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2013年11月05日

「明治の産業遺産」を世界遺産に~日本経済の底力ここにあり

日本のものづくりの原点~8県28施設

 政府はこのほど、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」を世界文化遺産の候補としてユネスコに推薦することを決め、これをうけて世界遺産登録への支援活動を展開する「産業遺産国民会議」が発足した。2015年度の登録をめざしている。
 産業革命遺産は、軍艦島の名で知られる長崎市の端島炭坑、長崎造船所、八幡製鉄所など、九州・山口を中心とする8県の28施設で構成されており、幕末から明治にかけて重工業の基礎となった跡を物語るものだ。これらは単に歴史的な遺産というだけではなく、日本のものづくりの原点を示しているという点で、今日的な意義がきわめて大きい。

鹿児島の「集成館」~ペリー来航前から近代化事業

 産業革命遺産の28施設の中で最も古いものの一つは、鹿児島市の「尚古集成館」だ。この施設は、1851年(嘉永4年)に薩摩藩主に就任した島津斉彬が欧米列強に対抗できる軍事力と経済力を身につけようと、大砲を鋳造するための反射炉(製鉄所)をはじめ造船、紡績、ガラス、活版印刷などの工場群を建設した跡で、現在は反射炉の以降が保存されているほか、集成館本館が重要文化財にしてされており、内部には当時実際に使われた紡績機械や小型旋盤などが展示されている。
 これらを見ると、薩摩藩が近代化に取り組んだ時期の早さと技術水準の高さに驚かされる。1851年といえばペリー来航(1853年)より前。まず取り組んだのが反射炉の建設で、オランダ人が書いた大砲製造法の翻訳書を入手し、それをもとに反射炉の建設を試みた。しかし何度も失敗し、斉彬は「西洋人も人なり、薩摩人も人なり」と言って激励したとの話しが残っている。こうした試行錯誤の末に反射炉の建設・稼動に成功したのだった。
 反射炉は耐火煉瓦壁を塔のように積み上げて建設するものだが、炉の内部は1500度程度の高温に保つ必要があるため、耐火煉瓦には高い品質が要求される。そこで耐火壁の建設に薩摩焼の陶工を動員し、薩摩焼の技術を応用した。西洋の最新技術を導入しつつ、薩摩で培われてきた技術と西洋技術を融合させたのである。
 こうして出来た反射炉の周辺に工場を集め、ここを拠点に薩摩藩は近代化を成し遂げた。当時の様子を見ていたオランダ人が「日本人は図面だけをもとに短期間で機械を完成させた。驚異的なことだ」と書き残しているそうだ。
 まさに、これが日本のものづくりの原点であり、幕末以来こうして培われてきた底力は現在の我々に引き継がれているのである。

現在まで100年以上稼働中の設備も

 「産業遺産」のもう一つの特徴は稼働中の設備も含まれることだ。三菱重工業長崎造船所のジャイアント・カンチレバークレーンは1909年に建設されたものだ。これは、大砲やタービンなど大型機械の船舶への搭載と陸揚げのために使われたもので、現在も設置場所は移設されたものの、現役で働いている。また新日鉄住金の八幡製鉄所では1910年に建設された取水ポンプが現在も稼働中だ。
 いずれも、実に100年以上にもわたって稼動し続けているのだ。それだけの設備を作った技術力の高さ、その後のメンテナンスの確かさ――ここでも日本経済の底力を実感することができる。
 今回の世界遺産登録への取り組みは、こうした稼働中の設備を抱えている企業の経済活動とも両立させながら、歴史的な遺産の保存を図るという新しい挑戦でもある。

「産業遺産国民会議」で支援活動を展開へ

 このほど発足した「産業遺産国民会議」は、名誉会長に今井敬氏(元経団連会長)、会長に小島三菱商事会長をはじめ、経済界トップや地元自治体、有識者などが参加しており、私も縁あって設立発起人の一人として参加している。今後、海外の有識者を招いての国際会議などを開くほか、国内外での広報、PR活動を展開していく予定だ。
 産業遺産の世界遺産への登録は、我々日本人が日本経済の底力を再認識するとともに、それをあらためて世界に向かって発揮していくことにもつながるものであると確信している。日本経済が再び元気を取り戻そうとしている今こそ、この産業遺産の価値を多くの人に知ってもらいたいと願っている。
 少しでも多くの人が産業遺産を訪れて、日本経済の底力を実感してほしいと思う。そして世界遺産登録への支援をお願いします。

岡田晃

岡田晃

岡田晃おかだあきら

大阪経済大学特別招聘教授

1947年、大阪市生まれ。1971年に慶應義塾大学を卒業後、日本経済新聞社へ入社。記者、編集委員を経て、テレビ東京へ異動し、「ワールドビジネスサテライト」のマーケットキャスター、同プロデューサー、テレ…

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