私も”新人類”と呼ばれた世代であるように、ベテランが若手社員に違和感を覚えるのは、今に始まったことではありません。考えてみれば、時代が変われば生まれ育った環境も変わるので、世代によって行動や思考の様式が同じでないのは当たり前。「イマドキの若手は・・・」などと愚痴ってみても仕方がありません。違いをどのように活かすか、どうように正すかと考えることが大切です。
昨今の若手社員については、しつけがなってない、受け身でチャレンジしない、打たれ弱いといった点が指摘されがちですが、私がもっとも違和感を覚えるのは、彼らが「質問しない」こと。会話というのは、一方が質問をすると一方がそれに答え、今度は答えたほうが質問を返して回答してもらう。そんな質問と回答のやり取りが基本的な形です。この意味は、質問というのは相手に対する関心の表現であり、互いに関心を持ちあっている状況を作り出すことによって、調和的な関係を作ろうとするものです。私も含めてこのように考える人間は、「質問されない=関心を持ってもらえていない」ということになるので、ガッカリした気持ちになるし、場合によっては相手を失礼な人間だと感じてしまいます。
若い人たちには、質問されるのを待っている人がとても多くいます。質問をしてあげると喜々として答えるのですが、次にこちらに質問が来るかと思えば黙っている。たまりかねて、また質問してあげると、活き活きとした表情で話しはじめる。これが続きます。それはまるで、対話ではなく、インタビューされている状況の、政治家や経営者や芸能人のような姿勢に見えるのですが、このような若者たちについて次の二つの点を指摘したいと思います。
一つは、他人に対する関心が低下していること。ある若者に「なぜ質問しないの?」と訊いたことがあります。一方通行の対話に耐えかねて、そう尋ねたのです。彼は「質問が出てこない・・・、思いつかないんです。」と答えました。長年連れ添った夫婦ならまだしも、1~2回、数時間しか会ったことがない世代の違う人に対して質問を思いつかないなど、普通はありえないことです。質問が出てこないのは、相手に関心がないからでしょうが、関心を持たなくてもいいように育てられたのが原因だと考えられます。親や先生が怖ければ、その顔色や様子に対して関心を持つはずです。友達とのケンカや軋轢を経験してきたら、関心を払う習慣が出来るでしょう。野生動物なら、周囲に関心を持たねば死活問題になりますから、生命力、生き抜く力が低下しているとも言えるかもしれません。
もう一つは、「サービス精神」の低下。質問は相手に対する関心の表現ですから、相手は関心を持ってくれたという嬉しい気持ちになります。また、ほとんどの人は聴いているより、話しているほうが気分が良いし、楽なものです。したがって、質問とは相手を喜ばせてあげよう、良い気分にしてあげよう、楽な気持ちにさせてあげようというサービス精神の表れとも言えます。サービス精神が貧しいのは、サービスを受ける側にばかり立ってきたからでしょうか。親があれこれと世話を焼いてくれるし、先生も手取り足取り親切に教えてくれる。自分のことだけ考えていればよく、他人や周囲のために、面倒なことや見返りのないようなことをやったことがない。もしそうなら、質問によって相手を喜ばせようという発想など、まったくないのは当然でしょう。質問がツボにはまって相手はスイッチが入ったようにしゃべり始め、その話をしっかりと受け止めていると、相手はこちらに好感を抱くものです。つまりサービス精神を発揮すれば、それが自分にちゃんと戻ってくるのですから、もったいないことです。
とは言え、育ちのせいにしているようでは問題は解決しません。質問の持つパワーを理解させ、しっかり他人に質問できるようにしてあげることは、昨今の若手育成における重要なテーマであろうと思います。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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