デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉は10年ほど前からあると言われていますが、IT業界でよく使われるようになったのは、2015年末に調査会社のIDCが「2016年はDXエコノミーの時代になる」との予測を発表したのがきっかけだったと思います。
その後2018年に経産省が「2025年の崖」レポートを公開し、一般企業の皆様にもその言葉が浸透しました。以後、多くの企業で「我社もDXを」という機運が起き、「DX推進室」などの部門が創設されたり、PoC(概念実証)の試みが行われてきました。
しかし、DXの定義が曖昧なままに政府や企業が走り始めた結果、企業側に「どのように進めたら良いのか」という迷いが広がっていることは、本コラムの第1回でもご紹介したとおりです。それどころか、最近ではあちこちで「DX疲れ」とでも言うべき現象が起きているようです。PoCを繰り返してきたが成果が上がらない、相変わらず具体的な道筋が見えない、などの理由から、企業内でのDX推進の機運が徐々に冷めてしまっているというのです。
しかし、DXという言葉の功罪はさておき、さまざまな改善を続けて改革を行っていくことは企業にとって必要です。やめるわけには行きません。そこで、「DXはよくわかないしどうしたら良いか」とお考えの方に、是非参考にしていただきたい言葉があります。
それは、「バイモーダル」です。バイモーダルと言う言葉自体は米調査会社ガートナーの造語ですが、ソフトウェア開発における2つのやり方を指します。モード1は、基幹システムなどの失敗が許されないシステムを開発するモードで、安定性を重視します。ウォーターフォールに代表される、従来型のソフトウェア開発手法ということもできます。そしてモード2は、時代の変化にいち早く対応するためにスピード重視で開発するモードで、Webサービスなどを開発する際に有効です。この場合にはアジャイル開発などの手法を使うことになります。
ここで重要なのは、2つのモードの「どちらも大切」なのだということです。世の中のDXに関する議論を見ていると、新規開発チームのような新しい部門ができて、「古いやり方は捨てて、すぐにでも変革すべき」という極端な議論になってしまう例が見受けられます。しかし、これまでうまく動いていたシステムを即座に捨ててしまっては、業務の遂行に支障が出ることもあり得ますし、それを開発し運用していた部門を敵に回しかねません。既存部門の協力を得られなければ、新しい試みもうまくいかないのです。
これまでのシステムをリスペクトし、活かしながら、新しいアイデアをどんどんデジタルで実現していく。その先にこそ、DXが見えてくるのではないでしょうか。
大越章司おおこししょうじ
株式会社アプライド・マーケティング 代表取締役
外資系/国産、ハードウェア/ソフトウェアと、幅広い業種/技術分野で営業/マーケティングを経験。現在は独立してIT企業のマーケティングをお手伝いしています。 様々な業種/技術を経験しているため、IT技…
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