日本企業がグローバルスタンダードに合わせて臆することなく売り込んだ結果、大事な商談で海外企業に競り勝ったというところだろう。
「日本の良さ・日本らしさ」を前面に
最終プレゼンテーションも大成功だった。各プレゼンターの、あの日本人らしからぬ身振り手振りや表情は、海外のIOC委員にアピールする効果があったようだ。事前に相当な練習と準備をしたそうだが、これもいわば、グローバルなやり方に合わせて成功したといえる。
もちろん、スピーチの内容も全てすばらしいものばかりだった。話題となった滝川クリステルさんの「おもてなし」をはじめ、多くのプレゼンターが日本の治安の良さ、財政的な確実性など、日本と日本人の良さを強調し、IOC委員の心をつかんだ。
つまり、プレゼンテーションの中身は日本らしさを前面に出し、かつスタイルはグローバルなやり方に合わせていく、というやり方が成功したといえる。こうしてみると、グローバル市場で勝ち抜くためには、グローバルなやり方に合わせると同時に、日本の持っている強さをより活かすことが重要だということだ。「グローバル化と日本らしさの融合」である。
オール・ジャパンで日本経済再生を
これまで日本企業や日本人はどちらかというと「内弁慶」で、グローバルスタンダードに遅れをとることが多く、それがグローバル競争で劣勢に立つ一因となってきた。また一部にはグローバル化に反発する空気もある。その一方で、経済低迷が長く続いた影響から「日本はもうだめだ」と自信を失い、日本が持っている元来の良さや強さも忘れがちになっていた。
しかし、いずれも逆なのである。グローバルスタンダードに合わせることと、日本の良さ・強さを前面に出すことは矛盾するものではない。その両者を融合することは可能であり、このことこそ日本経済が競争力を取り戻すカギとなるものである。
最近は海外で日本の高い技術力や文化などに対して、あらためて評価が高まっている。東京オリンピックはそうした機運を一段と高めるチャンスであり、経済の面でもそれをうまく活かしてグローバル市場に打って出ていくことが必要だ。
誘致成功のもう一つの要因は、オール・ジャパンで取り組んだことである。東京オリンピックの決定は直接的な経済効果だけではなく、日本が一つにまとまる機運を作り出す効果も期待できる。日本人が前向きで明るい気持ちになって、日本経済の再生もオール・ジャパンで実現したいものである。
岡田晃おかだあきら
大阪経済大学特別招聘教授
1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…
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