エジプト好きの方はたくさんいると思います。ピラミッド、スフィンクス、ツタンカーメン…歴史とミステリーの国エジプトは観光大国として世界遺産の宝庫であり、日本はもちろん世界中からの旅行者が後を絶ちませんでした。その魅惑の国エジプトがいま大きく揺れています。
『アラブの春』と呼ばれた中東一帯の民主化運動。この運動は、国民が公正に選んだリーダーのもとに国を創っていこうという日本や欧米では当たり前である民主化運動への挑戦でした。エジプトではムバラク元大統領が約30年もの間、独裁政権を敷き、一部の特権階級に権力やお金が集中、ほとんどの国民が貧困から抜けだせない状態が続いていました。そこでエジプトの若者たちがインターネットを使って、汚職された政府を自分たちの手で創り直そう、皆で国民選挙を開いて公正なリーダーを選ぼうという革命を起こしました。誰しもが不可能と思われたこの連帯運動で、独裁政権のムバラク元大統領は失脚、エジプト初となる国民選挙が行われ、ムルシ新大統領が選出されました。歴史を塗り替える国民の偉業に誰しもが歓喜の声をあげました。しかしこの新しい指導者が選挙基盤であった国民の声ではなく、イスラム教の教えを大切にする人たちに有利な政治を進めようとした為、国民が再び激怒。エジプト軍と結束してクーデターをおこし武力で新しい大統領を引き摺り下ろしました。そして再び選挙を開いて今度こそは公正なリーダーを選ぼうという流れが進みました。こうした歴史の渦中にあるエジプトに飛び込んでみると、旅行者で溢れていた観光地は人の数もまばらで、戦車や警察官が道路を封鎖する緊迫した状態に陥っていました。
民主化運動の中心部であったタハリールスクエアという広場にはほとんど人影はなく、公園脇のカフェで働く男性はこう言っていました。 「民主化運動は大切だが、はやく観光客に戻ってきてほしい。生活を立て直したい。」
タハリールスクエア内には、いまでも破壊された看板やテントの残骸が散らっており、市民があと片付けをしている姿もありました。フルーツ店の男性は「早く仕事を安定させたい。いまのままでは観光客はもちろん、我々でさえも不安を抱えながらの生活を余儀なくされるからね。」カイロの国際空港では空港スタッフやお客が一斉に合同礼拝を始めていました。イスラム教の戒律である1日5回の礼拝では神に祈ることはもちろん、家族の安泰 そして国の安全を想っていると語っていました。空港のなかで突如一斉に始まった巨大合同礼拝からはエジプトの結束力と国を想う初心を感じさせるものがありました。
中東の指導者であるエジプトの安定が周辺アラブ国の安定につながることは世界が認めざるを得ない現実であります。エジプトに再び世界からの観光客が戻る日を祈ってやみません。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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